12/21(日)第8回 日本語多読支援研究会 報告②

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トピック別ブレイクアウトルーム(BOR)での話し合い

研究会の後半は、テーマ別のBORに分かれて話し合いを行いました。大学・日本語学校・地域日本語教室・子どもの日本語教育など、さまざまな現場に関わる参加者の皆さんは、各自が関心を持つテーマのBORに集まり、それぞれの実践や課題、工夫などを共有しました。
以下、各BORでどのような話し合いが行われたのかを、テーマごとにご報告します。
1.多読の効果・評価

「評価」について

多読自体は評価対象としない。代わりに、ポップ(感想カード)の提出、プロジェクト型の活動を評価対象とする。また、自己評価・ピア評価・ポートフォリオ評価なども組み合わせた評価の実践が話題に出ました。
特に、認定日本語教育機関での評価を意識した議論では、「読解力や語彙力の伸びよりも、自律性・自己管理能力に焦点を当てた評価が、多読の本質に合っているのではないか」という意見が出ました。

「効果」について

多読授業は、学習への動機づけが高まり、学習者が前向きな気持ちになって、自律性・自己管理能力が高まるといった意見が出ました。そして、それらに付随して読解力や語彙力が伸びていき、さらなる動機付けとなる、という捉え方が共有されました。

2.おすすめの多読本

 漫画

大学や日本語学校の学生など「若者たちが好きな本=漫画」ではないかという前提に、学生に人気がある漫画の作品名が多数挙げられました。以下にその一部を紹介します。

『SPY×FAMILY』『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』『チェンソーマン』『ダンダダン』『ちはやふる』『ハイキュー!!』『サカモトデイズ』『Slum Dunk〈最終回はサイレント漫画で多読向き)〉』

ジャンルも難易度もさまざまですし、ルビがないとハードルが高いですが、学習者は興味があれば読むということでした。他に、漫画よりアニメ鑑賞のほうが理解しやすい、シリーズ物は最初の5巻程度を準備すればいいのではないかといった意見も出ました。

絵本

『桃太郎(芥川龍之介)〈←中上級以上〉』『じゃない!』『りんごかもしれない』

海外の学習者に人気があるコンテンツ

その他、タイで日本語多読実践をしている参加者から、タイで人気のある読みものの紹介がありました。
「世界の~シリーズ(食べ物・国名など)」「日本の昔話」「~ってなあに」「日本の文学小説(NPO版)」「自作本(学習者の自国の既存知識があるものを手作りした多読用読み物)」が、人気があるとのことです。

3.教室運営(声かけ・動機づけ・ブックトーク・アクティビティなど)

声掛け

学習者に声掛けするタイミングについて話し合い、「1冊読み終わったとき」「本を探しているとき」「個別に観察して必要と思われるとき」が挙げられました。

動機付け・ブックトーク・アクティビティ

多読授業にアクティビティを取り入れることで動機づけ効果がある反面、集中して読んでいる学習者を邪魔することになるというジレンマがあります。対策として、「読む時間と活動の時間を決めて分ける」「本紹介の日を設ける」「学習者メンバーによって授業方法を変える」などが挙げられました。授業方法のバリエーションとしては、アクティビティをしない、自由にお喋りすることを認める、教師と1対1で面談し本について語り合う、ブックトークは話したい人だけが行うなどが考えられました。

所属機関に多読導入を認めてもらう方法

まずは授業外活動や、授業内でのちょこっと多読を行って実績を作り、多読授業を経験した学生の肯定的な声から正規授業に認められた例が挙がりました。また、CEFRや日本語教育の参照枠と多読の親和性を強調、他機関の多読実践・研究報告を見せるなどの方法があります。

4.読みもの作成

AIによる作品作りについて

読みもの作成のBORでは、AIの使い方について意見が分かれました。使いたくないという理由は、「考えたり、作ったりする過程そのものが大事だし、著作権などのコンプライアンスもクリアできていない」ということです。一方、使うと答えた人たちは「自分たちの考えたアイディアがどうしたらより面白くなるかAIに聞いた」「作品の始めと終わりのイラスト作成をAIに頼み、自身も納得できるものになった」とのことでした。

学習者による作品作り
多読授業のプロジェクトで学生に作品作りをさせたいという思いが複数の参加者から出ました。また、印象的だったのは、フランス語多読の実践で、「読めない、わからない」と言う学習者の悩みを、自らが作品を作ってみること、つまり「読み物を書くことから読むことへの意欲につなげたい」という新鮮な意見でした。その他、作品のレベルはどの段階で決めるか、各自の作品作り実践紹介などが話題に出ました。

5.短時間多読(ちょこっと多読)

ちょこっと多読とは?

「ちょこっと多読」とは、1回が短時間の読書を繰り返す(例えば毎朝10分)という意味か、週に1コマ(45分)だけ行うのも、実質ちょこっと多読ではないのか?という疑問が出ました。この疑問に対し、どちらがより効果があるか、という視点で意見交換が行われました。「本の世界に入るのに10分では足りない」という声がある一方、「週1でも他の学習の都合でさらに時間が削られることもあり、毎日10分の方が読みの習慣がついていいかもという迷いがある」という率直な意見が語られました。

地域日本語教室での多読導入の課題

学習者は「話したい」人、ボランティアは「教えたい」気持ちが強い人が多く、両者ともに自律的に「読む」ことへの興味が薄いです。また、多読は「日本語ができるようになった」感が当事者にはすぐには実感されにくいので、参加者が集まりにくい。対策として、本の貸出や、ネット上の多読用読み物を活用し、ブックトークから始めて短時間で切り上げる授業スタイルや、初級者には読み聞かせをするなどの案が出ましたが、いずれもボランティア向けの多読支援者研修の必要性が改めて確認されました。

