12月19日(日) 第8回シンポジウム「図書館多読への招待」 in 米沢! 報告②

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報告②は午後の部についてです。講演と実践報告、質疑応答が行われました。
(午前の部については、報告①を御覧ください。)

講演:図書館多読のはじめかた
国立豊田工業高等専門学校教授、NPO多言語多読理事 西澤 一

「日本人は英語を読めるが話せない」と言われることがありますが、「読める」もウソ。実際は「訳せるけど、読めない」。和訳して理解することができる人は多いものの、英語のまま直接理解できる人が少ないのが現状であり、日本人が英語で苦労する理由は「訳しながら読む」にあることが最初に説明されました。

この現状を大きく変える可能性をもつのが英語多読です。公共図書館を利用して多読を進めるためのモデルコースが示されました。強調されたのは、「極端にやさしいものからはじめないと、読めない」ということです。Oxford Reading Treeのような字が少ない絵本をたくさん読んで「和訳しない」読み方に慣れることが必要で、字が多い本からはじめると和訳につながり失敗するケースが多いそうです。

図書館の役割として、1)英語多読を理解し先行館の状況を調べる、2) 図書体系の整備、3)広報・導入教育・図書情報の提供、4)利用者コミュニティの構築、5)学校教育支援、の5点が挙げられ、それぞれについて説明がありました。多読の読み方は、世間の常識とかけ離れていることもあり、図書を導入しただけでは利用されないこともあります。NPO多言語多読や先行館のウェブサイトを参照しながら実践の具体例が紹介されました。

図書館多読の普及に尽力し続けているキーパーソンであり、多くの事例を見ている西澤理事の講演には、図書館を利用する人、図書館で働く人が英語多読を進め、地域に拡げていくためのヒントが数多くありました。

実践報告①:多治見市図書館 英語多読コーナーのあゆみ
多治見市図書館 飯沼 恵子

岐阜県の多治見市図書館は、豊富な多読図書を備えた英語多読コーナーと、利用者の交流の場「たじみ多読を楽しむ会(T.T.T.)」の活発な活動で知られています。2014年からの7年のあゆみとして、コーナー開設当時からの多読資料の構築と配架の工夫、講演会・講座の開催、ウェブサイトでの広報、T.T.T.を中心としたイベントの開催等が紹介されました。多読図書が4,000冊を超えてから、他県からの相互貸借が増えているそうです。

担当になったときは「英語多読って何?」だったという司書の飯沼さんご自身が、壁や停滞を乗り越えながらT.T.T.の皆さんと多読を続けてきました。この1年でハリーポッターを全巻読了し、ここまで続けてこられたことにご自分でも感動されたそうです。実践者としての体験談からは、当初からその必要性を強く認識されていた「仲間」とのつながりが感じられました。

図書館多読の可能性として、洋書読書の世界へ利用者をつなぐ、生涯学習の場として機能するコミュニティの場を図書館が作る、という点を挙げられました。地域の小学校との連携も始まったところだそうです。

実践報告②:図書館多読の可能性
市立米沢図書館館長 岸 順一

今回のシンポジウム開催館である市立米沢図書館は、上杉藩から伝わる貴重な本も所蔵している100年以上の歴史をもつ図書館で、2017年に現在の場所に移転しました。英語多読コーナーが設置されたのは2019年と比較的最近ですが、すでに2,000冊以上の多読用図書が揃い、利用者の交流の場として「英語多読サロン」も始まっています。

岸館長が英語多読の導入を決めた理由は、高校の英語教員だった頃から英語習得には多量のインプットが欠かせないと考えていたからだそうです。学校の授業だけではインプットが足りないこと、英語の楽しさを生徒に伝えられなかった反省もあったということです。民間会社の意識調査でシニア層が学習したいことの1位が「語学」であったことからも、図書館が生涯学習としての英語多読を支援する意義があると判断されたそうです。

「英語多読サロン」の参加者の方々からも、多読の実践体験が報告されました。現在はコロナ禍で制限はありますが、対面での活動が続いています。

誰でも、いつからでも、気軽に始められる英語多読を提供し、今後は他の図書館や学校とも連携した地域の生涯学習として進めていきたいとのことでした。

実践報告③:多賀城市立図書館での英語多読の取組み
多賀城市立図書館 土田 佳奈 (オンライン)

宮城県の多賀城図書館は2016年に多賀城駅前に移転し、これを機に英語多読を導入しました。多読サロンを開始すると同時に、土田さんたちスタッフも一緒に楽しんで多読を始めたそうです。多読サロンでは所蔵の本をこれでもかというほど机の上に並べ、スタッフも読書をして、ブックトークをします。参加者の様子から、購入シリーズを選定しているそうです。多読サロンを定例イベントとして月2回、年24回開催できる環境があること、多読導入のきっかけがあり予算を確保できたこと、楽しんで運営できるスタッフに恵まれたことが多賀城図書館の強みとなっているとのことでした。

