第7回 シンポジウム「図書館多読への招待」 in 岐阜 【実践報告 その1】

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今回のテーマは「図書館多読における学校との連携」。【実践報告 その1】では学校向けに多読図書を提供する図書館とそれを利用する学校からの報告をご紹介します。

【連携報告1】「岐阜県図書館」と「郡上市立八幡中学校・岐阜県立郡上高校」

岐阜県図書館/岩田七星さん

2016年度末に一般向け洋書が置いてあった場所をリニューアルし、新規に多読資料の設置、貸出を開始した。2017年度から西澤先生(西澤一・NPO多言語多読理事)の多読講座を開催、現在では英語絵本約,1,100冊、英語一般書18,000冊、多読資料は1,200冊を所蔵。レベル別に資料を(棚で色分けして)配架しているが、同じシリーズが分かれてしまい、図書館職員としては探しにくいという話もでている。2019年度の貸出実績は、コロナの影響もあり、少なくなっているが、Oxford Reading Tree(ORT)の貸出回転率がとても高く、また赤レベルの貸出が多い。資料選択の助けになるよう100万語へのモデルケースを作成し、多読コーナーに設置している。ホームページでもシリーズごとの資料検索ができ、YL(読みやすさレベル)チェック表も公開している。

学校との連携で、セット文庫の貸出を2006年から小・中学校で開始、2014年度から高校・特別支援学校で開始した。送料の学校負担はなく、学校に負担をかけないシステムになっている。セット文庫に英語多読のセットが入ったきっかけは、県内で多読を実践する高校があったためで、2014年度から高校・特別支援用セットが用意されるようになった。貸出実績はやはりORTが多く、複本で対応している。
2019年には教員対象の英語多読交流会を実施、セット貸出の活用を呼びかけた。
今後の課題として、広報の工夫、貸出期間、貸出対象の再検討、多様なシリーズ・レベルをそろえること、特に小中学校でも利用できることを周知することが挙げられる。

郡上市立八幡中学校・岐阜県立郡上高校/栗下典子先生

郡上市立八幡中学校に勤務時の2015年9月頃より2017年3月頃まで、手持ちの多読教材の補充として岐阜県図書館の学校用貸出文庫(セット文庫)を利用した。その後、岐阜県立郡上高校で2019年4月から7月頃、普通科2年でオンライン多読(Xreading)を利用していたが、レベルが高いため、低いレベルの補充や多読初期の導入、英語が苦手な生徒のために貸出文庫を活用した。

現在は郡上市の小学校で英語専科として、4校の英語授業を担当している。市町村立学校は、地域の公立図書館との連携は強いが、その自治体の図書館に多読資料がないことが多く、地域格差が生じている。英語多読を導入し授業を進めることは、特にブックトーク・ブックレポートなど読んだ本を英語で交流しあう活動に効果があり、みんながどんな本を読んでいるのかということが刺激や共感につながる。多読の効果は英語力、読書量、生徒の声にも現れている。また、生徒は自分の好きなものを読むというだけでなく、多様な資料に触れる必要があるため、公共図書館との連携は大事である。

これからの公共図書館に期待することは、多読図書の充実、学校関係者への宣伝、アクセスしやすいHP、他校種にわたる貸出、音源の提供や図書館間での連携などである。今後の公立学校の英語教育は、タブレットを活用することや、英語で読書を習慣づけるチャンスとなる。

【連携報告2】「知多市立中央図書館」と「愛知県立常滑高校」

知多市立中央図書館/山本幸奈さん・渡壁智恵さん

知多市立中央図書館の英文多読は、学習指導要領に英語教育の充実が入り、今後の英語需要が高まることを考えて取り入れた。つまり開始当初から学校教育との連携を視野に入れた導入だった。開始当初は、多読そのものの認知度の低さ、英語の本というだけで手に取ってもらえないという悩みをもっていたので、いろいろな講座を開催してきた。平成21年度より英文多読用資料の購入を開始し専用コーナー設置、現在は5,000点以上、内付属CDは700点以上を所蔵している。

