午後の部は、東海地方4つの公共図書館(浜松市立中央図書館、豊橋市図書館、おおぶ文化交流の杜図書館、知多市立中央図書館)の実践報告で始まりました。
実践報告
共通テーマは「多読支援における連携」です。分館、地域の図書館多読サポーター、学校図書館等と連携し、利用者の多読を支援している状況が報告されました。
「生涯学習としての英語多読の推進」――浜松市立図書館 長谷川欣司さん
平成27年に中央図書館に英語多読コーナーを設置するまでの経緯と、現在までの状況が説明されました。28年には市内の都田図書館と積志図書館にも英語多読コーナーが作られ、連携しています。以前は外国語資料は利用者層が限られていましたが、多読コーナー導入後の貸出冊数の増加は期待以上だったそうです。
長谷川さんは生涯学習としての英語多読の魅力として 1. 絵本なので初学者でも始めやすい 2. 辞書を使うような勉強でないので隙間時間に楽しめる 3. 物語を楽しみ、異文化体験もできる脳内留学 4. CD付で音声にも触れられる、の4点 を挙げられました。今後は、継続した支援として何ができるかが課題とのことです。
質疑応答では、試行中の「はままつ電子図書」への関心が特に高く、各地の図書館からの質問が集中していました。図書館多読サークル「浜松多読クラブ」のメンバーから、活動紹介がありました。
「豊橋市図書館の英語多読の取り組み」――豊橋市図書館 小川訓代さん
105年の歴史を持つ図書館です。丸善の元社長、司忠氏ゆかりの「司文庫」には洋書を中心に3万4千冊の蔵書があり、そのうち英語の絵本は約8,000冊あります。多読コーナーは、2008年にはすでにあり、小川さんが中心となって整備を進めてきました。分館の向山図書館と大清水図書館にも多読コーナーがあり、連携して利用者の多読を支援しています。
英語多読講演会は昨年2017年に初めて開催されましたが、77人の参加があり、熱気がすごかったそうです。豊田高専・西澤一さんのこの講演を聞き、刺激を受けて「英語多読クラブ豊橋」を発足させた代表の方から、クラブと今後の展望が紹介されました。
「おおぶ文化交流の杜図書館 英文多読コーナー 利用者への支援」――おおぶ文化交流の杜図書館 神谷洋輔さん
4名の英語担当司書と、ベテランの多読経験者(サポーター)が連携している多読支援の取り組みが紹介されました。例えば、本のレベルを表すシールの貼付はサポーターの提案で始まり、作業はサポーターやボランティアが行なっているそうです。全国でも屈指の参加人数を誇る、英文多読交流会「英語で本を読み隊」は親子連れ大歓迎で、何人ものタドキスト(多読愛好者)がサポーターとして初心者の相談に応じています。
利用者が多読を続けていくための支援とは「仲間と出会い、交流する場を作ること」であると結論つけられていたのが印象的でした。そのためには「多読上級者にサポーターになってもらうこと」も重要ということでした。
この発表の後半は、神谷さんと多読交流会主催のサポーター「カイさん」との応答で進められました。「教えて司書さん」「教えてカイさん」の楽しい掛け合いで、実際の支援の現場での疑問にそれぞれが答える、実践のヒントがたっぷり詰まった内容でした。
「図書館と学校との連携 ~英文多読の広がる輪~」――知多市立中央図書館 渡壁智恵さん
2009年に英文多読コーナーを開始した当初から、学校教育を想定していたそうです。学習指導要領に英語教育の充実が入り、今後の需要が一層高まると考えて、多読図書の導入が決まりました。しかし、当初の悩みは「多読」そのものの認知度が低いことでした。そこで「多読を知ってもらおう」と酒井理事長や西澤さんの英語多読講座を始めたそうです。
その後も「生徒が一番本を手に取ってくれる場所=学校」と考え、学校との連携を計画していたところ、2015年の図書館多読シンポジウムで愛知県立常滑高校の先生が声をかけてくれました。ダメ元で高校を訪ねたところ、予想外の好反応で、この年から100冊単位の貸出が始まりました。現在は2つの高校に団体貸出をしており、授業内で読む時間が取られたり、学校図書館でも生徒が多読本を手に取れるようになっているそうです。現在は高校のみですが、今後の展望としては小・中学校への資料提供も行って行きたいとのことでした。
