第10回「多読支援セミナー」報告 その④ 英語分科会

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多読支援セミナーの報告第四弾は、8月1日(日)の午後に行われた英語分科会について報告します。長くなりますが、それだけたくさん話し合えたということで、最後まで読んでくださると嬉しいです。

E1. 素材紹介

参加:39人/報告:新井希久子(準会員)

素材紹介のトップバッターは、私立の学童保育という場で子どもたちに向けて英語多読の支援をしている成城楓塾の加藤すみれさん、貴子さん親子。英語多読を楽しまれた経験をもとに子どもたちへの支援をなさっています。

人気素材として紹介していただいたPigeonシリーズやDavidシリーズは子どもの共感を得やすい絵本。それに加えてJon KlassenさんやShaunTanさんの手による少しブラックだったり抽象的だったりする本も子どもたちは抵抗なく受け入れているそうです。

絵本のみならず、漫画形式のMagic Adventuresシリーズや、動画に関しても「教科書的でない」「子どもが楽しめるもの」「ジャンクフード的なもの」が人気だというのも、子どもたちが長い時間を過ごす「おうち」としての学童保育ならではかもしれません。「英語教室」「学校」とは一味も二味も違う私立の学童保育という場所は多読を進めるのに絶好の環境のようです。

続いては、新宿区立四谷図書館で司書として英語多読の普及に尽力なさった後、現在は香蘭女子中学校で多読支援をなさっている山岸典子さんからの素材紹介。

女子中学生にとっては、「絵がかわいい」「文字より絵が多い」が本を手に取る時の決めてだそうで、そこを考慮して「絵から登場人物の気持ちや空気感が伝わるか」を選書にあたって大事になさっているそうです。そんな中、鉄板テーマが「恋愛系」なのは、支援対象を考えると深くうなずけますね。”Zombie in Love” や ”Fly Guy Meets Fly Girl” などを紹介してくれました。

一方、親子の利用者が多かった図書館で人気だった本として、「絵が大きくはっきりしたもの」「しかけがあるもの」「遊べるもの」を紹介してくれました。”Who says Woof?” “Guess Who?” “Dinosaurs” “One is a Snail. Ten is a Crab”など、どれもワクワクしそうな絵本でした。

加藤さんも山岸さんも絵本や動画を紹介している時の表情がとても楽しそうで、ご本人たちが本当に英語多読を楽しまれていることが伝わりました。支援者として大切な態度かもしれません。

※紹介された本のリスト >>> その①その②

E2. 実践者体験談

参加:42人/報告:新井希久子(準会員)

素材紹介に続いては「英語多読 すべての悩みは量が解決する」の著者でNPO多言語多読の副理事長でもある繁村一義さんからの実践者としての体験談。今回のテーマは、多読でつちかった英語力がどう仕事の場で活躍しているか。

ハタチ過ぎまで「悲惨」だった英語力。報告書も読めず、海外出張では通訳さんに張り付いていたエピソードから、いつの間にか多国籍な人々がいる現場チームで、他の日本人よりも「話しかけらる」ようになり、英語の報告書もメールも「こなせる」英語力がついていったというなんだか「できすぎ」のような実話にはひきこまれました。

また、英語でコミュニケーションを取る際に大事なのが「反応速度」であり「キャッチボールを繰り返して前に進もうとする態度」というのも実用的で示唆に富むお言葉。英語多読を支援するその先に広がる「世界」が見える時間でした。

E3. グループトーク

英語分科会の最後は、前半「支援対象年齢別(a〜c)」、後半「テーマ別(c,d〜f)」に分かれてのグループトークでした。各グループそれぞれ45分ずつ行いました。

a.小学生以下

参加:5名/報告:荻野藍(正会員)

参加者のほとんどが個人教室の先生をされている方でしたので、環境が似た者同士、少人数で深い話ができたのではないかと思います。今回は特に、乳幼児向けの支援について話し合いました。支援の方法はもちろんですが、子どもの多読支援には、保護者の方のご理解とご協力が必要不可欠ですので、いかにしてその意義を伝えるかが今後も課題になると思われます。

b.中高生

参加:9名/報告:事務局

児童英語教室や学校で支援をしている方が集まりました。最初のトピックは「はじめ方のヒント」。「本人や親の理解を得るには、楽しいだけでなく、理屈で多読に納得してもらうことも大事。」「中学生は『絵本なんて』という反応もあるが、高校生は逆に、絵本を喜んでくれる。」「最初は一緒に絵本を読みながら『多読的な読み方・楽しみ方』を丁寧に伝える。」「ブックトークなどは、生徒同士でする方が先生が薦めるより効果的。」など、支援の工夫が共有されました。

次に、Harry Potter など、生徒が難しいものを読みたがる場合の対応について。「邦訳や映画で頭の中に世界を作ってから読んでもらう。」「並行してそのひとの力にあったものも紹介したい。」「まわりの人がやさしいものを楽しんでいたら、そのうち感じるものがあるかも。」「自分が中学生の時に多読をしていた経験から『わかってなくて読んでいてもそれは無意味じゃない』と思う。」「理解してもらうことにこだわらなくていい。読みたい気持ちが大事。『なんとなく』の理解も大事。」などの意見が出ました。

他には、絵本の絵しか読んでいない場合の対応なども話題に挙がりました。

c.大学生・社会人・図書館での支援

参加:前半25名、後半19名/報告:米澤久美子(理事)

