ローマでも日本語多読!@国際交流基金ローマ日本文化会館

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じわじわっと海外でも広がるTadoku。
国際交流基金のローマ日本文化会館では、2018年1月から毎月1回、多読の会を開いているそうです。大変好評だとのことで、以下のレポートが届きました。
とてもすばらしい内容にスタッフ一同感動しています。じっくりお読みください!!

「多読で広がる日本語学習の楽しさ」

国際交流基金ローマ日本文化会館(以下、会館)日本語講座では、毎年約700名の学生が日本語を学んでいます。会館は日本語レッスン以外にも、日本に関するイベント(映画・展示会)、図書館があり、ローマにいながら日本を疑似体験できる場所となっています。しかしながら、学生はレッスンが終わればすぐ帰宅し、会館のリソースを日本語学習にうまく活用できていないなぁと教師は日頃から感じていました。特に35,000冊の蔵書を持つ図書館と日本語講座の協力の必要性は随分と前から感じていたことでした。
そこで、今年度は、日本語講座は図書館と連携して、学生がレッスン以外の日本語に触れる機会を作ろうと様々な試みを開始しました。その一つが多読会です。
多読会は、2018年1月から月1回 平日16.30~18.30に開催しています。内容は以下の通りです。

時間 スケジュール
16.30-17.00 ガイダンス「多読とは?」
17.00-18.00 各自、読書。
18.00-18.20 シェアリングセッション

各自読んだ本についての感想(内容・難易度など)を母語や日本語で話し合う。

18.20-18.30 アンケート実施

翻訳指向が強いイタリアでは、多読という言葉を知っている人はあまり多くありません。そこで最初の30分間は、多読とは何かをまず知ってもらうための導入時間としました。参加者の日本語レベルは初級から上級まで様々でしたので、皆にしっかりとコンセプトを理解してもらえるよう、ガイダンスでの説明はイタリア語で行いました。

まず、多読の4つのルールを紹介しました。多読会を実施する以前の学生さんたちを見ていると、わからない言葉が出てくるたびに辞書を引き、単語リストを作りながら読む人が多いように見受けられました。そのため1冊を読むのに1時間近くかかることもあるようでした。そこでルールの②「辞書を引かないで読む」の大切さを特に強調し、大体の目安として15分程度で読みきれる本を選ぶように伝えました。参加者たちはメモを取ったりしながら熱心に聞いていましたが、この時点ではまだ本当に辞書なしで日本語の本を読めるのか不安な様子でした。そこでルール④まで紹介したところで、「これらの4つのルールよりさらに大切にして欲しいことがあります。それは読書を楽しむことです!」と伝えると学生たちの表情も少しほぐれました。

続いて、多読のイメージをふくらませてもらうために、実際に何冊かの本を読みながら以下のような活動を行いました。

(1) 絵から情報を読み取る
「えんにち」というほとんど文字のない絵本を使って、挿絵から読み取れることを自由に発言してもらいました。場所はどこか、どんな人たちがいるのか、何をしているのか…など。最後に「えんにち」とは何かを質問すると、「夏の午後に行われる市場のような催し」「お祭りの一種」など、それぞれにイラストから得たイメージをもとに答えてくれました。
次に日伊辞書の「えんにち」の項を読み上げました。ここで、参加者たちは辞書を使わなくても正しい意味が推測できていたことに気づくとともに、イメージの積み重ねと自分の想像力によって得た言葉の知識と、辞書で得た言葉の知識の確かさの違いを感じられたようです。

(2) 簡単な本の中にも、自然な日本語だからこそできる発見がある
「青い」という本をゆっくりと読み聞かせました。「青い空」「青い海」など、最初のほうは皆よく分かるという顔で聞いていましたが「青い野菜」「青信号」というところにくると「あれ?」という表情になってきます。中上級の学生の中にもこうした言い方を知らない人がいました。そこでルール①「やさしいレベルから読む」を再度思い出してもらい、簡単に見える本にも思わぬ発見があることを伝えました。日本に行かずに自然な日本語のシャワーを浴びられるのは、多読ならではの魅力です。「1冊読めば、日本に1日留学したのと同じくらい日本語にふれられますよ」という励ましの言葉で締めくくりました。

(3) わからない言葉を飛ばしつつも話の流れをつかむ
児童書から抜粋したイタリア語のテキストを用意し、一部の単語にあらかじめ印をつけておきました。参加者たちにそれぞれ2人組になってもらい、一人がテキストを音読する間、もう一人には印のある単語のところに来るたびに、相手の音読を中断して意味を尋ねてもらうようお願いしました。これは、わからない言葉をいちいち辞書で調べながら読む方法を疑似体験してもらうことが目的でした。感想を尋ねると、音読する側も質問する側も途中で話の筋がわからなくなり、イライラしたとのことでした。
そこで、次は印のついた単語を飛ばしながら各自黙読してもらいました。多少の単語を飛ばしても話の流れはつかめるということを実感してもらい、その後の多読でもわからない単語に出会うたびにストレスを感じることなく、ストーリーを追えるように導きました。