課題・問題としては、書誌の作成・受け入れに時間がかかり大変であること、書誌ルールもあいまいなものが多く、担当者が変わるたびに不明点が発生すること、多読サロンの参加者が固定化されていること、があるそうです。

今後の目標は、利用者に合った資料を揃えていくことと、多読サロンの継続と新規層の開拓で、基本を大切にしながら、より良いものにしていくことを目指していくと語られました。

* * *

ここまでの実践報告で、どの図書館も英語多読の実践者が集まる交流の場を作ることに力を入れていることがわかりました。情報を交換し、支え合う仲間がいることは、多読を継続する三本柱のひとつです。

今回は、東北地方で活動を続けている2つの多読サークルからも報告をいただきました。どちらも岩手県のサークルです。

実践報告④:図書館を活用しての多読の会
一関・英語多読を楽しむ会 原 宏行

2015年に一関市立一関図書館に英語多読コーナーが設置され、酒井理事による英語多読講座が開催されました。その時の受講者が中心となって「一関・英語多読を楽しむ会」が設立されました。一関図書館の恵まれた多読環境を利用して月2回の活動を続け、延べ152回開催されたそうです。一関図書館には図書に関連した活動なら無料で利用できるグループ活動用の部屋があり、多読コーナーの本を自由に持ち込めます。前半は各自で読書、後半は読んだ本の内容紹介と感想を話します。参加者から英語を実際に使ってみたいという要望があり、英会話の部も開催しているそうです。

実践報告⑤:「英語多読クラブ・岩手」からの報告
英語多読クラブ・岩手 小澤 博幸

2011年に紫波町古館公民館で多読講座が開設され、その後で講師の畠山廣子さんと受講者によって「英語多読クラブ・岩手」が発足しました。県内外から膨大な寄贈本が集まり、現在も多読に使われているそうです。公民館での活動の様子は『図書館多読への招待』(2014)に掲載されています。現在は英語図書を矢巾町の星北高等学園に寄贈し、2か所で月2回活動されているそうです。前半は各自で静かに読み、後半は読んだ本の紹介をしています。小澤さんご自身の多読体験と、リーダーズ・ダイジェストに掲載された方に連絡を取り、家族ぐるみで交流されるようになったお話は、多読は世界につながる扉になる事例と言えるでしょう。

質疑応答

質疑応答では、多読クラブに関する質問には米沢図書館「多読サロン」のメンバーの方々が実体験を交えて答える場面もありました。学校教員や教育委員会の方からは具体的な素材の使い方に関する質問も出ていました。

次回の図書館シンポジウム

閉会の前に、次回の図書館シンポジウムの開催が発表されました。第9回シンポジウムは2022年11月5日(土)大阪府の河内長野市立図書館で開催されます。関西地方での開催は初めてになりますので、近隣にお住まいの方は楽しみにしていてください。

今回のシンポジウムは当初10月に予定されていましたが、新型コロナウイルス感染拡大により12月に延期されました。感染対策を講じながら対面で開催することができたのは、現地スタッフ、参加者の皆さんのご協力のおかげです。改めて感謝申し上げます。

午後の部・参加者の声(アンケートより抜粋)

  • 図書館で多読ワークショップをしたり、参加者が読後感想をプレゼンテーションするなど、図書館は本が置いてあるだけでなく「生涯教育、学びの場」であると同時に、人が集まる場所という社会的意味を持っていると感じた。
  • 英語多読には何千冊という本と朗読CDが必要で、個人での準備は難しいため、図書館で配架し、理容していただくことが望ましいということがわかりました。少しずつ資料を揃えていきたいと思います。
  • 地域の図書館の熱意に感動しおります。
  • 図書館利用者が主催の取り組みが勉強になりました。ゆるやかな参加体制が継続のポイントなのでしょう。大切なことですね。
  • 学校教育との連携がなかなかできていないので、きっかけづくりでの「多読」がとても魅力があると思いました。
  • 皆様の貴重な体験を持ち帰り、「多読」を是非、図書館・公民館と連携し、青少年や高齢者を対象に導入したいと思います。
  • 全国の図書館で様々な取り組みがなされていることがわかりました。私も地元で行われている英語多読の会に参加して英語多読への一歩を踏み出したいなと思いました。
  • 各地の取り組みが聞けて、同好の志が増えた気がして嬉しく思います。

(理事 小川和子)