学校英語を洗い流す

音は落ちる マクドナルドの法則 ごく単簡なる序説

学校英語を洗い流すために音の話題を採り上げて、
学校英語の音をばっさり斬ったつもりでしたが、
再説と謳ったものの、よくよく過去の記事を検索してみると、
なんとマクドナルドの法則について説明した記事はないようです。
(なんとまあ、クドナルドなこと! マが抜けたんです)

一方「チャーチル・マティーニの法則」は何度か説明していますね。
二つの法則は表裏一体で、マクドナルドの法則の方が表なのに・・・

(きょうは風邪で一日ぐでぐでしておりましたが、まだすっきりしません。
NPOの事務所では多読講座受講生の忘年会の最中・・・
くやしいから Gamay Nouveau という葡萄酒を飲んでおります。
そのために、この投稿はかえって簡単明瞭になるかもしれません。)

マクドナルドの法則は、日本語と英語では音の強調の仕方がどう異なるか、
これを端的に表現したすばらしい法則です。(単なる自画自賛ですが)

で、きょうは二つのことを声に出して実験してもらうだけです。

1. 日本語で マクドナルド をできるだけ速く言ってください。

2. 英語で McDonald’s をできるだけ速く言ってください。

すると、二つのことばの強調の仕方が根本的に違うことがわかります。
そして、それを無視した学校英語は出発点から方向を間違えていることが
わかるはずです。

どう違うかについては、次回のこの話題で・・・

学校英語を洗い流すために・・・ 学校英語のしつこさについて

学校英語には触れない方がいい。触れてしまった場合は洗い流した方がいい。
その方が英語で聞こえてくること、読むものが入ってきやすいし、
英語で話し書く時にも誤解されにくい。

それがこの話題の主旨です。

それで、モーリンさんから届いたメールの一部を紹介します。

it は「相手に分かるものやこと」を指すという説明が僕にはしっくりきます。
学校英語がダメだった僕にとっても「it=それ」という図式はあったと思うのですが、
今は「it は何かの代わりに使われるもの」という感じですが、実際に使うときには
そういうことさえ考えずに使っているような気がします。

また、時刻や気候を表す場合や、It’s Friday! など、また It is difficult to ~ や
It is difficult that ~ などは実際に使われているものを見て覚えていくように思います。
「it=それ」のように安易に日本語との対応付けを行うと誤解が生じる元になると思います。

モーリンさんの言う「日本語との対応付け」--それがいちばんの問題ですね。
もともと対応するはずのない二つの言葉を無理矢理対応させようとするものだから、
とんでもない誤解が生じる。

そしてもう一つ、「学校英語がダメだった」というモーリンさんにとっても
「it=それ」という図式はあったという部分は「学校英語のしつこさ」
物語っていると思います。

ちなみに、モーリンさんが誤解を逃れることができたのは、たくさん吸収した
からだとわたしは見ていますが、どうでしょうね、モーリンさん?

学校英語を洗い流すために・・・ 時間表現について

前回のお題-- 「過去形は ・・・した」 でいいのだろうか? --は、
諸事情があって、変更しますね。日本語と英語の時間表現のずれについて、
考えることにしましょう。

「過去形は ・・・した」、「現在形は ・・・する」 「未来形は ・・・だろう、・・・でしょう」で
いいのだろうか?

うーん、こうしてお題を作るそばから日本語と英語を対比することのむずかしさが
露わですね。そして、いわゆる文法と文法用語の曖昧さがにじみでていますね。
(こういう曖昧模糊とした知識を基に「学習英文法」だとか、「基本的な文法」とか、
そういうご託を並べるわけです、文法訳読の守旧派は。

でもまあ、このお題もほかのお題と同じで、学校で習ったことはどの程度
実際に使われる英語の姿を反映しているのだろうか、
わたしの英語の理解を歪めていないだろうか、という観点から話題にしましょう。

あらためて、みなさんの感想や意見や疑問を info あとまく tadoku.orgまで
お寄せください。

学校英語を洗い流すために differently の t は声にしない

前回の質問は誤解を招く表現でした。

differently をどう「発音」していますか?
あなたの場合、t ははっきり聞こえていますか?

特に2行目がいけませんでした。みなさんが differently を声に出して読む時に、
(だれかそれを聞いた人が) t の音をはっきり聞きとれますか?
という意味でしたが、見事に舌足らず。

それで、一気に学校英語が忘れている「発音」の大事な点に話を持って行きます。
それは英語は(日本語にくらべて)、

  「一つ一つの文字を全部声にはしない」

ということです。

differently の場合は、Yさんがメールをくださったように、

t は前のn次のL と舌の位置が同じなので、破裂(上あごから離さないで)せずに発音しています。

・・・その通りですね。けれども、そのほかにも独眼龍さんの提案によれば

exactly とか absolutely とか slightly とか

などがありますね。

実は英語の綴りで 子音 (aeiou以外のアルファベットが表す音としておきます)が続く
ことはよくあります。上の例では differently の ntl というつながり、
exactly の ctl 、absolutely の bs や tel (e は声にしないので、tl という
つながりと同じになります。)、slightly の sl と tl などはどれもつながった子音のうち、
どれかが弱くなったり、消えたりするわけです。

(どれが弱くなる、どれが消えるという話はこの話題をそらせてしまうので、別の機会に
しましょう。)

(でも、やっぱりみなさんおもしろがると思うので一つだけ・・・
absolutely の b は弱くなって、場合によっては p になります!)

