9月3日(日)日本語多読授業入門講座 報告

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今年に入って7回目にあたるオンライン日本語多読入門講座が、9月3日に開催されました。今回、国や所属などバラエティーに富んだ4名が参加しました。その内訳は、沖縄のアメリカ人児童向け日本語教室勤務の方、シンガポールでシンガポール人児童に日本語支援をしている方、中国で日本語の塾をしている方、そしてアメリカ中西部の州立大学の司書の方でした。このように多様な機関から参加者が集まるのも、ひとえに応用の効く多読だからこそで、その懐の深さを改めて感じさせられます。今回の講座では、理論を纐纈(はなぶさ)、実践を高橋亘の会員2名が担当しました。

まず、纐纈が、多読が生まれた経緯や精読との比較、日本語多読のルールについて説明しました。そして、Graded Readersと市販本などの多読用読みものの特徴を紹介しました。また、多読では読書の楽しさを強調しますが、日本語力の伸びにどのぐらい効果があるのか?という疑問を感じる方もいるはずです。そこで、4-5学期間継続履修した学習者のオンライン読書記録をお見せしました。読んだ本のレベルをグラフ化したことで、学期を追うごとに選書のレベルが上がっていったことがお分かりいただけたかと思います。とはいうものの、多読が目指すのは、単なる言語スキルの習得ではなく、感動体験を通じて読書のすばらしさを知ってもらうことだという点を強調したつもりです。最後にインプットの重要性や、多聴多観活動にも触れました。

高橋が担当した実践部分は、絵本「あいちゃん」を使った字のない本を読む体験から始まりました。文字以外の視覚情報の大切さを感じていただけたのではないでしょうか。それから、実際の多読実践について、環境整備や授業前の準備、成績のつけかたなどを含めて説明がありました。教えない授業である多読では、教師の役割について質問を受けることがよくあります。スライドによると「学習者が静かに読んでいる間、支援者はけっこう忙しい!」とのこと。学習者一人ひとりとのコミュニケーションを大切にし、感想を聞いたり、次に読む本を一緒に考えたりするべきだとの話でした。

 

他に、ブックトークや自己評価、最終課題などが示され、学習者の声も紹介されました。様々な例があったことで、具体的な多読授業がイメージできたのではないかと感じました。

休憩後、質問を受けたり、ディスカッションをしたりしました。「多読と他の授業との兼ね合い」「本の並べ方」「多読を始める時期はいつごろが理想的か」「オンラインと紙の本のどちらがいいか」などの質問がありました。多聴多観のためのyoutubeの活用についても話し合いました。

 

以下事後アンケートからの抜粋です。

・多読を通じ心を豊かにし日本語や日本文化を楽しく触れることができると感じました。

・メールで予習用に紹介してくださったビデオやウェブサイトの資料も、理解を深める上で大いに役立ちました。

・まずは絵だけの読み物を一緒に読んでみたいと思います。

・大学では既に多読を導入しており、その導入の際、にほんご多読のウェブサイトで紹介されている情報を大いに参考にさせていただきました。

・にほんご多読のウェブサイトで紹介されていない日本語書籍を購入した際に、それらの本をどういう点に留意して多読用にレベル分けすべきか伺ってみたかったです。

・おすすめの素材やその使い方についての勉強会があると有難いです。

・教師が実際にどのように学生さんに接したら良いか(声かけなど)学びたいです

 

今回、参加者の方から、多読をもっと取り入れたいのだが、受験のために日本語を勉強している学習者にはなかなかそのよさを理解してもらえないというお話がありました。たしかに、多読が目指しているのは言語の試験の点数を上げることではありません。様々な場所で点数が求められている以上、埋められない溝があることも事実でしょう。しかしながら、近年、初等教育やスポーツの場面などでも、主体性や個性の尊重が重要視されるようになってきています。そこには多読との共通点が多々あります。いずれ社会全体が、多様性・柔軟性にあふれた多読を受け入れるよう変化していきますように。まだまだ時間はかかりそうですが、そのことを切に願っています。

(正会員:纐纈憲子)