12/17(日) 第6回日本語多読支援研究会 報告①

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毎年年末恒例の日本語多読支援研究会は今年6回目を迎えました。
12月17日午前、オンラインで開催され、世界各地の会員の方を中心に、多読に興味を持っている方、実践されている方が44名集まりました。
終始和やかな雰囲気で、多読談義に花が咲き、よい1年の締めくくりとなりました。

前半は、会員の桂千佳子さんによるワークショップと地域の多読教室に関する2つの事例報告がありました。
後半は、トピック毎のブレイクアウトルームに分かれ、楽しく意見交換を行いました。

まずは、ワークショップの報告です。

ワークショップ「多読の導入を考える~絵を読むことの意義」桂千佳子さん(東京学芸大学・NPO会員)

酒井邦秀NPO元理事長は、外国語を母語のように獲得するためには、場面・人の気持ち・ことばを吸収するのに適している絵本から始めるべきだと言っています。そして、NPOのサイトに紹介された多読の4つのルールでは、「絵がついている読みものから読む」「絵を見て読む」など、繰り返し「絵」が強調されています。そこで、多読における「絵」の重要性を考えてみようというのが今回のワークショップのテーマでした。
  

まず、4名ほどのグループに分かれてアイス・ブレイクをしました。桂さんから、ある物語の出だしが紹介され、その中の「ある寒い日のことでした」という文からどのぐらいの寒さを想像したかという問いかけがありました。自分が想像した温度について話してみると、「10℃ぐらい」という人もいれば「-10℃ぐらい」という意見もあり、同じ言葉であっても読み手は実に多様な受け取り方をしているのだと、各グループで実感しました。

その後、違う読み方で同じ物語を読んでみる(聞いてみる)体験をしました。使用されたのは、レベル別日本語多読ライブラリーの『女の子』(レベル1)で、これを1回目は音声だけで、2回目は絵を見ながら聞きました。桂さんの読み聞かせでじっくりと物語の世界を楽しんだ後、この体験を通してどんなことを感じたのか、再びグループに分かれて、自由に話し合いました。最後に、絵を読むことの意義を「絵を読むことは・・・・だから重要だ」という文にまとめて、全員で共有しました。以下は、各グループから出てきた回答です。

  • 絵を読むことは「物語の世界観が広がる」から重要だ。
  • 絵を読むことは「お話の道案内をしてくれる」から重要だ。
  • 絵を読むことは「読書を楽しむ第一歩だ」から重要だ。
  • 絵を読むことは「本の内容(ストーリー、世界観、気持ち)をより深く、一瞬で理解できる」から重要だ。
  • 絵を読むことは「安心して読める、母語を介さずに物語に入っていける」から重要だ。
  • 絵を読むことは「情報量が多い」から重要だ。
  • 絵を読むことは「場面を想像する助けになる」から重要だ。(しかし、助けにならないこともある)
  • 絵を読むことは「絵から得た情報があるので、とんでもない読み違いも避けられる」から重要だ。
  • 絵を読むことは「言葉だけでは伝わらないイメージを共有する」から重要だ。
  • 絵を読むことは「言葉の後ろに広がっている世界を知ることだ」から重要だ。
  • 絵を読むことは「感情が動かされること、そして感情が動かないと言葉は体得できない」から重要だ。

参加者から、以下のようなコメントが寄せられました。

・多読における絵の役割を実感できた。
・多読における「絵の役割」についてはあまり考えたことがありませんでしたし、実際の支援においてもそれほどフォーカスしていなかったが、多読における絵の役割や重要性について考えることができました。
・学習者の方の立場をリアルに体験できて、とてもよかった。
・二つの読み方を実際に経験することは説得力があった。
・大人である生徒・学生に多読の意義を伝えるためのアプローチとしてよいと感じました。
・多読が「主体的で多様な取り組み」であること、復習できた。
・ディスカッションをしたことで、自分の考えややり方の整理につながりました。
・少人数で何回も話すことができて、たくさんの気づきを得ることができました。

休憩を挟んで、粟野真紀子NPO理事から、「地域の多読教室の現状」として、日本国内の各地で多読を取り入れた活動が増えてきている様子が紹介されました。そして、長野県上田市と兵庫県三田市の二つの実践報告がありました。

「多読教室立ち上げまでの経緯~長野県上田市の場合」岩崎容子さん(長野県地域日本語教育コーディネーター・NPO会員) 

地域の日本語教室では、学習者が多様でレベル差も大きいため、ボランティアが支援者である場合、日本語を教えることへのハードルの高さが問題になります。岩崎さんは、このような日本語教室には「多読」が向いているのではないかと考え、支援者研修で紹介をしました。上田市の日本語教室が、早速多読の活動を取り入れましたが、うまくいかないとアドバイスを求めてきました。そこで、まず多読を知ってもらうために支援者に多読を体験してもらい、その後、お試し多読教室を経て、参加者の希望で多読クラスがスタートしました。今後は、補助金を利用して、子供も対象にした多読教室にしていけたらいいと考えているそうです。

「つながる広がる『多読の時間』」 中村恵美さん、金井典子さん(三田市国際交流協会)

三田市国際交流協会で開催している、日本語教室(日本語サロン)と子どもを対象とした日本語教室で多読を取り入れた報告でした。同じ日本語学習支援者に対して理解を得ようと、多読Q&Aを作るなどの工夫もしていらっしゃいます。現在はレギュラー参加者もあり、みなさん多読を楽しんでいるそうです。また、日本語だけではなく、母語で絵本の読み聞かせをする機会を作ったり、図書館に行ってみるなどの活動も取り入れています。今後は、図書館の良さ(本の準備、部屋の準備、広報・周知など)を生かし、図書館と連携を深めていきたいとのことでした。詳しい報告はこちらをご覧ください。→三田市国際交流協会 日本語サロンさんだ「多読の時間」報告 – NPO多言語多読ブログ (tadoku.org)

どちらの報告でも、地域の日本語教室で多読を取り入れていく際の、支援者に対する支援の重要性が語られていたことが印象的でした。

(正会員・片山智子)