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(ガイダンスの様子と使用した資料)

ガイダンス終了後は、各自が選んだ本を読みます。本が読み終わったら、読んだ本のタイトルとレベルを多読手帳に書き込んでいきます。多読手帳への書き込みは、読んだという達成感を学生が感じられるのか、積極的に書き込む学生もいました。

学生の多読の様子

(学生の多読の様子)

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(多読手帳)

1時間自分のペースで読書をした後は、シェアリングセッションです。ここでは3つの質問(①今日は何冊の本をよみましたか。 ②今日読んだ本は簡単でしたか、難しかったですか。 ③どの本がいちばん気に入りましたか。それはなぜですか。自由に話して下さい。)を提示し、その質問についてグループでイタリア語もしくは日本語で話してもらいました。

アンケートによると、「他の人と読んだことを語るのは大事です。」や「他の参加者との会話も楽しい。」という声がありました。確かにシェアリングセッションでは、同じ本を読んだ人と共感したり、また中級の学生が初級の学生に読み方をアドバイスしたりと、多読会ならではのリレーションが生まれました。

シェアリングセッションの様子
(シェアリングセッションの様子)

2018年1月~3月は、日本語講座生のみの参加で、出席者は平均毎回16名でした。
4月~6月は、日本語学習者ならだれでも参加できるようにしました(後述)。出席者は平均15名。全6回を通して参加者は大学生、30~40代の社会人が多く、ほぼ全回出席した人も5,6名いました。

では、この多読会について学生たちはどのように感じているのでしょうか。毎回会の終わりに実施したアンケートから学生の感想を紹介したいと思います。

Q.辞書なしで本を読むことはどうでしたか。という質問では、簡単だった11%、やや簡単だった51%となり、62%の参加者は辞書がなくても簡単に本を読めていることがわかりました。

またQ.辞書が使えないので、わからない言葉があった時に、ストレスがあったか。という質問に対しては、あまり思わないと答えた参加者が65%、思わないと答えた参加者が21%おり、辞書がなくてもストレスがなかった参加者は86%でした。

Q.語彙、文法、文脈について自分の理解が正しいのか不安になる。では、あまり思わない55%、思わない13%とあり、68%の参加者は語彙・文法・文脈の完全な理解がなくても大丈夫だと感じていることがわかりました。

アンケートの自由記述欄にはこのようなコメントがありました。
・多読を通して日本語に自信を持てたから。
・辞書なしでも読めるようになった。難しい本でも2度目には良く理解できるようになる。
・たとえ簡単な本でも、完全に理解できていなかったとしても、1冊の本を読み切る満足感がある。
・多読は、とても興味深い方法だと思う。わからないことが怖くて読もうとしなかった本を読むきっかけをくれた。
・多読のおかげで辞書を使わずに新しい言葉を覚えるようになりました。

このように、参加者の多くは、多読という読み方を楽しめているのですが、それ以上に私たちが強調したいは、アンケートのQ.日本語を読むことを楽しめましたか。の回答が、とても楽しめた87%、楽しめた13%で、一人も楽しめなかった学生がいなかったことです。レッスンでは日本語が難しいと思う学生も多くいますが、多読会ではそれぞれが自分のペースで本を読み、読んだということを実感し、それが日本語を読む楽しさになっているのではないでしょうか。

つまり、何冊読んだとか、難しい本を読んだことよりも、「多読をやってみたら日本語を読むのが楽しくなった!」というのが、会館の学生の多くが感じたポイントだったのです!

会館の学生だけがこの醍醐味を味わうのはもったいない!そう考えた私たちは、2018年4月から会館の日本語講座の学生以外も多読会に参加できるようにしました。
これからは会館だけと言わず、ローマやイタリア全体で、多読会を通じて「日本語を読む楽しさ」を伝えていきたいと思っています。

国際交流基金ローマ日本文化会館
日本語指導助手 印藤礼子
図書館司書 吉田和子

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’何冊読んだとか、難しい本を読んだことよりも、「多読をやってみたら日本語を読むのが楽しくなった!」というのが、会館の学生の多くが感じたポイントだった’・・・このくだりを何回も読んでしまいました。

実に適切かつ丁寧なガイダンスと運営。日本語を学ぶ楽しさを伝え、また、日本語講座受講生だけでなくだれでも多読会に参加できるようにしたというところもすばらしいですね。
また、日本語教師と司書さんの協働であるという点も重要です。いまさらながら多読と図書館のなじみのよさを感じました。

2014年から多読クラスを設けている関西国際センターのほかにシドニーの日本語国際センターでも多読クラスが続いているようです。

国際交流基金シドニー日本文化センター(多読向きの図書の紹介もたくさんあります)
https://jpf.org.au/library/tadoku-reading-nights/

世界の国際交流基金図書館で日本語多読が実現しますように。

(粟野)