年の瀬も押し迫ってきましたが、みなさんにとって今年はどんな一年だったでしょうか。クリスマス直前の12月22日、日本語支援研究会が行われました。もともとNPO事務所で忘年会を兼ねての相談会としてスタートしたこの集まりも、第7回目を迎えました。コロナ禍の2020年からはオンライン開催となり、今回は海外(アメリカ、タイ、インドネシア)からの13名を含む40数名が参加しました。久しぶりに多読仲間と顔を合わせ、多読談義に花が咲きました!
前半は、3本の発表を聞きました。後半は、トピック毎のブレイクアウトルームに分かれて小グループで話し合いをしました。
まず、粟野理事長により、本年度のNPO多言語多読の日本語多読に関する簡単な活動報告がありました。読みもの作りの継続および外部への広がり、対面での多読支援セミナー開催、多読本が読書バリアフリー図書として普及プロジェクトに参加したことなどが挙げられました。
その後、早速、3本の発表に移りました。
発表1「多読クラスはリーディング力向上につながるか:米国中西部の小規模大学のケーススタディ」杉森典子さん(米国カラマズー大学)
10週間多読授業を受講した学生グループが1年後にSTAMPテスト(日本語の4技能の能力を測る試験)を受けたところ、リーディングの点数が留学経験者より高かったとのことでした。日本語多読は果たして日本語力向上に効果があるのか?という疑問は、おそらく支援者の多くが感じていることなので、杉森さんが「多読は読解力を上げる!」と最初にはっきりと言ってくださったのは、大変心強かったです。
写真で見ると、本を読むスペースはリラックスできそうなとても素敵なところだったのですが、そこには多読本がないため、寒い雪の日にも学生と手分けして紙袋に入れて運んだとか。支援者の熱意なくして多読は成り立たないのだと改めて感じました。授業には外部からのゲストスピーカーや近隣大学の図書室への遠足などが組み込まれていて、学習者に好評だったようです。
今後また初級多読の開講を考えているとのことなので、さらなる展開が楽しみです。
発表2「パリ日本文化会館の多読活動−出前多読サロンとぼくよむ文庫」三浦多佳史さん(元国際交流基金パリ日本文化会館、NPO会員)
多読実施の一番の難関は本を集めることなので、パリ日本文化会館では多読書籍を100冊ほど携え、希望する機関に駆けつける「出前」をしているそうです。2022年からの2年半で71回、35ヶ所に出向き、子供から成人まで1200 人以上が参加したとのお話には、驚きました。
どの本を読めばいいか分からない人たちのために、動物、食べ物、怖い話などジャンル別に本を並べる工夫をしているそうです。
また、低いレベルの読みもの不足を補う目的で、田丸雅智さん考案の「田丸式メソッド」を応用した多読本作成にも取り組んでいらっしゃいます。このメソッドを使ったショートショートの書き方を、実際に「みうらくんがやってみた」という形で見せてくださったのが、とても分かりやすかったです。
多読素材作りワークショップも行われ、現在14の完成作品が「ぼくよむ文庫」のサイトに公開されています。
発表3 「多読本VS紙芝居―楽しみ方の構造―」池田あきつさん(インターカルト日本語学校、NPO会員)
池田さんは、NPOの読みもの作成講座および日本語サロン悠々人の「紙芝居作成ワークショップ」に参加経験があり、現在は「チームにほんご紙芝居」で日本語学習者向け紙芝居を作成していらっしゃいます。また、NPOの「無料の読みもの」の挿絵も何話か担当してくださっています。
多読本と紙芝居の制作に関わっている立場から、2つの媒体の共通点と違いを示し、紙芝居ならではの楽しみ方を語ってくださいました。紙芝居が、木枠という「舞台」上で繰り広げられるパフォーマンスであり、魅力あふれるエンターテイメントであることがよく伝わってきました。今後、多読授業に紙芝居を取り入れたいと思う支援者が増えるかもしれません。また、池田さんが思う読書のイメージとは人気TV番組「孤独のグルメ」の冒頭に流れるナレーション「…誰にも邪魔されず、気を使わず、ものを『読む』という孤高の行為。この行為こそが現代人に与えられた最高の癒しである」にぴったり重なるとの事でした。たしかに! 読書と人気TV番組「孤独のグルメ」には、well-beingにつながる共通点があると気付かされました。
発表は三者三様、視点も内容も異なっていましたが、いずれも大変興味深かったです。
(正会員 纐纈 記)