第10回「多読支援セミナー」報告 その③ 日本語分科会

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多読支援セミナーの報告第三弾は、8月1日(日)の午後に行われた日本語分科会について報告します。

J1. 支援失敗持ち寄り会

参加:45名/報告:纐纈憲子(正会員)

日本語分科会の1つ目は「支援失敗持ち寄り会」。最初に、進行をつとめる正会員の高橋亘さんから「多読支援はいつもうまくいくわけではなく、誰しも失敗して学ぶ。失敗からの学びを共有して今後の支援につなげよう」ということが示され、次に、3人の支援者から失敗体験の話がありました。

支援失敗持ち寄り2

1人目は、NPO多言語多読理事長の粟野真紀子さんが、多読を始めて4年目の日本語学校での出来事をお話しくださいました。辞書を引いていた学生に注意をしたのだが、その後引くのをやめたので安心してしまった、あとで考えると「どうして辞書を引いたのか」「どんな言葉を調べていたのか」などもっと打ち解けて聞いてみたらよかった…と反省しているそう。学習者の読みの邪魔をせずにどこまで彼らに迫るべきなのか、なかなか判断が難しいとおっしゃいました。

2人目はメキシコ・アグアスカリエンテス自治大学の岡安江津子さんが、教材設定の失敗談をしてくださいました。支援3年目で自信がついてきたころの経験です。ウェブ教材を紹介したところ、一人の学生がニュースに固執してしまった。分かっていなさそうだったので他のものを勧めてみたのだが、自分ができることを周りに見せたかったらしく、軌道修正ができなかったそうです。この反省を生かし、以後、レベル0にも面白いものがあると勧め、全体で読んだりするようになったとのことでした。

3人目は、東京大学の片山智子さんが、ブックトークでの失敗を話してくださいました。支援4年目に、全員の前でブックトークをする課題を出したところ、モデル提示によって正しい日本語を話さなければいけないというプレッシャーを与えてしまったそうです。楽しいと思って出した課題だったのに、みんなクラスメートの発表に興味を持たなかったとか。時期が早すぎたことも反省点で、以後、インプットが十分たまってアウトプットしたくなってから、自由度の高い課題にするよう心がけているそうです。ブックトークやタスクが目的になっていたのは本末転倒だった、というお話には深く共感しました。

この後、3-4人の小グループに分かれて、自分の失敗経験を振り返りました。「説明に時間をかけすぎて、学習者が読む時間が少なくなってしまった」「紹介した読みものが多すぎて混乱を招いた」「本人の力と本のレベルが合っていなかったのに気づけなかった」「アウトプットのタスクの失敗」「小学校でまじめに本を読む雰囲気になってしまった」…などの経験が挙がりました。

濃い話し合いが行われた一方で、多読初心者のメンバーがいたグループでは、失敗談の共有という話題は少しハードルが高かったようにも感じました。また、何をもって失敗ととらえるか、果たして失敗に気づくかについてはやはり個人差があるようです。このテーマ、折に触れてまた取り上げていければと思います。

J2. 子ども多読支援

報告:作田奈苗(正会員)

日本語分科会2番目のプログラムは「子ども多読支援」でした。日本語教育では、しばらく前から、日本在住の外国にルーツのある子どもの支援が議論されています。日本の小中学校での勉強についていける日本語力を養うのに、多読が役に立つのではないかと考える人も出てきました。そこで、子供のための日本語多読について、何人かが事例を報告し、問題を共有しようということになりました。



まず、最初に、堺市日本語指導員の小谷玲子さんが、「レベルが様々な小学生の多読授業」と題して、日本の小学校で勉強する、外国ルーツの子供たちの取り出し授業(一般授業とは別に、日本語力をつけるために受ける補講)の様子を報告しました。

子供たちは年齢も様々ですし、日本語レベルも様々です。その授業に小谷さんは多読を取り入れました。独特なのは、「読み描き」です。子供たちが、話を聞いて、その内容を絵にかくというもので、自由自在に話の内容を絵で表す様子が紹介されました。子供たちは、好きな分野を読んだり、得意な音読をしたりと、それぞれのやり方で多読を楽しんでいる様子です。効果も表れているので、ぜひ、近隣の学校にも広めたいと小谷さんは話していました。

次に、NPO多言語多読の個人授業で、子供たちが日本語多読を通して日本語力を伸ばした例を、「多読を取り入れた児童生徒への日本語支援」というタイトルで、田中るり子さん、粟野真紀子さんが報告しました。

紹介されたのは、インターナショナルスクールなどに通う児童・生徒たちの例で、マンガなどを楽しみながらどんどん日本語力をつけました。興味深いのは、彼らが、試験勉強などをほとんどしないにもかかわらず、中学生のうちにJLPTのN2に簡単に合格した一方で、精読の方法で一生懸命「勉強」した彼らの両親が、その努力にもかかわらず合格しなかったというエピソードです。子供たちは、文法などはわからないけれど、直感で正しい答えが選べるのだそうです。

子ども多読支援2

事例の報告の後は、参加者はブレイクアウトルームに分かれて話し合いました。参加者が興味のある分野で話せるように、「小学生」「中高生」」「継承語」と、部屋を分けて4、5人ずつ集まり、それぞれの学年、状況に特有の悩み事を分かち合いました。

子供に対する多読支援はまだ緒についたばかりと言えます。事例もまだ少ないのですが、関係者は手応えを感じているようです。ブレイクアウトルームでの話し合いも熱意に満ちていました。NPO多言語多読では、これからもこの分野について、実践報告会などの開催を考えています。日本語多読の新しい分野が開かれつつあります。

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その④に続く。

(事務局)