トップダウンについて電通大の卒業生からメッセージをもらいました。
最近、翻訳のようなことをよちよちとしています。単語単位、文単位では訳せません。
いやもちろん訳せますけど、元のテクストを再現するには、最低でも段落単位で変換
していかないと、本来の意図が再現できないと強く感じています。って自分で書きながら
思ったんですが、意味と意図って違いますよね?単語単位から組み立てて意図って再現
できるのかしらん。
これも深い疑問ですね。単語と意図? 全体と部分? 集団と個? 弁証法?
そういう対立を思い出します・・・
いや、わたし自身はずいぶん前から考えていますが、答えは見つかっていないのです。
安井さんが言っていることはわたしも経験があります。
いちばん最近に訳した本は
「リキッド・モダニティを読みとく: 液状化した現代世界からの44通の手紙」
(ちくま学芸文庫、ジグムント バウマン、 Bauman,Zygmunt)
というのですが、その翻訳のときにずっと考えていたことでした。
わたし自身の結論を言うと、単語単位から組み立てる(ボトムアップ)ことでは
意図は再現できないと思います。そもそも単語単位では「意味」さえ確定しない!
当然単語を並べて表現されている「意図」は単語単位では迫ることができない・・・
これは大きな問題なので、生煮えのままここまでにします。(I’ll let it go.ですね。)
けれども大きな大きな問題なので、いつかかならず戻ってきて解決を迫るでしょう。
そのときのために、みなさんからさらに感想や意見や疑問をいただきたいと
願っています。
で、安井さんのこと・・・
安井さんのことは100万語という数字に注目した理由として
何度もあちこちで話したり書いたりしています。
けれども覚えている人はいないだろうと思うので、改めて紹介します。
安井さんは多読がまだ形を成していなかったころの電通大の学生です。
そのころは英文和訳の授業をしていたのですが、なぜか気に入ってくれて、
大学院を卒業するまでずっと研究室に顔を出してくれました。
そして安井さんは当時始まろうとしていた Ultima Online というオンライン・
ゲームを紹介するウェブサイトを作りました。英語のページを作ったので
見てくれというので読みました。するとこれが流れていてとても見事だったのです。
そこで、わたしは返事に Keep on the good job. と書いて褒めました。
すると安井さんはとてもにくらしい返事を書いてきたのです。
その返事はおおよそこんなものでした。
「酒井さん、Keep up the good job. というのは見たことがありますが、
Keep on the good job. というのもあるのでしょうか? それとも
酒井さんも受験英語に毒されているのでしょうか?」
わたしは、しまった、と思いましたが、一応 Keep on the good job. という
言い方もあるかと調べましたが、ない・・・
わたしは負けを認めて、逆にこれまで何語くらい読んだと思うかと
質問しました。その答えがこれです。
この写真の公開は初めてです。
The Lord of the Rings はご存じの通り。
Ultima は英語のRPGです。(懐かしい話がいろいろありますが、ここでは省きます。)
最後の CompuServe は米国のパソコン通信会社で、安井さんはここのネットに
アクセスして、Ultima Online の情報を集めていたようです。
で、合計は175万語。Keep up the good job. なんていう表現まで見て知って、
使えるようにまでなっているのはたいしたものですが、そこまで行かなくても
日本人の普通の目標としては十分ではあるまいかと、きりのよい100万語を
多読の目標にしたわけです。
100万語という数字にはもう一つ理由がありますが、それもあちこちで言ったり、
書いたりしています。それはまたいつか改めて書くことにしましょう。
安井さん、引用許可をありがとう!
And keep up the good job!
(多読は最初から生徒や学生に導かれてきたのだということがよく分かります。)