2/25(日)「初中級用読みもの作成講座」報告

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2月25日(日)に第4回「初中級用読みもの作成講座」を開催しました。
「入門講座」で、初級と中級の読みもの作成を経験してくださった方向けの講座です。
第3回までは「中級」で、レベル3くらいの読みもの作成でしたが、第4回の今回は「初中級」ということで、レベル2相当の読み物を作る、という講座です。参加する方には、小川未明の「月夜とめがね」を課題にして、講座開催の前にリライトして提出していただきました。
今回の講座には、ベルギー、イタリア、アメリカ、そして日本の名古屋から4人の方が参加してくださいました。うちお二人は熱心なリピーターです。
多言語多読からは、理事長の粟野と理事の松田が出席しました。
参加者のみなさんに自己紹介していただくと、現地の大学や公立高校や、成人向けの語学学校で、日本語の授業に多読を取り入れている方が多く、自分で多読の読み物を作ってみたい、学生たちに読み物を作らせてみたい、などの動機を話されました。次に、リライトしてみた感想を伺いました。昔話や、オー・ヘンリーの短編のようなものには、はっきりしたストーリーがあるのですが、「月夜とめがね」は、いわば、情感を味わうと言った感じの童話です。

  • 限られた語彙や文型で、雰囲気をどうやって出すかに苦心した。
  • 情景描写を、どこまで文章であらわすか、どこまでイラストに任せてよいか迷った。
  • 月の光や映像が浮かんでくるところが好きだった。

皆さんの感想を受けて、粟野が、この作品の季節はいつだと思うか、と聞いたところ、春、または初夏という答えが多く出ました。
また、粟野から、語彙や文型の制限内で書こうとすると、言い換えが難しい語があるが、どうしたらいいか話し合ってみようという提案があり、例えば、「におい」という語はどう言い換えたらいいか、という話し合いをしました。やはり、イラストで表現するしかないのでは、という結論になりました。実際に提出してくださった課題作品には、イラストを入れていた方があり、そこでは、少女の像に花のイラストをかぶせて、花のにおいを表現するなど工夫してくださっていました。

後半は、提出していただいた作品を、より完成度の高いものにすることを目指す作業をしました。比較的、原作に忠実にリライトしている作品Aと、少し大胆に省略している作品Bを、完成させていただこいうということで、2つのブレークアウトルームに分かれて作業しました。

<グループA> 

参加2人+ファシリテーター・粟野

作品Aは、原文に忠実にリライトしているので、小川未明の作品の味を壊さないものになっていますが、滑らかさに欠けるところや、不自然な文になってしまっているところがある作品です。
私たちが基準としているレベル2の語彙や文型から逸脱しているものがまだ多いので、一つ一つ吟味してレベル2にふさわしいように書き直していきました。
ただ、「おばあさんが目が悪くて裁縫するのに難儀している」場面は、不思議なメガネ売りに繋がるところです。だから「目が悪くて針に糸が通らない」というのは語彙が難しいけど、絵で補うことにして残すことに。
また、おばあさんが昔のことや孫娘のことを思う場面は、後で出てくる指を怪我した女の子を暗示していると思われるので、やはり逸脱語彙ですが「孫娘」も残したほうがいいだろうという意見がでました。
「におい」も、この話の重要な要素なので、残していく方向で相談がまとまりました。
みなさんでひとつひとつ細かく読むと、一人で読んだ時よりずっと深い読み込みができて、楽しかったです。

<グループB>

参加2人+ファシリテーター・松田

作品Bは思い切りよくリライトしていて、テンポのいい作品です。すでにイラストも何点か入れてくださっています。
ただし、おばあさんの心の声やセリフを随所に入れて、語彙や文型の制限を切り抜けていますが、まだまだ、逸脱語彙や文型が多いのが気になります。また、擬音語などを、原文とは違う表現にしているところも、どうすればより良いものになるか、なかなか答えが出ませんでした。一応最後まで検討を終えましたが、逸脱語彙をうまく言い換えることができないまま時間が来てしまいました。

各グループが、できたところまで発表して、それについて、他のグループが感想、コメントをしました。

Aの作品については、読みものらしい作品になっている、という感想が出ました。
Bの作品については、テンポがよく楽しく読めるものになっている、という感想が出ました。
粟野から、まだまだ、レベル2を読む学習者にとっては、難しい語彙が多いのではないか。もう少し丁寧にレベルの枠をはめてぎりぎりまでリライトしてみると、より深いものが見えてくると思う、という総評がありました。

最後に講座全体に対する感想を聞きました。

  • 2つの作品を見て勉強になった。
  • せりふの上手な使い方が、難しい文型を切り抜けるいい方法だとわかった。
  • 楽しかった。もっとリライトしてみようと、意欲が湧いた。
  • 課題が難しかった。まだまだ、直すところがたくさんあると思った。

などの、感想をいただきました。

〈事後アンケートより抜粋〉

・ブレイクアウトルームでは、一緒に考える作業がとても面白かったです。言葉の感覚は本当に人それぞれで刺激的です。
・今日の講座を受けて、読者に負担をかけすぎないために、どこを残すか、どこを思い切って切ったり変えたりするか、という基準がだんだんわかってきたように思います。
・多読文庫にこの話が登場するのを楽しみにしています。イラストも含めて、どんなふうになるのか、興味津々です。

今回の課題は、夢の中の出来事のようなふんわりした作品でしたので、低いレベルにするのは、大変だったと思います。それなのに、提出されたリライト作品は、かなりな完成度の物ばかりでした。また、ブレイクアウトで修正して仕上げたものは、みなさんの腕の冴えを感じる出来でした。

今後、どんどん作品を作っていただいて、見せていただければ、うれしいです。
(松田 記)