消えたり、弱くなったりするのは重なった子音だけではなく、主に aeiou が表す
「母音」にも起こります。さらに 「音節」 や 「語」 が弱められたり、まるまる
消えたりするのですが、そんな風に音が消えたり、弱くなったりする現象をまとめて

マクドナルドの法則 (すでに何回か記事にしているという気がします。)

と呼ぶことにしましょう。

たとえば ハンバーガーのマクドナルドは英語ではMcDonald’s ですが、
ク の音も ル の音も英語では聞こえません。カタカナにすれば ムダノスのように聞こえます。

ハリー・ポッター・シリーズの愛すべき McGonagall 先生は、翻訳では
マクゴナガル先生でしょうが、映画でも朗読でも カタカナで書けば マゴナゴ に
聞こえますね。たとえば次のインタビューでは10秒あたりで、Maggi Smith 自身が
マゴナ としか聞こえない読み方をしています。

http://www.youtube.com/watch?v=VOl9taK1OR8

ところが学校では

すべての文字を声にしなくていいとは習わなかった

のではありませんか?
したがって、学校で習ったことをそのまま援用すると、
McDonald’s と書いてあれば マクドナルズ と読む(声にする)のではありませんか?

もし綴りの通りに読まなかったら、教室では「崩れた発音 」などと嫌がられます。

McDonald’s を マクドナルド と読む(声にする)のも、
McGonagall を マクゴナガル と読む(声にする)のも、
学校英語の影響ではないでしょうか?

(書くときには 綴りにできるだけ忠実に、というのはちょっぴりわからないでもありません。)

このことについては20年前にちくま学芸文庫から出して
「どうして英語が使えない? 学校英語につける薬」
にもう少しくわしく書いてあります。

さて、次回は 英語の過去形は「・・・した」と訳せばいいのか? という話題について
考えます。ぜひみなさんの意見を寄せてください!
宛先は info あとまあく tadoku.org です。

「ええーっ! 過去形は「・・・した」じゃなかったの!????」という人もぜひメールを!

学校英語を洗い流すために It は 「それ」 ではないのです・・・

この It  にはメールが1通しか来ませんでした。

乱暴かもしれませんが、「it = それ」という学校英語による刷り込みはかなり強いの
かもしれない、という判断をしました。

で、it についての学校英語の問題は非常に大きいので、長くて理屈っぽい話に
なります。そこで、きょうはわたしの考えの骨子だけをできるだけ短く書きます。
もしそれでみなさんの興味を惹いたら、メールをください。その上でわたしは
もう一度いろいろ考えて、この話題の続きでお返事します。

さて、届いた1通のメールは独眼龍さんから・・・

asとかtheとかitとか言われてみて、いかに自分が深く考えない
タイプなのかを痛感しました。だって、どれも聞かれるまでは
特に考えず、平和に過ごしていましたから。

どうなんでしょうね、こういう話題で連載を続けるというのは・・・?

わたしとしては「学校英語の間違いを指摘する」ことが目的ではなくて、
(学校英語は間違っていないことを探すのが大変なくらいなので、
それはどうでもいい・・・)
わたしの目的はわたしたちの頭の中に巣食う学校英語に気づいてもらって、
みなさんができるだけ学校英語から離れる決意をしてほしいと
期待しているわけですね。

深く考えて、正解をメールしてください、という趣旨ではないのですが、
独眼龍さんのとらえ方はわたしとほぼ同じように思われます・・・

さて、it。

少なくとも「あれ」「それ」「これ」の「それ」ではない。まぁ、
こういう説明は聞いたことないので、改めて言うまでもないか。

itは、話題に加わっているみんなが、なんとなく知っている
つもりになっているもの、でもちょっと得体のしれない感の
あるものを、これまたなんとなく指し示す代名詞でいいんじゃ
ないかなぁ。

そうそう! だから スティーブン・キングのきわめて大部なホラー小説
の書名 IT の恐ろしさはまさにそこから来るわけですね。
簡単にして要を得た書名ですね。けれどもくわしくはあとで・・・

だから、it is fineなんて、天気の時に使えるし、単にitと
書かれると不安になる、分かったつもりになっているけど
大丈夫なんだろうかと。

逆に、分かったつもりになって、仮主語とか仮目的語の
it(でしたっけ?)は、気楽にやり過ごせる。

友人の犬を、itで受けると失礼をした感じになるのも
おんなじかな?分かったつもりってことは、分かってないの
ですし、得体の知れない感がありますからね。

こんなもんでいいんじゃないかなぁ?

