世の中にはすごい人がいるもんだ・・・

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すごい人と直接間接にふれあうことはわたしたちを perspective の中に
置いてくれる、というか身の程を知ることになって、
同時にその人たちがわたしたちを引っ張ってくれることがある・・・
そういう経験を数少ないけれども何度かしていて、
今晩急にその一つを思い出したので書いておきます。

数時間前にFacebookで世界の民族衣装のページを知らせました。
そしてその投稿に一言「多様性・・・」とだけ書いたのですが、
さっき「人それぞれ・・・」の方がよかったかな?と思ったとたん、
思い出したのです、50年前の吉祥寺の古本屋のことを・・・

今の吉祥寺ではありません。田舎の駅みたいなものでした。
でも、わたしはそのころ中央線沿いの古本屋は渉猟し尽くしていて、
八王子から荻窪までの古本屋はあらかた知っていたと思います。
そして何十軒という店を年に数回は巡っていました。

当時わたしは大学生から院生。時間はたっぷりあって、でもお金はほとんどない。
(一橋の友だちが卒業のときに「酒井がいちばん金持ってなかった」と。)
でも本はほしい。そこで、掘り出し物を求めて中央線各駅の古本屋を巡回していた
というわけです。

で、ある日、吉祥寺の、いまのパルコの向かい側、線路際にあった小さな
古本屋で英語の本を手にしていたら、かなりの歳の店主が「どこの大学?」と
声をかけてくれました。一橋大学ですと答えると、ちょっとした昔語りが
始まりました。一橋大学には英語のできる学生が多いことになっていたからですね。
たいして長くはない、その店主が心底感じ入ったエピソードをささっと教えて
くれたのです・・・

その店には一橋大学の英語の先生が来ることがあったらしく、
悔しいことに名前を忘れましたが、有名な英語の先生も来ていた、と。
それで、あるとき店主はその先生に A World Apart という本を見せて、
「先生、こういう本が手に入ったけれど、いったい日本語の題名は
どうつけたらいいでしょうね」と持ちかけたのだそうです。

この辺が昔の、いわば侍同士の鞘当てに当たるものですね。
店主は中身を見ていたので、世界の国々を紹介する本だと分かっていた。
その本の表紙だけを見せて、A World Apart という題名から内容を
どう日本語にするか、といういわば「腕試し」を挑んだのでしょう。

その英語の先生は中身を見ずに「お国様々」としておけと言ったという・・・

正解です。A World Apart はだじゃれです。だじゃれと言っても品が悪いわけではない。
a world apart は「まったく違う」という意味の決まり文句ですが、
それを実際にまったく違う国々の様子を紹介した本の題名にしたところが洒落ている。

わたしが50年も前のことをなぜこんなに鮮明に覚えているのかというと、
その先生の知識の広さと深さ(決まり文句を分かっていた!)からだけではありません。
そこに感心した田舎町の古本屋の親父にも感心したのでした。

わたしがもし同じ質問を、今、どこかの古本屋でされたとして、
「お国様々」なんていううまい訳をさっと答えられるかというと、たぶん無理です。
とんでもない努力をした人たちがいたのですね、音も映像も手に入りにくかった時代に。

ただし今はそんなすごい努力をする必要はなくなりました。
現にこれまで多読をしてきた人たち、NPOの多読講座で Tadokuをしている人たちは
努力などどこ吹く風といわんばかりの気楽さで、わたしが何十年かかかった道を
すでに踏破しています。

「人それぞれ」とはいえ、ちょっぴりくやしいような複雑な気持ちではあります・・・

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