12月12日(日)第4回日本語多読支援研究会報告

LINEで送る
Pocket

12月12日、42名の参加者を迎えて日本語多読支援研究会が行われました。第4回目となる今回は、昨年に引き続きオンラインでの開催です。テーマは「2021年の多読支援をふりかえって」。

冒頭、理事の粟野さんから「コロナ禍のおかげで、国内外の支援者同士がつながれるようになってうれしい」とのコメントがありました。パンデミックの思わぬ副産物といったところでしょうか。「NPOにほんごたどく特設サイト」へのアクセスは、コロナが起こる前に比べて実に6倍に増え、今年10月には過去最高の14.3万viewを記録。日本からのアクセスは24%、その他は世界中のさまざまな国からだそうです。無料よみもの作成も盛んになり、オンライン化によって多読普及が進んだことは疑う余地がありません。

研究会では、日本語多読の新たな広がりを感じさせる4つの実践報告がありました。報告者の多武さんと黒野さんは、以前参加したNPOの勉強会を元にオンライン多読の実践を始めたとのことで、スタッフとしてはうれしい限りです。報告はどれも具体的で、参加者のみなさんも参考になったと感じたようです。

1人目は、メキシコでオンライン多読独立授業を実践している多武芳恵さんでした。気になる本が素早く選べるようにPadletでトピック別に本棚を作成していること、読書記録が書きやすいように工夫をこらしていることなど、真似してみたいと思えるヒントが満載でした。学生からの反応もいいそうです。オンライン多読の課題として、ネット状況によってアクセスできないことがある、ビデオオフの生徒の様子がわからないといったことが挙げられました。将来的にはアウトプット活動につなげたいと考えているそうです。

2つ目の発表は、国際交流基金ソウル日本文化センターの黒野敦子さんによる多読多聴授業の報告でした。上級学習者向けに、ニュースの聴き取り、個人読み、ブックトーク、振り返りを取り入れた授業を行っています。コースをデザインする際に、週1回だけの授業なので、話す活動も入れる、チャレンジングな素材も取り入れる、多読多聴は宿題とする、などを心がけたそうです。個人読みの時間は毎回10分ほどと短いが、だからこそ上級者でもやさしい読み物に手がのびる効果があったというお話が印象的でした。自宅でなかなか多読多聴多観が進まない学習者もいるのが課題だそうです。

次に、作田奈苗さんが、NPOが隔週で行っている「オンライン日本語多読クラブ」について報告しました。これまで通算26回行われ、毎回10人前後が参加しているので300人強が来た計算になります。参加者は社会人が中心ですが、大学生、高校生、子供などもいて、常連さんも現れ始めました。海外の学習者が多く、やはり世界中どこからでも無料で気軽に参加できるのがオンラインクラブのメリットと言えます。また、他の日本語学習者の存在を知ることができる、支援者とゆっくり話せるのも利点と考えられるそうです。悩みとして、話すことが目的で本をあまり読まない学習者がいる、オンライン上で交流が起こりにくい、といった点が挙げられました。

最後の報告は、クック史子さんによるアメリカの大学での授業の一環としての多読習慣についてでした。単独の多読授業を開講できない事情から、読書を習慣づける環境を作っています。毎回クラスに入ったら、静かに本を読む時間を8-10分とり、ストレス解消のための多読を目指しているそうです。通常授業での読書時間を確保するために、従来のクイズを宿題にする、会話練習を減らすなどの工夫をしています。読書はストレス軽減効果があるというデータもあるとのことです。ウェルビーイングを多読の利点ととらえる考え方は非常に重要で、共感した方も多かったのではないでしょうか。

以上4つの発表の後、事前アンケートで寄せられた質問について、全体で考えました。「英語多読のように、読んだ後クイズも受けられるような多読支援サイトがあればいいのではないか」「レベル以上のものを読みたがる学習者など、学習者の語学レベルに合った読みものへ指導するにはどうするか」「コミュニティに所属しないで多読を始め、続けることはできるのだろうか」この3つを取り上げましたが、意見交換の時間が短く、少し残念に思いました。

休憩後は、忘年会と称してブレークアウトルームに分かれ、自由に多読談義を楽しみました。それぞれの多読実践について語り合い、お悩み相談をしたり、新しい素材を紹介し合ったりしていたようです。

最後に、参加者からの感想を抜粋します。

[よかったこと]

・実践報告から、考えあぐねていたことについて具体的なアイデアをもらった。
・世界の各地でがんばっている方達の話は刺激になる。
・発表が多岐にわたり、多読授業のいろいろな面が見えてよかった。
・報告がすべて、比較的最近の新しい取り組みであったところ。
・報告時間の長さがちょうどよかった。
・試行錯誤や迷いを率直に話してくださったのが参考になった。
・支援の対象や実践内容がそれぞれ異なったので、一口に多読と言っても、いろいろな目的のもといろいろな方法で行われているのがわかった。
・忘年会タイムでいろいろ経験を聞くことができてよかった。

[もっと聞きたかったこと、改善点、今後への要望]

・事前質問についてもう少し時間をかけてもらいたかった。
・忘年会について:始めにある程度トピックを部屋ごとに決めておいて、話したいトピックの部屋に入るという形もいいかもしれない。
・オンラインには、他の方々との距離感がつかみにくいという点があるせいか、あまり積極的に参加できなかった。
・学習者の環境によって、教師、学習者、それぞれの立場で多読の時間に求めるものが微妙に異なる。その結果、本来の多読の原則からは若干外れる活動を含んでいると感じられる「多読」もあるのかなと思った。
・読みもの作成にあたっている人の話を聞きたい。
・トピックを絞って賛否両論が飛び交うような場面があったらよかった。
・色々な多読本が出てきているので、どんな違いや利点、特徴があるか知りたい。

日本語多読、2022年度もますますパワーアップしていきますように!

(日本語多読支援研究会・正会員 纐纈)