第11回「多読支援セミナー」報告 その③ 英語分科会

LINEで送る
Pocket

第11回多読支援セミナーの報告、第三弾は、英語分科会の様子をお伝えします。

(E1)素材紹介

報告:Katobushi(事務局)

英語分科会では、毎年、何人かの支援者に、それぞれの支援の現場で人気のある素材を紹介していただいています。

最初は、デジタルハリウッド大学の遠藤樹子さん(準会員)からの紹介です。大学図書館で開催している学生や大学職員向けの課外多読クラブや、一般の方向けのブックトークの会で人気の本を、ジャンル別に数冊ずつ、実践者の反応とともに紹介してくださいました。支援者として、「決めつけず・押し付けず・あせらず」を心にとめて、いっしょに楽しむ「場」を大切にされているそうです。

左から――多読Tadokuの入口、大学生にも大人にも大人気!:Oxford Reading Treeシリーズ、Elephant & Piggieシリーズ/大学生に人気のシリーズもの:Foundations Reading Libraryシリーズ、Cengage Page Turnersシリーズ、日本のコミックの翻訳版/ノンフィクションおすすめシリーズ:Robin Hill Schoolシリーズ、Getting to Know the World‘s Greatest Artistsシリーズ/ファンタジー人気シリーズ:Bunniculaシリーズ、The Zack Filesシリーズ、Flat Stanleyシリーズ

次に、家庭文庫として小学生や中学生に多読支援をされている矢野さん(準会員)から、一冊の絵本とそこからどんどん世界を広げて行った子どもたちの様子が紹介されました。
The Pancake に描かれている「青い」炎に疑問をもち、温度による炎の色の違いやガスの仕組みまでたどり着いてしまった小学生の話や、一方で、学校で疲れて多読どころではなさそうだからと Oxford Reading Tree の「メガネ探し」をして遊んでいたら「読みたい」と言い出した、なんてかわいいエピソードも。学習塾でも英語教室でもない空間で楽しいひと時を英語に触れながら過ごしてほしい、と締めくくられました。

(E2)実践報告

報告:山岸 典子(正会員)

素材紹介に続き、公立学校で中高生の支援をされてきた栗下典子さん(中部学院大学非常勤講師/元岐阜県公立学校教諭)、NPO多言語多読で社会人向けのオンライン多読講座を担当されている小川和子さん(NPO多言語多読理事)からの実践報告がありました。

栗下さんは、学校で多読を取り入れたい先生がよくぶつかる壁――例えば、自発性に任せると読まない、ただ読ませているだけだと保護者からクレームがつく、検定教科書で手一杯など――に触れ、意識の切り替えと授業の工夫が解決の糸口となりうることをお話し下さいました。週4時間のうち1時間だけ多読にして、読んできた本について英語で話したり、おすすめの本の書評を英語で書いたりと、様々なアウトプット活動につなげたそうです。その結果、自分の伝えたいことを英語で相手に伝える練習の機会が増え、生徒が自主的に家で読んでくるようになったそうです。
自主性に任せるというのは、ほったらかしにするのではなく、種をまいた後、丁寧に様子を見て、お水をあげて、美味しく育てていくお百姓さんのように、生徒のファシリテーターとなって、常に見守りサポートする姿勢が大切、というお話や、葉っぱの形をした紙に生徒が書評を書き込んで木に見立てて貼り出した楽しげな「ブックツリー」が印象的でした。

続いての小川さんのお話は、社会人講座で目指したことと、講座の様子についてでした。


大人にもOxford Reading Tree(ORT)の良さを知ってほしいと、ごくやさしいレベルの“Making Faces”を紹介し、「単語としてmake, faceをそれぞれ知っていても、“make a face”が実際にどんな様子か知っていましたか?」と問いかけ、「Harry PotterでRonがよくやっているんですよ。」と話すと皆「へーっ」となる、というお話に、楽しそうな講座の様子が目に浮かびました。小川さんは「ホームステイしている気分でORTを読んでみて下さいね」と声かけしているそうです。また、読むだけでなく、好きな動画をたくさん観る多観、日本語混じりでも良いのでとにかく書く多書など、いろいろなTadokuの世界を体験してもらい、英語力にかかわらず、1人1人が尊重され、皆で楽しくシェアすることを大切に参加してもらうようにしたそうです。受講生の感想からも、一緒に読む仲間がいる素晴らしさを感じたり、Tadokuを存分に味わったりした様子が伝わってきて、私も社会人講座を受けたくなりました。

(E3)グループトーク

グループトークの時間は、前後半40分ずつ、テーマ別の部屋に分かれて話し合いました。

A:多観

報告:榊 桂子(正会員)

