第12回「多読支援セミナー」報告 その② 日本語分科会

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8月6日に第12回多読支援セミナーを開催しました。報告第2弾は、日本語分科会の様子をお伝えします。

(J1)実践報告~外国にルーツを持つ児童生徒の多読

報告:高橋

午後の日本語分科会前半は、外国にルーツを持つ児童生徒に焦点を当てた発表でした。

二言語読書プログラム~保見中学校における実践2018-2020
──松本友美(豊田市立西保見小学校)

外国にルーツを持つ児童生徒が多く住む豊田市保見地区での読書推進活動の実践報告でした。保見中学の「ワールド図書館」では、日本語だけでなく、母語の本が用意され、二言語での読書が奨励されているそうです。また、この読書プログラムは教室外での読書への足場かけという位置づけで、生徒が読書に意欲的に取り組むような工夫がきめ細かくなされているところが大変印象的でした。実際に、本が生活に入り込むようになった生徒も出てきた、ということでした。

読み書きの力を育む活動~レベル別多読用図書を使った試み
──和田さとみ(岐阜県立東濃高校)

東濃高校は、全校生徒の半数以上が外国にルーツのある生徒です。
国際クラスで読み書きの力を育む活動中に、レベル別読みものを使用しているそうです。読んだ後そのあらすじを書くことによって、より深い読み方になり、リテラシーが向上するとのこと。ある生徒さんは活動の結果、書くことに慣れ、次第にまとまりのある文が書けるようになったそうです。今後は演劇活動を取り入れることも考えているとのことでした。

(J2)実践報告~大学、社会人の多読

後半は大学、社会人の多読に関する発表でした。

「絵を読む」を伝える~多読の読みへの誘い
──桂千佳子(東京学芸大学留学生センター)

多読授業の初回はとても大切です。それまでの「勉強」から離れて、多読の考え方、そして読み方のルールをいかに伝えて納得してもらうかを考えた桂さん。写真カードで対話するワークを導入し、個人の絵を読む多彩さを実感する活動を行いました。その結果、学習者が「読む」ことを多読的に捉え直し、「文字の向こう側にある世界」にスムーズに入っていけるようになったそうです。

授業内多読活動で見られた自己調整学習プロセスのインタビュー分析ー理論化に向けた試み
──八木真生(法政大学)、加藤みゆき(NPO法人キッズドア)

多読活動に参加した中級~中上級学習者にインタビューし、学生が多読する中でどう自己調整学習を行ったのかを分析した報告でした。学習者は、多読のルールにしたがって読みながら、さまざまなストラテジーを獲得して「読み」を上達させ、日本語学習法についても新たな考えを持つに至っていたことがわかったそうです。

エディンバラ・Ippo Ippo Japaneseの多読―神田外語大学における実践で実った種を蒔く
──小林ひとみ(日本生活・語学支援機構 日本語指導顧問)

エディンバラで実施されている日本語ブッククラブの準備やふりかえり、支援者の気付きや学習者の反応、さらには活動に関するふりかえりに関して、報告がありました。これからクラブを始める人へのTIPSもご紹介いただきました。

各発表後には参加者との質疑応答が行われました。

(J3)小グループに分かれての語り合い

報告:粟野

申込の際、記入されていた話し合いたいトピックをもとに、以下の4つの部屋を作りました。参加者には、自分の興味のある部屋に自由に移動してもらい、15分のセッションを2回行いました。

①多読授業の進め方・悩み・疑問

多読授業をするときの多読素材の選び方を巡って質問が多く出たようです。
「(多読用図書は)社会人にとっては、幼く感じるのではないか?」「ネットの読みものから(学習者にとっての)向き不向きを選ぶのが難しい」「市販本の選び方」
これらの質問について、正会員の片山さんが答えていく形で進みました。

②多読のよさの伝え方──学生に・同僚に・上司に

学生や同僚や上司に、どうしたら多読のよさを伝えられるか、悩んでいる方は多いと思われます。
「学習者に対しては、実際に本を読んでもらって体験してもらう。同僚に対しては、本を紹介して、まずは使ってもらう。でも、多読をしたいと思わせるにはなかなか至らない」
「教師向けに多読を紹介するデモの場を設けているが、集客が難しい。どうやったらそのデモに来てくれるか」
「上司に対しては理論的に迫るのがいいのではないか」
などの悩みやアドバイスが上がっていました。

③ちょこっと多読

カリキュラムに多読を組み込めない場合、既存の授業をなんとかやりくりして時間を捻出、短時間でも本を読んでもらうのが「ちょこっと多読」です。
現在「ちょこっと多読」実践者を中心に情報交換、悩みを共有し合いました。

④多読的な授業って? 多読のその先

多読は、従来のアプローチとはかなり異なる言語獲得方法なので、多読授業を実践している教師は、多読以外の「文法」「語彙」「読解」などの従来の授業とのギャップをどう埋めているのでしょうか。「文法の授業も寺子屋方式で行っています。その方が学習者一人一人がよく考える。そのうちクラスメート同士で相談し合う姿が見られる」と話してくれた方も。

十分な時間とは言えませんでしたが、その他、さまざまな質問や疑問、悩みの共有の時間となりました。

* * *

報告③に続く。

(事務局)