どうでしょう? 酒井センセー
少なくとも私はこれで平和です。

はい、それでいいんじゃないでしょうか?
「it = それ」を抜け出していれば、別にここから先のことはどうでもいいですね。
でも、「it = それ でどうして具合が悪いんだろう?」と思った人はぜひ
ここからあとで手際よく説明するので、もう一度「学校英語のしつこさ」に思いを
至らせてくださいますよう。

学校で教えられる、また英和辞典でも前提にしているように追われる
対応関係を図にするとこんな具合になります。

this***** これ
it *****  それ
that **** あれ

これは慣れ親しんだ対応だと思います。
そしてこの対応に最大の疑問があります。

おそらくほとんどの人はこれ以外には何があるのか、思いつかないこと
でしょう。ごくわずかな人たちは天気を表す it や、仮主語、仮目的語 it や、
かくれんぼなどの鬼を it と呼ぶ、なんていうことを思い浮かべたかもしれません。
けれどもまあ、そういう「用法」は it にまつわる最大の誤解の延長上にあるので、
とりあえず話題にしないことにしましょう。

最大の誤解は 英語は 何かを指すときに 2種類にしか分けないのに、
日本語では何かを指すときに、3種類に分けるという違いがはっきり意識されて
いないこと、最大の問題はそれがほとんど教えられていないらしいことです。
(「暗黙の内にはっきり」でもいいのですが、それももちろんない。)

実際にあるもの、あることを指す場合を図で示すと・・・

英語の区別
this

that

(this や that や 状況 から指しているものやことが分かる場合) it

日本語の区別
これ
それ
あれ

となります。

it はなんらかの理由で情報の受け手に何のことかわかるものを指します。
ほら! そこが前回のお題 the とよく似ていませんか?

そこからスティーブン・キングの IT のこわさが出てくるのですね。
なんのことかわからないのに、「ほら、あれだよ、あれ」 と呼ばれ、
名前を直接言いにくい「あれ」 に当たるでしょうか? いや、これは
よくない横道ですね。「じゃあ、it は あれ ですか?」という誤解を呼ぶ・・・

this や that は 実際にあるものやこと を指すのに対して、
it は話の流れの中や話している状況から 「相手に分かるものやこと」を
指すのですね。具体的にものやことを直接指すのではなく、すでに話題になった
ので、話の中に出てきたものやことを指す。

さて、分かりにくくなってきました。ここからはみなさんの質問を受けてから
わたしの考えてきた範囲で説明を試みることにしましょう。

で、学校英語の問題点をもう一度整理して、洗い流す一助としてもらいます。

日本の英語教育では日英の「ものごとの指し方」の違いにまったく気がついていないか、
気がついていても「it = それ」と対応させることの危険を少しも意識していないかの
どちらかです。

具体的な害としては、たとえば話し相手が持っているものを日本語で
「それ何ですか?」
とたずねるとします。

今のままの誤解からは、What is it? とたずねることになります。

けれども、ここは絵本を見ればすぐにわかりますが、 子ども同士なら
What’s that? と言いながら指さすことになるでしょうね。
実際そのことを指摘してくれた多読仲間がいます。
その部分に付箋をつけた絵本も預かっています。
(写真に撮って公開してはいけないんだろうなあ・・・)

大人同士の会話なら 二人の距離感によって、指ささずに、
May I ask what you have in your hand? とか、
What’s that in your hand? What’s that you got there? なんて
たずねることになりそうですね。もちろんほかにもさまざまなたずね方が
あると思いますが、問題は日本語では「それ」で指しているもの・ことを
英語では that で指していることでしょう。

た だ し (!)、わたしが言いたいのは、「覚えた学校英語のまま話したり、
書いたりすると、間違えますよ。it の場合もそうだから気をつけましょう!」
などと言っているわけではありませんからね!

そうではなくて、学校で、塾で、通信添削で 「it = それ」などと教えずに、
字のない絵本をたくさん楽しんで、場面といっしょにことばを吸収すれば、
そんな「間違い」はそもそも起きなかった、ということを言いたいのですが、
分かっていただけるでしょうか?

間違いを指摘しているのではなくて、
間違いは避けることができる身につけ方があったのに!  と指摘しているのです。
要するに日本語を通して理解しようとするから具合の悪いことになるのですね。
最初から 「訳せと言われたらできないけれど、わかります」という吸収の仕方に
すればいいのです。

学校英語は実に無駄な遠回りをさせます。そして、ちらりとでも触れてしまうと、
なかなか抜け出せない・・・ 「the = その」もそうだし、「it = それ」などは
しつこさの典型と言えるでしょうね。

最後に一言、it は それ ではないように、 this は これ ではないし、
that は あれ ではありません。

けれども、英語がどういう風に心理的物理的空間を二つに分けるか、
日本語はどういう風に心理的物理的空間を分かるかについてはまだまだ
いろいろ議論があると思われます。わたしはそうした数々の説に精通している
わけではないので、日本の英語教育で教えられる通りに覚えていると
裏切られることがあるということだけ、強調しておきます。

意見や感想や疑問があればぜひ info あとまく  tadoku.org まで!

次回は ちょっと目先を変えて、音の話にしましょう。

differently をどう「発音」していますか?
あなたの場合、t ははっきり聞こえていますか?
という話題です。こちらについても どうぞ、メールを!