このグループのみ、前後半通しで行いました。大学、学校、公共図書館、大学生、社会人サークルなど多彩な顔ぶれの参加がありました。

前半は、多読で50年間の英語に対するコンプレックスが消えたというYさんと、幼少から英語と付き合い実績もあったけれど、多読と出会い変わって行ったというOさんの話を伺いました。お二人ともいつしか多読に「どっぷり」はまり、その後はそれぞれNPOの講座や地域の図書館で多読支援をされています。その中で感じる悩みや課題についてもお話をしていただきました。その後の意見交換では、オンラインの活用、ブックトークの重要性、テーマを設定して本を紹介するなどの話題が出ました。

後半は、前半の体験談で提起された「多読サークル等で、初めて来た人がその後来なくなる」ことについて意見交換をしました。仲間ができると継続しやすい、サークルによって特色がある、英語が苦手な人(その逆の方もいる)が参加しやすい体制づくりに気を配っているなどの意見が出ました。また、たとえその後来なくても「種まきだと思っている」「地球のどこかで芽が出ればいいと考えている」など、視点の違うお話も聞けて、とても有意義な時間になりました。

d.多読支援を考える

参加:5名/報告:山岸典子(正会員)

大学、中高、学童保育など様々な場所で支援をする人が集まりました。セミナーに参加して自分自身が改めて多読を楽しみたいと思ったという声に加え、他の支援者と話すことによって、「あ、これでいいのか」と再確認し、明日への力をもらったという声が多くありました。

支援者の姿勢、モチベーションを保つコツ、どう褒めるか、教科書を使った授業との両立についてなど、具体例や各自の体験談を交えながら、「教える(押しつける)」ことがメインになりがちな学校教育とは正反対の道を行く多読支援の本質について考え、最終的に、子どもたちはこうした正反対のアプローチが共存してもさほど戸惑わずに楽しめるのではないかという話になりました。

「物語の力を使って文法の持つメッセージを伝える(本で読んだイメージがあって文法を教わるとすんなり入る)」、「読書を通じて世界が広がる。子どもたちが持つ力を信じて、色々なことに自分で気がつき、知識をつなげていく機会を作っていく」という言葉が印象的でした。

e.小さく始める多読支援

参加:11名/報告:鈴木祐子(正会員)、事務局

個人の英語教室や中学校で「小さく」英語多読の支援されている方が集まった他、インドネシア語やフランス語の多読支援をこれから始めたいという方も参加されました。話し合ったトピックは…

お悩み

  • レベル分けやジャンル分けなど本の管理方法
  • 本を持ち込みで支援する場合、どれくらい持っていく?
  • 他のレッスン内容の残りを多読に当てているが、時間が取れないことも多く、今日もできなかったと落ち込む。
  • 保護者の要望により、多読の時間をとれない。ネット素材を使えない。など

多読に当てる時間は?

  • メインの教える内容があって、サブ的に多読をしている。
  • 2か月に1回の多読になることもあったが、生徒の多読へのモチベーションが高くなったため、オール多読に切り替えた。など

素材について

  • ネットのものを使っている。YouTube動画を使っている。
  • ネット上の記事を、読む人のレベルに合わせて探すのはけっこう大変なので、YouTubeでやったほうが楽な印象。
  • 学年が上がれば、自分たちで見つけてきてくれて、それをシェアするのは楽しい。など

その他、グループ活動として読み聞かせの方法や、本の紹介の仕方などについても意見を出し合いました。

f.多観・多聴

参加:5名/報告:榊桂子(正会員)、事務局

個人英語教室や高校で多読支援をされている方が参加しました。

最初に進行の榊より「音は本来、読み・書き・会話より先に入るべきもの。多読と同じように、多観も好きなものを好きなだけ楽しんでもらいたい。」とお話しました。次に、会員の新井さんから、文字が苦手でYouTubeを楽しんでいた生徒さんが、リスニング力があがり、偶然話しかけられた留学生に即座に反応できる会話力もついた、という事例が紹介されました。

その後の話し合いでは…

  • レッスン中の毎回5分でも力はつくし、興味を持つきっかけにさえなれば、自宅で好きなものを楽しんで来てくれる。
  • 教室で見せる場合は著作権に注意。
  • 動画のレビューやトーク(日本語でも英語でも)など、アウトプットにもつながる。
  • 年齢が低ければ、字幕なしでも違和感なく始められることが多い。
  • 中高生などで字幕なしに抵抗がある場合は、ドラマの第一話は日本語字幕付きで背景を把握してもらい、その後字幕を外してもらう。
  • 字幕有でも効果はありそう。
  • 近年は試験でのリスニングの配分が増え、ドラマやアニメをたっぷり楽しむことは試験にもとても有効。

などの話題があがりました。

また、どんなものを見るかについて、NPOのおすすめ動画(アニメYouTube)、再生時間が短く種類も豊富なYouTube(読み聞かせ、How toもの、昔話の英語版など)、オンラインゲーム、AmazonやNetflixなどの有料サービス(ドラマやアニメ)などの提案がありました。Netflixは、日本アニメの英語版が多く、中高生が浸って楽しめる、英語ドラマの「副音声(動作を状況を英語で説明してくれる)」を聴くのも良い、などの意見も出ました。

***

その⑤では、参加者アンケートをご紹介します。

(事務局)