11月12日(日) 第10回シンポジウム「図書館多読への招待 in 町田」 報告②

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午後の部は図書館関係者が対象です。公共図書館職員、学校図書館司書など19名(各グループに入ったNPOスタッフを含めると24名)が参加されました。前半は5つの実践報告、後半はグループごとに課題を考えるワークショップ「できることから はじめてみよう」を行いました。

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実践報告①「図書館多読:蔵書管理を考える」
──新宿区立四谷図書館 滝口博子

四谷図書館は、英語多読図書の蔵書数・多読コーナーの設置歴ともに東日本一といえるでしょう。それゆえに、資料数増による配架の問題、古くなった資料(朗読音声CDを含む)の修理や買い替えの問題に向き合っています。滝口さんは「蔵書管理とは?」として、①資料の維持・管理、②コレクション構成、③予算の確保・運用、を挙げ、この3項目に分けて実務上の工夫を具体的に紹介されました。「少し先を見すえた蔵書管理」「すぐに対応する瞬発力と柔軟性」「利用者のニーズに合った蔵書構成」の3つのポイントに加え、多読担当以外の職員とのコミュニケーションも大切であることがよくわかりました。

実践報告②「英語多読クラブ始めました!~見切り発車しましたが何か~」
──江戸川区立西葛西図書館 三石健介

「英語多読くらぶ E-Tadoclub」を三石さんが始めた理由は、洋書が借りられず棚から動かないこと、とりあえず入れてみた多読資料もだんだんと借りられなくなったことでした。多読資料を借りていく人も、カウンターで接していると精読するために読んでいるようで、多読資料の使い方を普及する必要があることに気づいたそうです。一番いい方法として多読クラブを作ることにしたのですが、イベント予算がありませんでした。自分がやればお金がかからないし、英語を教えるわけではない。資料の使い方を教えること・読書相談はいつもやっている図書館サービスが英語になるだけ、と図書館員の役割として考えたそうです。「多読の資料を有効に使う方法を広めること」を目標に、クラブでの多読体験の方法を入念に準備しました。「参加者が主役」であるために、「英語、よくわかりませんスタンス」を貫くことを心がけているそうです。参加者と一緒にクラブを作り上げることで、開始以来4年で上がった複数の成果が紹介されました。

実践報告③「生涯学習と英語多読のいい関係」
──町田市立図書館 吉田織子

今回のシンポジウム開催地である町田市の市立図書館は、コロナ禍の2020年から英語多読支援を始めています。同年3月の英語多読コーナー開始予定が延期になり、多読講演会も中止になりましたが、その後3館で多読コーナーが始まりました。今年の2月からは多読コーナー設置が6館に増えたそうです。町田市は縦横の距離が長いという特徴があり、日常的に図書館に通うことが難しい方が多くいるため、住んでいる地域で多読を始められるように地域館に多読の入口として多読コーナーを設けています。ORT(Oxford Reading Tree)を実際に手に取ってもらえるように環境を整えて、各館にやさしい絵本を中心とした多読資料が入っているそうです。中央館や洋書コレクションをもつ館だけでなく、地域館にも多読コーナーを設けて多読と出会う場所をつくっている地域はまだ少なく、これは町田市の特徴といえます。吉田さんは、生涯学習の視点からも「子どもから大人まで、図書館の本を楽しんで読んでもらえる」英語多読をとおして、「読書を楽しんでもらいたい!」という図書館の希望を伝えてくださいました。

実践報告④「都立高校における図書館の多読支援と取り組みについて」
──東京都立杉並総合高等学校 植木圭

都立杉並総合高校は、外国語学習に特徴がある学校です。第二外国語(中国語・韓国語)が必修科目で、「在京外国人生徒」受け入れ校でもあり、海外留学生も受け入れています。選択科目の英語多読授業は開校時から行われているそうです。植木さんは国語科教員で、司書教諭として図書館運営に携わっていて、現状での課題などをお話されました。今後の展望として図書館でも多読をできるスペースを作って行きたいという事や、多言語の多読への支援もしたいということで、貴重なお話を伺うことができました。

実践報告⑤「公立図書館での日本語多読支援の取り組み その後」
──NPO多言語多読 粟野真紀子

2019年の第6回シンポジウムで、粟野理事長から公立図書館での日本語多読支援について報告しましたが、今回は「その後」の紹介でした。コロナ禍によって予定された日本語多読イベントが中断した経緯がありましたが、ようやく今年から対面でのワークショップ開催が再開しています。参加者からは大好評ですが、参加人数が少なく、外国人の図書館利用がまだ少ないことがうかがわれます。図書館での日本語多読が、これから広がることを期待します。

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後半はワークショップ「できることから はじめてみよう」をおこないました。多読導入を検討中の図書館、導入済の図書館が、小グループごとに支援の実践について語り合いました。

質問やお悩みが出された後で、導入館からのアドバイスを共有する時間が足りなかったのが、進行側としての反省点です。実践経験の知見が伝わり、深まるように時間と方法を工夫したいと思います。


  • グループA

△各グループで悩みを付箋に書き出しグルーピングしました。左右にスクロールするとグループA〜Dのまとめが見られます。写真をタップすると拡大表示できます。

閉会後、町田市立中央図書館の英語多読コーナー見学が行われました。

東京でのシンポジウムは4年ぶりでした。開催にご尽力をいただきました町田市立図書館の中嶋館長、職員の皆さまにあらためて感謝いたします。

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シンポジウム「図書館多読への招待」は、今回で10回目の節目を迎えました。この間にコロナ禍がありましたが、年1度の対面での開催を、中断することなく継続することができました。多読の導入館は年々増えて、地域住民の生涯学習を支えています。図書館の公的支援によって、地域の誰もが多読を楽しめるようになります。図書館での多読支援を学びあうために、来年の秋もシンポジウムを開催する予定です。

(小川、米澤、事務局)