をさなごのやうに

2009年8月 6日
カテゴリ : 多読, をさなごのやうに
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社会人からはじまった多読(多聴、読み聞かせ)が、広がって、広がって、学校にも
入りつつあることは「学校訪問」でお知らせしているとおりです。

また、児童英語教室でこどもたちがどんな変化を見せているかについてもときどき
紹介してきました。

では、家庭ではどうなのでしょうね? 

実はいくつもメールをいただきますが、すべては紹介していません・・・

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なぜ紹介しないかというと、保護者のみなさんを煽ることになりかねないと考える
からです。中には「熱心すぎる」ように見える人たちがいて、こどもを「バイリン
ガル」のようにするために、普通はとてもそこまでできないだろうという努力を
なさっているようです。「こどもがバイリンガルになったのは多読の結果です」と
おっしゃってくださるのはありがたいのですが、わたしとしては
もうちょっとゆったりと外国語に親しんでほしいと思います。

努力も苦労もいらない多読のはずが、たしかにこどもは嬉々として英語を楽しんで
いても、保護者はそれを可能にするために並大抵ではない努力や苦労をしている
ようにわたしには見えました。そこまでやったらどこかにひずみが出てきやしないか?
わたしはそれを心配して、「もう英語はやめましょう」とか、「小学校にはいったのだ
からすべて放っておきませんか?」とか、「こどもは生まれたときから親の手の中に
なんかいないのですよ」などと説教をしてしまい、結局そうした保護者の方とは
疎遠になっています。

さて、これから紹介する例は <保護者が熱心すぎない> 場合の変化のように
わたしは思っています。そこで、「英語育児」や「英語子育て」で過熱している世の
中に、保護者とこどもが一緒にのんびり絵本を楽しむだけでこんな風になる
可能性がありますよ、と知らせるために紹介します。

願わくば、「英語身につけろ-!」オーラを消す保護者が増えますように・・・


酒井先生、大変ご無沙汰して申し訳ありません。
たくさんお伝えしたいことがあります。

・ 絵本の読み聞かせのみでやってきた、英語教室のこどもたちが少しずつ
変化を見せています。

文字のない絵本に、文章をどんどんつける子(5歳)、逆に文字がすらすら
勝手に読めるようになってしまってのめりこむように絵本を読む子(5歳)など。
その様子も録音したので、先生にご報告しなきゃ、と思っていました。

・ 息子が、お布団の中で、勝手に英語でお話を作っていることは、お忙しい
中録音を聞いていただいたとおりですが、もしお役に立つのなら、あらためて
お聞きいただこうと思います。

・ 高学年の子にも、未だ文法も何も教えていませんが、本のレベル、楽しみ
方も、本人達が気付かないうちに、どんどんレベルアップしてきています。
このまま中学に突入したら、戸惑うかなと心配しつつも、英語を英語のまま
捉える彼らの力強さを感じています。

それぞれをもっと、改めて詳しくご報告しようと思いますが、今日は、息子のFrog and Toadについてご報告させてください。

我が子の英語力が見えなくて、焦って、英検などで測ろうとする親御さんが
少なくないように危惧して、書いたものです。

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息子の今の英語力が見られた、昨夜の話をご報告します。
どうか「自慢話?」と仰らず、自然に、長く、英語絵本と関わってきたことの
一つの結果だと捉えていただければ幸いです。

昨夜の本は、お馴染みFrog and ToadシリーズのFrog and Toad
Togetherでした。

そこへ夫が顔を出しました。むすこは、父が英語をまるで使えないと思って
いる。(本当は、Frog and Toadぐらいなら普通にわかりますよ。ね、パパ。)
そこでこの日、「ねえ、ママが英語で読むから、パパにこのお話を説明して
あげて」つまり、通訳をやらせてみたのでした。では"Cookies"というお話から。
(*註・Frogはかえるくん、Toadはがまくんと呼んでね、と最初に伝えました。)

私 : Toad baked some cookies. ”These cookies smell very
    good!”  said Toad.
むすこ(父に向かって): 「がまくんはクッキーを作りました。このクッキー、
    おいしそうなにおいがするなあ!とがまくんはいいました。」だって。
夫: ふーん。
・・・
私 : Frog ate one of the cookies. “These are the best
    cookies I have ever eaten!” said Frog.
むすこ: 「かえるくんは、クッキーを一個食べました。こんなおいしいクッキー
      たべたことないよ!とかえるくんはいいました。」
夫 :ふーん。

(私は”the best cookies I have ever eaten”も、普通に理解しているので、ちょっとびっくり)

・・・ここで、FrogとToadはクッキーを食べ過ぎると気持ちが悪くなるから、
そろそろ食べるの、やめよう、と言い始めます。でも、やめられない、とまら
ない。もぐもぐ。