6.子どもの多読

アメリカの日本語補習校での多読実践

およそ2年間にわたる多読導入の成果で、今年度、小1~中学生までを担当するどの先生も多読を取り入れてくださっているという報告がありました。小学校高学年からは図書館で多読し、1週間に20分ですが、貸出も行っていて、レベル別読み物から漫画に移行して「読める」子どもが増えているそうです。

前半の発表者、生田さんの実践への質問

・読書記録の可視化について…「自分へ」お薦めのシールと「自分より」(他の人へ)お薦めシールがあるそう。「みんなで〇〇冊」という取り組みはしやすくて良さそうです。

・翻訳について…日本語絵本に母語で翻訳した文を直接書き入れさせていて、それが子どもの本を読む自信につながる効果があるそうです。

7.多読とシャドーイング

NPO多言語多読のスタッフから、NPOの英語シャドーイングの紹介を行いました。

・方法…内容は不明のままでよく、一つ一つの音に拘らずにモゴモゴと音を出せるようになるのが最初の一歩。日本人は学校で身に着けた英語を洗い流す必要がある。

・効果…リスニング力の向上、スピーキングが滑らかになり、一つ一つの音を出すのではなく、ネイティブのように区切って話せるようになる。

参加者から、シャドーイングをする際の字幕の有無や、内容を知っているものをやるメリットの有無、母語で内容を理解しながらシャドーイングすることの是非などの質問が出ましたが、やり方は人それぞれで、やってみて、自分が楽しい方法を見つけることが最優先とのことでした。文法や他のことを考えずに、自分に合う長く楽しく続けられるシャドーイング方法を探すしかないそうです。

8.オンライン多読

今後オンラインで多読授業を始めようと思っている方々が多く集まったので、そのやり方に関する以下の助言が経験者から行われました。また、NPO多言語多読の日本語オンライン多読クラブのサポーター参加や、書籍『日本語多読 下』にあるオンライン多読の報告を紹介しました。

・NPO無料読みものの活用…検索タグの活用、スマホでも十分に使用可
・著作権のある他のサイトや動画…紹介だけに留めURLを共有
・チャットの活用…支援者と学習者の双方向での情報共有に使用
・BORの利用…読みたいカテゴリー別、一人ずつなどに分けて、教員が訪ねる。または、教員が待機している部屋に話したい人が訪ねる。
・観察…できればカメラをONにして読んでもらう。読書記録がアップされたタイミングでその部屋を訪ねる。

9.地域の多読

地域日本語コーディネーターの立場から、地域日本語教室に多読を取り入れたいと考えている方々と、すでに地域の日本語教室で多読を実践しているNPOのスタッフが情報の共有を行いました。

多読と地域日本語教室の親和性の是非

背景や学習レベル、動機も多様な地域のボランティア教室には、個別で自律的な学習である多読は向いているのではないかというのが全員の共通認識でした。

しかし、学習者は本を読むことより、会話が上手になることを第一の学習目標としている人が多く、ボランティアも学習者の意向に沿って、教えよう、説明しようとする人が多いので、長時間の多読は人が集まりにくいという実態があります。

実践者の工夫

日本語の入門・初級者には、読み聞かせで本に慣れてもらうことから入る。シドニー国際交流基金の「ひらがなミニブック」「カタカナミニブック」は、かな学習が終わっていない学習者にも使える。

日本語レベルに大きく隔たりのある学習者が一緒にブックトークをするのは双方に不満が出やすく、難しい。グループを分けて、それぞれ違う活動を行う必要がある。

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おわりに

今回のBORでは、「うまくいっていること」だけでなく、「迷っている」「悩んでいる」という声も多く出たのが印象的でした。それは、多読がすでに目新しい学習方法ではなく、それぞれの現場で模索しながら育てられつつある教育実践であることの表れではないかと思います。

この多読支援研究会での参加者同士の話し合いの場が、これから多読を始めたい方、継続中に悩んでいる方がヒントを得る機会になったのであれば幸いです。

以下は、アンケートからの抜粋です。

  • 偏らずいろいろな話が聞けておもしろかったです。毎回刺激を受けています。
  • 研究会初参加でしたが、あっという間の3時間でした。ありがとうございました。
  • ブレイクアウトルームでのテーマ毎にお話できる時間がとても楽しく、情報や困り事が相談できてよかったです。
  • (前略)事例発表では、自身の活動のどこに落とし込めるかを思い巡らせながら拝聴しておりました。なかなか、一個人からグループへの活動にもっていくのは難しいかもしれませんが、身近なところから始めたいと思います。ありがとうございました。
  • 今まであまり聞く機会のなかった(私個人が)読み物作成、シャドーイングについて聞くことができました。
  • 大人向けクラスでのオンライン多読の進め方、補習校での子供向け多読の進め方などのアイディアを得ることができました。
  • ブレイクアウトルーム、色々な部屋にもっと行きたかったと感じました。今までよりも、日本語多読が広く深く進化していると思いました。今回は日本の現場実践の発表でしたが、最近は、海外の現場から日本にいる私たちが教わることも多いように思います。
  • 特に相談したいことはないと思っていても、ルームに参加してみると、必ず改善策が見つかったり、支援して感じていることをシェアし、共感し合えたりし、私が多読支援を続けていられる大きな支えとなっています。

(正会員 大越)