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4つの報告で共通していたのは、英語多読講演会・講座などのイベントをきっかけに利用者の英語多読への認知度が上がり、結果的に以降の貸出冊数の増加や、多読サークル結成につながったということでした。その後で、利用者がさらに多読を継続するための工夫や課題について、どのような連携が必要か、実例が共有された実践報告でした。
この実践報告の前に、ちょっとしたアトラクションがありました。東海地方発、図書館多読を牽引してきた豊田高専の吉岡さんと、酒井理事長による寸劇?コント?Frog and Toad and FriendsよりThe Story が演じられました。真面目なシンポジウムでの、このサプライズに会場は大ウケでした。
ポスターセッション
9つの団体(公共図書館・大学・高専)が図書館多読の実践をポスターにまとめ発表しました。質疑応答、情報交換、名刺交換の場として、熱心に話し込んでいる姿があちこちで見られました。実践報告をされた4つの公共図書館の発表者が、そのままポスター発表もされていたので、個人的に自分の図書館の状況について質問したり相談したりされている司書さんも多かったようです。この日、刺激を受けた司書の皆さんが、また新しい取り組みを始められるのが楽しみです。
当日の9つの団体(公共図書館・大学・高専)の図書館多読・実践をポスターはこちらからご覧いただけます。
アンケートより(抜粋)
- 具体的な導入の経緯や課題等、生の声が聞けて良かったです。
- これから図書館で多読を導入していこうという段階だったので、各館の事例を一気に聞くことができてよかったです。
- 図書館側の体制づくりだけでなく、市民側のサポートも必要だな、と感じました。
- 仲間を作る、グループを作ることが継続・発展において一番大切なのとだと分かりました。
- 多読を取り入れると、貸出冊数が伸びる現象が共通して起こることだということが興味がわいた。
- 各図書館の取り組みが参考になりました。自分の館でも、できるところからチャレンジしてみようと思いました。多読の開始、おすすめ本、設置のあり方等、今後のあり方を考えようと思います。
- 浜松中央図書館の多読コーナーがどれほどすごいのか知りました。利用者として感謝しています。
- 色々な立場の中での実践の内容をうかがうことができ、とても参考になりました。
- 各図書館の取り組みは、自館で課題だと思っていることのアイデアもあった。人とつながることで、今後も相談できることができるので、このような会は良い機会だった。
- 学校との連携をされている知多市立図書館さんのお話しが印象に残り、当館でも、今後の課題としているため、勉強になりました。
- 初心者や親子連れの方が参加しやすい工夫、サポーターさんとの連携、学校連携など、先進的な公共図書館さんの報告は、とても参考になり、チャレンジしてみたいと思いました。 「こうあるべき」ととらわれず、柔軟に、できることから取り込めれば・・・と前向きに考えることができました。
次回は東京都稲城市立中央図書館で開催!(2019年夏~秋開催予定)
最後に、次回2019年の第6回シンポジウム「図書館多読への招待」が東京都稲城市立中央図書館で開催されることが発表されました。
JLA図書館実践シリーズ「図書館多読のすすめかた」2019年春・発売予定!
来年、JLA図書館実践シリーズ「図書館多読のすすめ方」が出版されます。この本は、2014年8月に出版された「図書館多読への招待」続編です。
今回はより実践編となる内容になりました。多読を導入している図書館のさまざまな取り組みを紹介することで、これから導入しようと考えている図書館への水先案内となるよう願っています。
(会員/小川、事務局/おおが)