第9回「多読支援セミナー」報告 その①

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8月8日(土)、9日(日)の2日間に渡り、第9回「多読支援セミナー」を開催しました。初のオンライン開催となった今年は、例年の倍近く――148名のお申し込みがあり、その内、2割は海外から、6割は東京以外の地域から駆けつけて(?)くださいました。また、多読支援「未経験」の方が全体の3割を占め、多読普及という点でも過去にない広がりが見られました。

プログラムは、興味のあるセッションに自由に参加するという形ですすみ、普段は見ることができない他の言語の支援の様子や、コロナ禍で迫られたオンライン授業での試行錯誤など、様々な支援の形を通して多読の本質が浮かび上がるセミナーとなりました。

セミナー初日(8日)の報告です。

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(A)開会挨拶 / 多読QAセッション + 交流会

参加:98名 / 報告:小川

粟野理事長による開会挨拶は、今年のテーマ『多読支援の本質~コロナ禍で見えてきたこと』について、対面でもオンラインでも変わらないものが多読にはあるはずで、つきつめると本質的なものが見えてくるのではないか、という説明から始まりました。「多読は、読む人の持っているものすべてと、本との会話」であり、支援は徹底的に「読む人中心主義」であること、「先生が教えるものではなくて、みんなに楽しくやってもらうもの」「自分の好きなものをやってもらうもの」という前提が強調されました。

多読QAセッションでは、事前アンケートで寄せられた質問のうち多かった6項目――①辞書を引かないことについて、②どんなレベルのどんな素材を読むべきか?、③多読の効果、④支援者が怠けているみたい(に見える?)、⑤読んでもらう/続けてもらうには?、⑥評価・進歩の測り方――について、英語多読と日本語多読の支援者が回答する形で進行しました。

休憩をはさみ、小グループに分かれて自由に多読について語り合う交流会を2回行いました。

(B)学生作品上映会

参加:約90名 / 報告:高橋

前夜祭プログラムの2つ目は、学生が自発的に作った作品上映会です。作品はいずれも、学生がたくさん読んだり見たり聞いたりした後に出来上がったものです。夜遅い時間(※日本時間22時)にもかかわらず、90名強の参加がありました!

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学生本人による読み聞かせからスタート。出身である香港のしゃぶしゃぶについての読みものには「相棒」ということばが出てきました。これはかの有名なドラマを見て、読みものにも使おうと思ったとのことでした。作品は多読や多聴・多観の経験がふんだんに生かされていて、コロナウイルスに関する読みものや字なし絵本をはじめ、動画、ゲーム、歌、そして金沢市街の立体地図といった芸術作品まで、力作が多数披露されました。注目すべきは、そのいずれの作品にも支援者の手がほとんどかかっていないということ! 学生の創造力に驚きの声が多く上がりました。

(C)子どもの継承語及び第二言語と多読

参加:85名 / 報告:纐纈(はなぶさ)

多読によって子どもの言語獲得がどのように出来るのか考えてみたいということで、このテーマでのセッションを企画しました。日本語・英語双方の支援者の報告のほか、継承語として日本語を習得したゲストも加わって、活発な議論が行われました。

1番目は山形 noA’s English Club 荻野藍さんの報告「親子英語多読と読み聞かせ」でした。多読を通じて子供の思考力を育てていくというお話には大きくうなずかされました。日本国内の外国にルーツのある子どもの継承語教育の現状について示唆される方もいて、テーマの大きさに改めて気づかされました。

2番目の米国スミス大学高橋温子さんの「読み聞かせから始めるこどもたどく」は、ご自身のお子さんへの多読支援についてでした。多読の原則を守りながら読み聞かせをしているそうです。支援側も楽しむことが一番の効果をもたらす、というお話が印象的でした。

最後に、継承語習得の成功例として、NPO多言語多読の理事・松田緑さんとお孫さんのルカさんにお話を伺いました。ルカさんはフランス語が母語で、6歳の時に日本語が全く分からない状態で来日、高校までフランス人学校に通ったそうですが、読み書きも含め、かなり高度の日本語を身につけられました。意識して日本語を学んだ記憶はないそうですが、学校での日本語学習の他に、祖父母とは日本語のみで接し、友人たちよりも多く日本語に接したそうです。

セッションには予想をはるかに上回る85名が参加し、このトピックに対する関心の高さがうかがえました。質問や発言も多く、時間内ではとても語り尽くせませんでした。

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報告その②に続きます。

(事務局)