7/22(土)ICT研究会 ワークショップ「多読を考える」@広島大学

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7月22日(土)に広島大学で開かれた、第9回ICT利用の日本語教育を考えるのワークショップで多読についてお話ししてきました。
この研究会は、広島大学の森戸国際高等教育学院(留学センター)が中心となって中国四国地方の大学や日本語学校など日本語教育関係者とともにICT(Information and Communication Technology)利用の日本語教育について学び合うことを目的にしている会です。
参加者は、約30名で、広島や四国の大学、日本語学校の先生でした。
「多読を考える」と題された今回のワークショップは全部で3時間。久々の対面での本格的なワークショップでした。
はじめに「多読」という言葉を知っている方に手を挙げていただくと、ほとんど全員の手が上がりました。英語多読を実践している方も。ただ、多読を詳しくご存じの方はいらっしゃらず、多読用図書も中身は見たことがないとのことでした。日本語教育と多読の距離は、まだまだ遠いようです。

さて、最初の1時間は、「多読とは?」。多読は従来の「読解」とどう違うのかという話から多読の読み方のルールやその理由、支援者の役割についてお話ししました。また、実際に学習者がどんな風に多読をするのか、その様子も動画でお見せしました。

休憩をはさんで次の小一時間は、最初のワークショップ「多読をしてみよう!」です。
まず、字のない絵本「あいちゃん」をプロジェクターで映し、絵を読む経験をしてもらいました。「読む」というのは、活字を文法や既知の言葉で解読することではなくて、本の世界全体に浸ることだということを実体験していただきたかったからです。
その後、テーブルの上に置かれた「レベル別日本語多読ライブラリーにほんごよむよむ文庫」や「にほんご多読ブックス」、市販の絵本などをそれぞれ手に取って読んでもらいました。20分ほどの時間でしたが、途中で声をかけるのが憚られるほど、みなさん、真剣に読んでいました。(多読授業の教室の雰囲気と全く同じ!)

何か読むと隣の人と話したくなるものです。その後のブックトークでは、各テーブルとも話が弾んでいました。『坊っちゃん』や『走れメロス』(よむよむ文庫レベル4)を楽しく読了した方、字のほとんどない絵本、絵本『あ』『なにかがいる』『おとうさん』を取り上げた方、『日本のお風呂』『おもしろい!日本のトイレ』『日本の行事』など日本文化が紹介されている多読用図書について語った方などさまざまでした。


2番目のワークショップは、「多読について考える」

ここまでの話と多読体験を経て今、多読について思っていることを付箋にたくさん書き出してもらいました。書いたら、それを肯定的コメント、否定的コメント、その他の3つのカテゴリーに分類して模造紙に貼っていきます。

こんな風にできあがりました。

7つの「島」から出てきた意見を拾ってみましょう。

多読に肯定的な意見
・教師も学生も楽しむことが一番
・面白いと思ったら言葉が生まれる
・色んな読み物を集めるのを色んな人とやってみたい
・自分も他の言語でやってみたい
・途中で止めてもいいのがうれしい
・「本を読む」ことができるようになりそう
・モチベーションに繋がる
・絵からだけで何かを思い浮かべるやり方はとってもいいと思う。
・オンライン多読はカラフルかつ楽しい
・自由
・正解はない
・自分でえらべるのがいい
・リラックス
・ブックトークが楽しい

多読に否定的な意見、または疑問
・先生/支援者の頭の切り替えが大変
・大人が子ども用の本をよむのに、ていこうはないか。
・ひとりひとり違うものを用意するのが大変そう
・続けられそうにない。
・読むのが好きじゃない人は?
・クラス内?外?
・どうやって学生をひきこむか
・自分のレベルよりもかなりレベルがやさしい本ばかり読んでもいいのかどうか
・読み飛ばしには勇気がいる
・ことばと場面が本当に体にたまる?
・興味をひく本の見つけ方が難しい(教師サイドとして)
・テキストの質、絵の質に左右され、よい物が必須
・文の構造を単純にして面白さを維持するには?

★その他
・どうすれば実践できる?
・読んだあと教師としてすることは?
・どのぐらいの時間を読む時間として与えたらいいのか
・オンラインでどんなふうに?
・最近の若者、そもそも読むのか?
・自分で絵本を描いて提供したい
・日本語のセンセはauthorになれるかな?
・絵本とレベル別の本を混ぜること 大事
・自分が学習者のときに多読に出会いたかった
・音読と黙読のさせかたで何か違いはあるか
・多読により言語能力が伸びたかの評価方法が知りたい
・よんだあと、はなす時間をつくってもよいかも(強制すると逆効果?)