学校連携の計画をなかなか実行に移せなかった中、2015年、豊田高専で行われた第1回シンポジウム「図書館多読への招待」で今後の展望として学校連携による英文多読資料提供について話したところ、愛知県立常滑高校の先生から声がかかり、学校連携を始めるきっかけになった。その後、愛知県立知多翔洋高校にも説明に行き、2校に団体貸出という形で資料提供がスタートした。平成27年から令和1年まで年間1,700冊から3,000冊の貸出の実績を上げた。

小学校・中学校にも呼びかけ、英文多読資料の紹介と貸出を2016年から開始。しかしなかなか利用はなかった。認知度の低さ、英語の本への抵抗があり、これは英文多読コーナー開設当初の悩みと同じであった。2017年、学校連携のモデル校になっている中学校に説明に行き、英語の先生を紹介してもらい、資料の貸出をおこなったが継続できなかった。学習としての英語と英文多読の隔たりで英語の先生の理解を得ることができず、2018年、2019年は英文多読の認知度を上げるため、小中学校のモデル校を訪問して説明をし、ORTを主としたスターターセットを作り、学校図書館に置いてもらうように提案したが、資料の紛失や破損が不安なので学校図書館に置くことはできないといわれ苦労の連続。そんな中で、学校連携担当者が受け持ちのクラスに置いてくれた。このことから、図書館ではなく学級文庫への配置と、校内で回覧しすべての先生の目に触れ理解を得られるような今後の活動をめざしている。

知多翔洋高校では月に1度本の差し替えを行っているが、「読んでくれているのだろうか」と思っていたところ、学校図書館の司書の方が多読コーナーを設置し、更に英語の授業で多読を実施していることがわかった。授業の冒頭10分間で本を読み、その後本の記録をとるというスタイル。また図書館に来た他の生徒と一緒に多読をすると、一人よりもみんなで読むと盛り上がるという声があった。

常滑高校では、要望に沿ったレベルの本を中心に提供し、新しい資料については感想や人気度を聞き取り、本の選書の参考にしている。また、知多市立中央図書館で、常滑高校の生徒7名教員2名による英語のおはなし会を開催した。

愛知県立常滑高校/丹羽かよ先生

常滑高校は、常滑市を舞台として現在公開されているアニメ映画「泣きたい私は猫をかぶる」のモデルとなっている。
英語多読は2014年に購入を開始し現在は2,300冊を所蔵。2015年に知多市立中央図書館へ貸出を依頼し連携が始まり、2017年から英語多読授業を開始している。

1年生のみ1クラス1時間から始め、2020年には公共図書館と連携6年目、授業開始4年目、全学年で多読実施2年目となっている。続けていると生徒の反応が違ってきて、強制ではなく読む生徒が出てきた。多読授業を行うためには公共図書館との連携が必須で、生徒は授業以外でも利用するため近くの市の図書館との連携を望んでいるが、なかなか難しい。

公共図書館との連携の利点として、生徒からは、「たくさんの本に出合える」「選択肢が増える」「英語でおはなし会などのイベントに参加してアウトプットの場が持てた」「授業とは違う指導がしてもらえる」などの感想が出ていた。教員にも「英語多読について教えてもらえる」「具体的な業務内容や書誌データが検索できる」など、いろいろなメリットがあるようだ。英語多読授業を継続するためには、時間、予算、人材、共通理解、学校間で情報交換できる横のつながりが必要。


図書館職員のみなさんが学校との連携をあきらめず奮闘する様子、そして多読図書を利用した学校での様子、どちらもとても感動する内容でした。そんな今回の報告は学校連携の難しさに新風を送り込むものだと思いました。図書館多読と学校連携に関心のあるみなさんに伝えたいです。

そして【実践報告 その2・事例紹介】では、実際に多読を取り入れている図書館の様子をご紹介します。

(NPO多言語多読 理事/米澤)

図書館への多読普及活動