10月6日(日)第48回「多読授業と読みもの作成」入門講座報告

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秋雨が降る10月6日、東京・東中野のNPO事務所で「多読授業と読みもの作成」入門講座が開催され、5名の参加者が集まりました。今回は日本語を教えていらっしゃる先生方のほか、地域の日本語教育に携わっている方や日本語教師を目指して勉強中の方などが参加されました。

今回の講師は、NPO多言語多読理事・松田緑、理事・川本かず子、正会員・片山智子、そして、正会員・高橋亘です。

【午前の部】

《日本語多読にようこそ!》担当:高橋亘

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日本語多読とは、「たくさん読む」「一人ひとりが読みたいものを選ぶ」「楽しい!」というキーワードに集約されます。そのための方法としての、多読の4つのルールや支援者の役割について触れました。

また、支援者には、読むことが楽しくなるような雰囲気作りという大切な役割があります。そのためには、参加者の様子をよく観察して、一人ひとりに対応することが大切だと考えています。続いて、多読向きの本の探し方や、これまで発表されている多読に関する研究に関してもお話しました。

《日本語多読実践報告》担当:片山智子

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多読を始めたきっかけから。
「読解」授業に対する疑問――語彙や文法の学習が目的? 質問に答えることが文章を読めたことになる?――にぶつかっていたとき、出会ったのが「多読」でした。

次に、多読用の本を読んで、どんなものを読むのかをイメージしていただいてから、実践報告に入りました。

授業の中心となるのは、学生が自分で好きな本を選んで、どんどん読むことです。初めは、絵などから内容を推測する読み方、辞書に頼らずにどんどん進んでいく読み方ができるような流れを作ります。たとえば「文字のない絵本」。(ここで、参加者のみなさんにも絵を読む体験をしていただきました。)

そして、初級者も中級者も、簡単な本から読みはじめます。でも「易しいものから読みなさい」ばかりではつまらない。そこで「○○さんシリーズ」「動物」「日本」などテーマに分け、学生の興味をひくようなひとこと紹介や読み聞かせをしたり、学生同士で好きな本を紹介したり、いろいろな工夫もします。

教員の様々な支援についても紹介しました。本の準備。授業中は学生をよく観察し、声かけ。1対1で話し、個別に本の紹介もします。多読本は学習者向きの本、食べものに例えると「離乳食」のようなものです。「普通食」つまり一般の本が読めるようになる橋渡しも必要になります。そこで、学習者に合いそうな本を探してくるのも教員の役目だとお話して、午前の部を終えました。

昼食休憩のあとは、読みものを実際につくるワークショップです。

講師は、NPO理事の松田です。

体験の前に、なぜレベル別読みものを作るに至ったか、その経緯を、また、レベル別読みものと市販の絵本、マンガ、などとの違いを話しました。
また、NPO多言語多読のサイトで、実際に本の検索をしてみました。

いよいよ読みものの作成です。注意点をざっと説明し、前半は二組に分かれ、レベル0か1で、イソップの「ウサギとカメ」「ネズミの相談」を再話して作成しました。
一つのグループは、着々と絵コンテを作り、分業で仕上げていきました。もう一つのグループは、「やさしいとはどういうことか」などやりとりしながら進めていました。

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(色鉛筆やのりを使い、製本までしてくださいました)

講評の後は、NPO作の両作品を紹介して少し休憩。

後半は、レベル3くらいで、芥川龍之介「蜘蛛の糸」をリライトすることにしました。

今度はグループを作らず、一人ずつの作業となりました。
ほとんど原文のままだったり、ほんの3行ほどで時間切れになった方などいろいろでした。グループでわいわいしながら作業するのは楽しいけれど、ひとりはとてもつらかったというのが全員の感想でした。読みもの作成作業は、共同作業をするうち、いろいろなことに気がついたり、いいアイデアが出てくるものなのですね。

NPO作の「蜘蛛の糸」の冒頭を読んで、終了。

最後にアンケート記入していただき、本日の感想をうかがいました。

感想から

★多読的な授業に反発する教師がいるという現実に驚いた。

★成績をどうするとか、実践が聞けて良かった。海外で多読指導をしたことがあるが、学生が、本を握りしめて、日本語で一冊読めたととても喜んでいた。この本を作るのは、どんなに大変なことかわかった。

★多読は、既成のものに反すること、くつがえすことだと感じた。そういう多読はとてもいい。

★日本語多読と英語多読の両方に共通することと日本語ならではのことが、実践報告でよくわかった。

★自分は、日本語を教えたことがないので、日本語の先生とやりとりできたことがとても良かった。

(記 高橋、片山、川本)