その他にもいろいろな感想が並びました。
それをもとに島ごとに話し合っていただきました。

まず肯定的なコメントがとても多く、多読は楽しそう、やる価値があると思ってくださったようで一安心。半面、否定的な意見や疑問、その他のカテゴリーには、実際に多読を授業でやるとなったらどうするかという不安から来るさまざまな本音が並んだように思います。
いつ、どこで、何分ぐらい、どんな本を使って・・・これらは、それぞれの教育機関毎に事情が異なると思います。ですから、私からのお答えは「とにもかくにも、まずささやかに実践してみてください」これに尽きました。
手始めに10分でも20分でも時間がとれたときに、「ちょっと読んでみましょう」と本を並べ、気楽に読んでもらってはいかがでしょうか。そして、そのときの学習者の反応を観察してみてください。そこに、その後どう進めたらよいのかの答えがあると思うのです。多読は、学生中心で教師が脇役という、従来の「読解授業」とは真逆の授業なので、支援者がその価値や意義を感じなければ始まらない、逆に言えば、感じればそこから道が開けるのだと思います。
さらに詳しい授業のやり方については、毎月第1日曜日に開催している「オンライン日本語多読授業入門講座」へどうぞ、とご案内しました。
他に、多読によって言語能力が伸びたかどうかを測る評価方法は?という質問もありました。よくある質問ですが、多読の効果は、数字で表せるものではなく、多読している人自身が楽しく続けていることそのものです。言語能力はそれに自然についてくるものと考えて取り組んでいただければと思います。ここが従来の授業と違う多読の捉え方の難しさ、わかりにくさなのですが、学習者が夢中で本を読んでいる姿を見たら、きっとわかってくださるのではないでしょうか。
また、絵やテキストの質が決め手になる、教師はよい書き手になりうるか、などの素材に関するコメントもありました。たしかに読んで夢中になってもらえなければ多読になりません。ただ、これも、こちらが質を決めるのではなく、学習者に委ねて、学習者が好んで読むものを見極めていくしかないだろうと思っています。その意味でも、学習者には、コントロールされたレベル別の本だけでなく、本物の市販の本にどんどんチャレンジしてもらいたいです。ただし、一般の本はハードルが高いという矛盾もあります。さらなる多読本の制作、市販の本で多読に向く読みものの発掘が引き続き今後の大きな課題です。

最後にいくつかの質問にお答えした後、こちらから、「多読授業をやってみたいですか?」と質問しました。

1)ぜひ、多読を自分の授業に取り入れたいと思った。不安や問題があるが、前向きに考えたい
2)いずれ、取り入れてみたい・・・
3)難しい。取り入れたくない。

以上3つの回答のうち、一番近いのはどれですか、ということで挙手をお願いしたところ、ほとんどの方が1)2)という結果でした。

いろいろな疑問はあれど、多くの方にやる価値がある、と思っていただけたようです。
今日のワークショップで多読に興味を持ってくださったみなさんには、ぜひ「ささやかに」第一歩を踏み出していただきたいなあと願っています。

以下、アンケートからの抜粋です。

  • 自分で多読を経験でき、とても良かったです。リラックスして、いつでも読みものを変えて良いのは安心感がありました。ディスカッションも大変有意義でした。
  • お話を聞きながら、自分の多読体験や読解授業で感じていたいろいろなモヤモヤを思い出しました。学ぶ力を育むとはどういうことか・・・を改めて考えさせられました。
  • 多読の効果、勧め方、声がけの仕方など幅広く情報を得ることができ、とても勉強になりました。
  • 日本語学校でどのように取り入れたらよいか、考えるよい機会になった。まず、自分で多読をやってみようと思った。
  • 最近、初めて学校で母語の小説を読んでいる学生を見て、今だ!と思い、参加しました。授業外から、ちょっとずつやってみようと思えました。
  • 日本語の本で多読向きのものが、まだまだ少ないと思います。いろいろな分野で「楽しい」とおもえるものが増えると実践者の負担が減り、やってみる人が増えると思います。
  • ぜひ授業で導入したいものです。
  • もう少し質疑応答の時間がほしかったです。

確かに質疑応答の時間が短かったと反省しています。
入念に準備をしてくださった迫田久美子先生、素敵な締めくくりのスピーチをしてくださった西口光一先生、スタッフの先生方、大変お世話になりました。
広島大学のホームページでも、すでにこのワークショップの報告記事を報告していただいています。
ありがとうございました!

(粟野)