私 : “Frog” said Toad, “let us one very last cookie, and then
    we will stop.”
むすこ : 「かえるくん、これでほんとにっ、ほんとにっ、ほんとーーーーーっの、
    さいごのクッキーにしよう。それでおしまいだよ。と、がまくんは言いま
    した。」
夫 : いつものきみの科白じゃないか。
(確かに。おやつの追加をお願いするときの、むすこの科白です。)

私 : (…Frog,クッキーを食べながら)”we need will power.”
むすこ : パパ、will powerってわかる?
夫 : わからん。
私 : じゃ、続き読むよ。”What is will power?” asked Toad.
    “Will power is trying hard not to do something that you
    really want to do,” said Frog.
むすこ :あのね、やりたくてたまらないことを、ぐぐぐってがまんする力だよ。
    例えば、トイザらスに行ってトミカを見て「買って」って言いたいんだけ
       ど、それをぐぐってがまんするの。
これは、私が以前説明した言葉です。
夫 :ふーん。

…結局、食べることをやめられないFrogは残りのクッキーを全部、外の鳥
にあげてしまいます。

私 : He shouted in a loud voice, “HEY BIRDS. HERE ARE
    COOKIES!”
むすこ : 「Hey, birds!(英語そのまま) クッキーだよ~ん♪」

私のHere are cookies!と同じイントネーションで 「クッキーだよ~ん」と
言ったので、夫はぷっと吹き出しました。

They(birds) picked up all the cookies in their beaks and flew away. のbeaks=嘴(くちばし)、分かっていたし、飛んで行ってしまう様も
普通に日本語に直せました。
“Now we have no more cookies to eat,” said Toad sadly.
の no more cookies to eatは、高校の英文法で「不定詞の形容詞的
用法」とよばれるやつです。でも自然な日本語をつけてくれました。
クッキーがなくなってしょげているToadの科白
“You may keep it all, Frog,”
は、日本語にするにはちょっと難しかったかな。
まあ、この調子で最後まで、立派に通訳を務めてくれたのでした。

「すごいなぁっ!」
と心底感心し、一瞬誉めてやろうとした夫でしたが、急に
「いやいや、たいしたことじゃない。ふつーだ、ふつー。
全然自慢することじゃないんだぞ。」
と慌てて言い直したのには、何か意図があったのでしょうか。
不自然なリアクションでしたけどね(笑)。

Frog and Toadのお話は、2年生の国語で出てきます。
1年の教科書に出てきたI'll always love you, 今習っているSwimmy
なども原書で読んであげています。今回のように、和訳や通訳をさせた
わけではないけれど、普通に感動したり、おもしろがったりしているので、
だいたい理解しているのでしょう。
英語絵本の読み聞かせ以外、何の英語教育もしなかったむすこが、
つまり7歳で、小二の国語の教科書にでてくるお話が、英語で理解できる
ようになっていました。日本語に換えて、人に伝えることも出来ました。

翻訳をやらせ過ぎると、英語を英語のまま捉えることが疎かになるので、
また当分はやらせないつもりです。

ただ…彼の英語力を証明するものなんて、どこにもない、と思っていまし
た。それだけに昨夜のことは、彼の英語力が(他人に向けて示すものでは
なく、ただ親の私達だけに)よくわかる、嬉しい出来事でした。

    (なお、このメールはわたしに送られてきたもので、息子さんの名前も
     はいっていましたが、お許しを得てブログに載せるために、名前などを
     変えています。)

たとえどんなにのんびりゆったり英語の絵本を楽しんでいても、
「英語身につけろ-!」オーラを消し去ったつもりでも、そこは煩悩です。
多読で身につけてほしい、どうしてもちょっとは安心したい・・・
そういうときにこんな風に「チェック」できたら安心できるのではないでしょうか?

それと、ほめようとして自分でブレーキをかけたおとうさんがえらい!
この子の場合、何をどういう風に獲得していったのか、それはわかりませんが、
わからないだけに、すごいことが起こるものだと思いました。

    (いや、母語ではだれにでも起きているわけで、ちっともすごいことでは
     ありませんね。すごいのは外国語でもおなじことが起きる可能性を
     示しているところです。)
     

collapse をなぜか獲得していた中学3年生の話を書きました。この男の子の
場合も、the best cookies I have ever ... をちゃんとわかっていたようですね。
わたしはまだ言葉をこどもたちがどういう風に獲得していくか、よくわかっていない
のだとわたしは考えています。to不定詞の形容詞用法や、関係代名詞節や、
仮定法はむずかしいということになっていて、中学校では生な形では出てこないよう
ですが、そういうことはよくわかっていない項目の一つでしょう。こどもたちは
絵本の世界で苦もなく獲得していくようです。