読みもの作成体験談
学習者に楽しく多読してもらうために、NPO多言語多読では、さまざまな読みものを作っています。読みもの作成会のメンバーに、参加の理由や作成の難しさ、楽しさを語ってもらいました。
「機械的な置き換えじゃない。複雑だけどハマります」
「多読」は自分にとって、理想的な考え方を持った学習法。そんな「多読」に少しでも関わることができたらと思い、読みもの作成ワークショップに参加しました。始める前は、語彙表に沿って元の作品を機械的に書き換えていくというイメージを持っていたのですが、実際はそうではありませんでした。
元の読みものの味を消さずに、やさしい日本語にすること。なおかつ本として魅力あるものにしなければならないこと。辞書を引かずに読むため、挿絵を有効に配置すること。
多読用読みもの作りは、このような気配りのもとに一つの本を完成させていく、実に奥深い作業なのです。しかも、それを限られた語彙の中で作り上げるのですから、どこかパズルのような面白さもあり、毎回終わった後はものすごくお腹がすいている! さらに続けていくと、だんだん自分の「言葉の癖」まで見えてくるから面白い。簡単な作業ではありません。でも、何だかハマります。
使う立場から作る立場へ
海外で日本語を教えていた時、どうしたら学習者のモティベーションを維持できるかということに悩んでいました。初めは日本語や日本文化に興味を持って好奇心でキラキラ輝いていた学習者でも、だんだん難しくなる日本語に挫折してしまうことが多かったからです。そんな中、同僚の先生から日本語多読について聞き、授業で使ってみました。すると、1冊読み終えた達成感と内容が理解できた喜びで学習者の顔が輝いたのです!
その後、帰国してから読みもの作成ワークショップに参加しました。多読の読み物を「使う」立場から、今では「作る」立場に変わりましたが、大変楽しく、やりがいを感じています。
だれでも参加できる敷居の低さ
初めは、私でも何かできることがあるかしらと恐る恐る参加したのですが、ワークショップには、堅苦しいところが全くなくて、初めてでも自分の意見を言いやすい雰囲気でした。それ以来、ずっと参加しています。
制限をみんなで解決していくのが楽しい
読みもの作りで面白いのは、制限がある中で、どう言葉を置き換えていくかという事だと思います。「これはこのレベルの語彙にある?ない? なかったら、イラストで補う?」などと考えていくのが、楽しいです。グループで一つの作品を作っていくのですが、一緒にやっている仲間が、イメージに近い言葉を探し当ててくれた時は、「そう。それ、それ!」と言いたくなります。一人だと気づかないことも、数人でやると、気づくことができるのです。
学習者が読んでいる顔を想像するのも、楽しみの一つです。
リライト作業は新鮮な読みの体験
教室で日本語多読の授業をする。プライベートで英語多読をやってみる。どちらの場合にもリライトされた読みやすい作品は必要不可欠だと感じました。
しかし、限られた語彙、限られた表現を使って作品を仕上げるリライトは、初めてやってみるとなかなか大変なこと。学習者の顔を思い浮かべながら、この言葉ならわかるだろう、この部分は省いた方がいいだろう、と四苦八苦です。自分のための読書ならさっさと読み飛ばしてしまうところを、リライトする時には元の作品の言葉一つ一つをじっくり眺めたり、全体を俯瞰してみたり。作業を通して、こんな新鮮な読みの体験もできました。
「多読授業と読みもの作成」入門講座
「多読授業」と「多読用読みもの」の作り方を一日で学ぶ講座です。多読授業の基本的な考え方を学び、読みものづくりに活かします。読みもの作りの体験を通して、多読への理解を深めます。
開催日:
※年に6回程度、開催しています
≫ 詳しく見る教師・支援者の方に読んでほしい本
- 日本語多読 上·下巻(日本語教師読本 12·13)
-
- NPO多言語多読 監修
高橋亘・粟野真紀子・片山智子・作田奈苗・纐纈憲子 著 - WEB JAPANESE BOOKS(2022)
- NPO多言語多読 監修
- 日本語多読が始まって20年。世界中に広がった日本語多読のこれまでの蓄積とこれからの可能性を『上巻~広がり深化する多読~』『下巻~新たな挑戦と資料集~』の2冊にまとめました。
- ≫ 目次を見る
- 日本のアマゾン(上巻) アメリカのアマゾン(上巻) 出版社
- 多読のすすめ
-
- NPO法人日本語多読研究会 監修・発行(2009)
- 日本語多読が始まった頃の多読授業実践報告、学習者の声などが収録されています。巻末の教師の座談会では、多読が始まったきっかけや初めての授業での驚きや喜びが語られており、10年経った今も色あせることがありません。
- 今すぐ読む ダウンロードする(PDF)
- ※この小冊子は、NPO多言語多読の前身、日本語多読研究会が2008年に日本財団の助成をうけて制作したものです。