既にたっぷり多観を楽しんでいらっしゃる先生から始めたばかりの先生まで、多観に興味をお持ちの先生方が集まりました。年齢に合わせたコンテンツ、人気タイトル等の紹介、YouTubeで自分の好みの動画をうまく見つける方法などの情報交換と共に、個人、学校、図書館などで、多読同様、多観も楽しんでもらうための意見交換を行いました。「授業に多観を取り入れるのが難しい場合に、どのように生徒たちに多観をさせてあげられるか」「家で多観をしてもらう場合に注意すべき事」「多観を導入することによる多読への影響」など、生徒たちの多観の取り組みに関することから、ご自身の多観のやり方についてのお悩みなど、多岐にわたるトピックについて話し合いました。「わかる、わからないを気にするのではなく、好きなものを好きなだけ楽しむ」、より楽しい多観への理解が深まったのではないでしょうか。

B:マンガで多読

報告:山岸 典子(正会員)

全体会で紹介のあったマンガアプリ「Langaku」の開発者、山中さんにもご参加いただき、マンガが好きで、すでに取り入れている人、自分ではあまり読まないけれど、これからやりたい人など多様なメンバーが集まりました。Langakuを開発したきっかけ、今後の多言語展開についてなど山中さんへの質問がたくさんあり、皆さん興味津々の様子。また、教科書にはない表現が豊富でしゃべれるようになる、会話のリズムや人物の口調の違い、オノマトペの訳し方が面白いなど、マンガの魅力について話しました。おすすめとして挙がったのは、「アオハライド」、「君に届け」など、モノローグが多くストーリー性のある少女漫画、アニメとともに楽しめる「SPY×FAMILY」やスタジオジブリ作品、そしてやさしい台詞が多い「よつばと」など。他に、学校でマンガが使用しにくい原因と対策、音はなくてもいいのか、授業中に読み切れなくてもいいのか、などの質問があり、マンガ多読の支援経験がある参加者が答えました。

C:読み聞かせ

報告:荻野 藍(理事)

(最大で)6名の方にご参加いただき、読み聞かせにオススメの絵本紹介や、読み聞かせの実践報告を行いました。すでにご自身の教室などで読み聞かせをされている方と、これから始めたいという方がちょうど半分ずつくらいでとてもバランスが良く、楽しいブックトークができました。支援対象が未就学児という参加者が多かったので、小さいお子さん向けの絵本をお互いに紹介し合いました。また、それぞれの絵本に対して、みなさんの体験をシェアしていただきました。実際に親子のレッスンで、親に読み聞かせをしてもらったという話が出ましたが、とても素敵なエピソードで、その場にいた全員、心が温まりました。
(以下、ブックトークに登場した絵本のリスト)

D:多読手帳(読書記録)の活かし方

報告:山岸 典子(正会員)

小学生~中学生を支援している参加者が多く、具体的な体験談を交えながら話し合いました。前提として、多読手帳は成績管理のツールではなく、支援者と生徒、あるいは生徒同士のコミュニケーションのツールであることを確認しました。そして、文章がうまく書けない子、ミミズのような読めない字の子、いつもつまらないと書いている子、わからない単語がものすごく気になる子、要約をびっしり書いてくる子、「おもしろかった」しか書かない子など、様々な例が出て、参加者皆で時に笑いながら、読書記録で大切にしたいことや、何のために書いてもらうのか、という話をしました。自分が感じたことを最初は上手に表現できない子どもが多く、寄り添う支援者が言葉を足したり、完璧な記録でなくとも認めて共感したりすることで、いつの間にかどんどん自分で書けるようになっていくという話が特に印象的で、改めて子どもたちが持っている力のすごさを感じ、それを引き出すような支援を目指したいと思いました。

E:学習者同士の繋がりを作る

報告:荻野 藍(理事)

7名の方にご参加いただき、それぞれの悩みをシェアしました。支援者としてはもちろん、「一人の多読実践者として、自身の交流の場が欲しい」という悩みや、「新規の方が入りやすいコミュニティにするにはどうしたらいいか」「学習者同士でオススメの本を紹介し合うような場を作りたい」「学習者が、忙しい日々の中でも継続できるような工夫が知りたい」など、立場や環境は違ってもみなさん同じように悩んでいることがわかりました。オンラインツールの活用という提案はありましたが、今回の話し合いの中では悩みの解決には至りませんでした。我々NPO多言語多読としても今後じっくりと議論すべきテーマだと思っています。

F:はじめての多読支援

報告:小川 和子(理事)

多読支援を始めたばかりの方、これから始める方の具体的な質問やお悩みに、他の支援者が自分の経験から答える形で進行しました。以下、話題になった主な質問です。

  • 多読用の英語の本の選び方。どのくらい用意すればいいのか。費用を抑えるための購入方法
  • 自宅を使えない場合、支援をする場所をどのように確保するか
  • 生徒を集めるために、どのような方法を取っているか
  • 授業外の多読クラブで、学生が多読を継続するには
  • 読み聞かせが嫌いな子もいる。どうすればいいか

多読支援の準備や、進行中の問題の解決には、明快な一つの答えがあるわけではありませんが、さまざまなアイディアを出し合い、できることの方向性を一緒に考えました。自分が多読を楽しみながら、仕事としてではなくサークルとして支援を始めるのもいいかもしれない、という意見も出ました。

✳︎ ✳︎ ✳︎

報告その④へ続く。

(事務局)