3月18日(月)泰日工業大学で多読セミナー!@タイ・バンコク

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16日のタイ国日本語教育研究会の年次セミナーに引き続き、3月18日(月)にタイ・バンコクで、泰日工業大学の日本語教員向け多読セミナー・読み物作成ワークショップを行いました。会員の山口ひとみさんの報告です。

多読セミナー・読み物作成ワークショップ@泰日工業大学

国際交流基金から助成をいただき、多読セミナーが実現しました。
講師はNPO多言語多読副理事長の粟野先生です。参加した教員は、タイ人13名、日本人12名、韓国人1名の27名でした。
このセミナーを実施したThai-Nichi Institute of Technology (泰日工業大学)は、全学生が日本語を必修科目として履修し、5学期間で5科目の日本語を学びます。多くの学生は、大学に入ってから日本語を初めて学ぶ学生ばかりです。

午前中は粟野先生に「多読とは何か」について話していただきました。

泰日工業大学5

まず、「多読」の考え方ーー学習者が主体的に好きなものをどんどん読んで大量のインプットをするーーについて説明があり、それを実現するために多読のルールがあるということが語られました。一斉授業でなく、ひとりひとりが本と向き合うと学生たちがいつもは見せない顔を見せ始めるとのことです。本に夢中になっている学習者や読んで楽しかった本の内容を語る学習者の様子を動画で見せていただきました。
そんな多読授業では、教師は教えるのではなく、学習者が快適に読めるようにサポートする役割です。
多読用図書をまだ手にしたことがない教員が多かったので、実際に読む時間もとりました。
内容に引き込まれて真剣に読んでいる姿も見られました。

1泰日工業大学

最後に、実践の一つとして、泰日工業大学で筆者(山口)が行った多読授業について報告しました。
必修の日本語にモチベーションがあまり高くない学生も積極的に本を選んで読んでいたこと、授業の最後におすすめの本を紹介するタスクを課したところ、みな色とりどりの挿絵入りの紹介文を書いてきたこと、だれかの書いたものをコピペするのではなく、積極的に取り組んでいたことを話しました。

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昼食休憩を挟み、午後は読み物作成のワークショップを行い、グループごとに読み物を作成しました。手順は以下の通りです。

まず、「レベル別日本語多読ライブラリー」のレベル0「いってきます」をみんなで読みました。読むと言っても字は消してあります。絵を順番に見ていきましたが、絵だけでも、どこでどんなことが起こっているかはよくわかります。そうやってまずは絵をよく見て、本の世界を味わうことが本の導入になることがみな納得できたと思います。
その経験をもとに、簡単な読み物を作る作業をしました。
イソップの「ウサギとカメ」「北風と太陽」「アリとキリギリス」、そのほか「走れメロス」など中上級向けのテキストも用意されていましたが、各グループが選んだのは、イソップの短い話でした。
それを何場面で表現するか、まず場面分けをしました。それから、各場面にふさわしいイラストを描きます。そして、文を入れていきます。各グループ、みな作業に夢中になっていました。

WS

グループは全部で6つで、扱った原作は、「北風と太陽」「アリとキリギリス」「ウサギとカメ」でした。
絵が上手な人が多く、絵を楽しみながら読めるごく簡単なレベル0の中の0といった作品が仕上がりました。
作成した作品は以下のリンクのフォルダにあります。(パワーポイントとPDFで保存してあります)

https://drive.google.com/drive/folders/1h2m5Mi7jZYLqIRsRl6hHE7bRAbOk9hc4?usp=sharing

 

以下は参加した教員からの感想の一部です。(原文のまま)

1.  後半のワークショップも、楽しかったです。内容より絵を描くほうが難しいと思います。入門の学習者に対して分かりやすい絵を描かないといけません。動いているような絵(走っている、脱いでいる)も必要ですね。その絵のお陰で、学習者のモチベーションが上げると思います。

2. 国際交流基金で研修していたとき、読解の授業に多読を紹介してくれました。読解の世界に入ったばかりな人や日本語の本が苦手だった人にとって、多読は読書を好きになるための一つの方法です。うちの大学生は能力がそんなに持っていませんが、多読で一歩ずつ読解の世界に歩めると思っています。

3. 実際に読み物を作成するのは簡単なようで難しかったですが、楽しかったです。まずは自分が多読のルールを守れるように実践し、そして、できたら授業等に取り入れたいと思います。

4. 初めて読み物を作成してみて、凄く楽しかった。文型などの指定や同じ作品でも構成や表現方法が違ったので面白かった。前半の講演部分では「読み物の表現が自分の言葉として使える ようになった」「作品を作らせてもコピーものが出なかった」などのコメントが印象的だった。直接関係ないかもしれないが、project など学生達の文で書かせることのある活動の際に参考にしたい。個人的に英語版を読んでみたいと思った!

5. 自分が読書嫌いなので学生に読書を勧めるかと言ったらそうはならないかもしれないけど、強制しない授業の進め方には賛同できました。

6.ワークショップで行った物は、作り方の練習としてとても良かったと思う。ただ、レベル0ではなく、ほとんど文字のない絵本のようになっていたグループが多かった。それはそれでいいのだが、大学で教えている立場としては、もう少し文字制限、文法制限を意識してレベル0又は1レベルの文章を考えた方が良かったのではないか。

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泰日工業大学で実際に多読を実施したことがある教員は私(山口)ともう一名だけで、多読という名前は知っている、本は見たことはある、ちょっと読んだことはある、といった教員がほとんどでした。今回のセミナー・ワークショップを通して、多読についての理解が深まったと感じています。

学生たちは大学入学後、初めて日本語の勉強を始め、限られた時間の中で初級レベルの内容を身につけなければなりません。しかし、多くの学生は、授業外で日本語の学習に多くの時間を割くことができないのが現状です。そのような学生に対し、多くの日本語に触れられる機会、そして日本語を楽しむ機会として多読を授業内外で実施できたらと考えています。このセミナー・ワークショップがその一歩となったのではないかと思います。

(正会員 山口ひとみ)

 

【参考資料】

アンケート結果

アンケート4

アンケート3

 

アンケート2

 

アンケート1