話し言葉と書き言葉 なんで区別が必要?

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わたしたちはふだん話し言葉と書き言葉の違いを意識しません。

それなのに、なぜtadokuでは区別するのか?

よく考えたら、まず第一にそこから話を起こさなければいけないのでした。

本当は区別なんかいらないんですね。

普通に母語を吸収していけば、ある年齢までは話し言葉ばかりで暮らして、
そこから今度は読書や学校を通して書き言葉も吸収して、場合によっては
自分でも使うようになる--それはまったく自然な変化でしょう。
話し言葉と書き言葉の違いは白黒ではなくて灰色部分もあるので、
変化はおそらく意識できないと思われます。

今回の「話し言葉と書き言葉」は意外に反響が多くて、たった一日で
ずいぶんたくさんのメールやメッセージやツイートが寄せられました。
こんな話題に関心を持つ人が多くいることは、学校英語ではまったく
無視されている話題なだけに、意外でうれしいものでした。
その中に二つ、今書いた無意識な獲得過程そのままの例がありました。

一つはオーストラリアで子育てもしているYuさん。息子さんがまさに
「この違いを勝手に吸収している姿」を見ているそうです。
「勝手に」というのは母語を自然に獲得する様子を表していると思われます。

もう一つの報告はカリフォルニアに住んでいるK子さん(なつかしい人
いるでしょ!)。K子さんは「二つの言葉の違いが分からない」という
ことですが、それはK子さんが幸い学校英語を完全に忘れているから
でしょうね。

こどもと同じようにほぼゼロから多読をはじめて、多読的リスニング、
スピーキング、ライティングへと歩んだ人たちは二つの種類のことばを
区別していないようです。というよりも、そういう人たちは現段階では
区別できない--話し言葉を使った素材しか聞いたり読んだりしていない
からです。(オンライン大学を受講しはじめたktbさんは書き言葉にも触れています。)

では、区別を意識する必要があるのはどういう場合か?
学校英語を熱心にやってしまった場合ですね。
学校英語は「話し言葉と書き言葉」の区別などまったく無視しています。
無理もない--明治以来話し言葉に触れることはまずなかったのですね。
そのために学校英語は書き言葉をいっぱい使っているのに、それに気が
ついていない。英作文の参考書と言われるもので書き言葉、話し言葉の
区別に気がついている参考書は見たことがありませんね。
これまでは、英作文と言えば書き言葉だったのですね。

では学校英語をかなりやってしまった人はどうしたらいいか?
話し言葉に大量に触れて、場面や気持ちと一緒に吸収する必要があると
思います。(ことばの氷山を思いだしてください!)

その上で、thesaurus (類義語辞典)というものを利用して、
big words をやさしい語に置き換えるといいでしょう。
では、big words というのはどんなものか?
何回か書いた覚えがありますが、big words とはだいたいのところ
ラテン語起源の長い語です。英語は元々ゲルマン系の言葉のようで、
基本的に1音節の語が中心です。たとえば walk 、sky、food、run なんて
いうのはみんなそうですね。みんな短い! 長い語は書き言葉で、
えらそうに見える。日本語で言えば漢語です。

実はわたしも前便の「話し言葉訳」の中で一カ所thesaurusを使いました。
原文では lesser people となっているところを一度は the poor と訳した
のですが、思い立ってもっとむずかしげな語を使いたくてthesaurusを引い
て、the destitute と書き換えました。(lesser people とは違ってしまった
のだけれど、ごめんなさい、あそこは長い語にしたかったのです。)

多読をたくさんした先輩にはすでにthesaurus を利用している人がいるよう
です。今回反響を寄せてくれた中では islaverde さんがよく使っている
そうです。thesaurusをよく使っているなんていうのもすごいことですが、
先ほども書いたように、学校英語ではまったく話題になっていないことに
大きな反響があることにわたしは多読の底力を見る思いがします。

なお、thesaurusを使わない暮らし方は、英語国でも一般的です。
thesaurusは文章を書くことが大事な場面で使うもので、
email や ブログ を書くときには必要じゃないですね。
日常のことばを思いついたけど、もっとむずかしくしたいという時や
同じ語を繰り返すとバカみたいに見えるから別の語を見つけたい
(英語の習慣です)という時に使います。つまり、そういう「えらそうな
文章」を書かなくていい人は英語が母語でも使わないでしょう。

この話題はまた続けて書きます。みなさんの反響を楽しみにしています!

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