TOEIC対策 西澤さんとの対話 その三

2010年7月24日
カテゴリ : 多読, をさなごのやうに, 多読と受験
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いろいろ西澤さんの論点に意見を書いてきましたが、

  (細かい点でさまざまな意見の相違はあるにしても)

いちばん大きな点ではまったく一致しているという気がしてきました。
それは ドーピングの害 という点、つまり、 

TOEICではなくTOEIC対策に問題

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何度も繰り返しますが、TOEIC自体は悪い試験ではありません。
西澤さんがおっしゃるように、特質をよく見極めて利用すれば、
期待する面について、意味のある判定が出ると思われます。

  (何度も繰り返しますが、あの形の「試験」を避けられないとすれば、です。
   決してあの形だけが試験のあり得る形と考えてはならないと思います。
   たとえば「面接」があります。また、トレーニングとしてはほとんど意味がないと
   思いますが、ディクテーションを課しただけでも受験生のさまざまな特質が
   手に取るようにわかります。
   ただ、どちらもマークシート方式にくらべて、お金と時間がかかります!)

とすると、「悪い」のはそのTOEICの点数を上げるための「お勉強」になるでしょう。
その点で、西澤さんにまったく同意です。

2)TOEICをAccuracy測定試験として準備すること(ドーピング)の不毛
(あまり英語を必要としない?)日本の企業が、社員の英語運用能力測定のためにTOEICを採用し、大学工学部がJABEE(技術者教育のための外部評価)対応のために、卒業生の英語運用能力をTOEICで測定しようと考えたのは、低水準のFluency測定指標としてTOEICが使いやすかったからですが、TOEIC得点向上のために、(日本人の大好きな)効率的な受験対策(ドーピング)が模索されるようになったのが、不毛の始まりです。酒井先生がおっしゃるように、全ての試験には受験対策が可能でしょうから、仕方がないのかもしれません。この構図は、受験勉強が効率化を求めるあまり、数学教育の意義を貶めている現状とよく似ている(だからといって、「2次方程式の学習は無価値である」という発言は、表層的にすぎる)と感じます。
ドーピングが不毛なのは、本来Fluencyの測定手段であるTOEIC対策としてAccuracyを求めることにあります(もちろん長期間の受験勉強の結果としてFluencyも向上することはあります)。TOEIC対策問題集、単語集、文法解説を用いた学習がこれにあたります。また多読でも、(結果として)YL3の本を楽に読める状態でないと(ドーピングなしで)ある得点を取れないというデータが出ると、本来YL1の本を楽しみながら読んだ方が伸びる学生も、無理してYL3の本を読もうとする(その結果、いくら読んでも得点は伸びない)のであれば、TOEIC受験が災いになってしまっています。
大学の英語の授業が、TOEIC対策に変身している現状や、対策学習法の本が、書店の語学コーナーの大半を占める状況を見れば、TOEIC自体を否定したくなる気持ちも理解できますが、問題なのは効率よく高得点を得ようとする受験対策なのでは?

TOEICがfluencyに絞った試験形式ではないことは前回書きました。

したがって、西澤さんとわたしは「ドーピング」に害があると見る点で意見が一致して
いますが、「なぜ害があるのか」という点では一致していませんね。

西澤さんは

  TOEICはfluencyを見る試験なのに、accuracy の勉強をすることがいけない

と見ていますが、わたしは

  TOEICはaccuracyの試験だが、accuracyに至るにはfluencyからはいるべき

と考えている点が異なっています。

こうして整理してみると、西澤さんの意見の方がわかりやすい!

わたしの意見は少々論理に飛躍がありますね、いや、飛躍があるように見えますね。
その分説得力に欠けるかもしれない。

fluency から accuracy へという主張の最大の根拠は 母語ではそうなっている!
ただ一点です。そしてその母語獲得のやり方(をさなごのやうに)で
TOEIC高得点の人もちらほらとはいますが、(わたしや西澤さんのいう)ドーピングで
高得点をとった人の方が世の中一般にははるかに多いようで、
その声に圧倒されているのが現状ですね。

  (ただしドーピングで取った点数は外資系企業には信頼されていないらしい!)

でも、(これも繰り返しですが)おそらく日本でいちばんたくさんの
「多読で受験サンプル数」を誇る豊田高専の先生がドーピングに賛成して
おられないのだから、せめてこのブログをお読みのみなさんは、
ドーピングを緊急時に最少限に留めることをお勧めします。