支援セミナーの午後は、英語・日本語に分かれての分科会でした。今年の英語分科会は、前半は学習者の立場でTadokuを体験し、後半は支援者の立場でテーマ別に話し合うという構成でした。
支援者であることをすっかり忘れて・・・
6月の初頭、今年のセミナーの最初の打ち合わせが行われました。そこで、元教員のスタッフの一人から「支援者であることをすっかり忘れて、おもいっきり多読を楽しんでほしい。私も自分で多読をやって初めて分かったことがたくさんあるから…」という発言があり、その言葉に導かれるように、分科会の構成はあっという間に決まっていきました。
Tadoku案内
そして迎えた当日。最初はスタッフの荻野(正会員/noA’s English Club)が、いちばん最初の入口から多読・Tadokuの案内をしました。30分という短い時間でしたが、これがとても好評で、普段、多読の案内をすることはあっても、してもらうことはあまりないせいか、参加者のみなさんがフンフンと頷きながら聞いている姿が印象的でした。
Tadoku体験
みなさんがすっかり「学習者モード」に入ったところで、会場である文京学院大学女子中学校高等学校の多読室(四方を素敵な絵本に囲まれた夢のような空間!)の本棚を正会員で同校の英語科教員でもあるスタッフの飯野が案内しました。淡々と本棚をまわりながらも「ここは Oliver Jeffers の棚です。オススメです。」とさりげなく自分のお気に入りを紹介するところはさすが多読実践者! このあとたくさんの人がそのコレクションを手に取って読む様子は、多読の現場でよく見かける光景そのものでした。そのまま、自由に本を手に取って多読をする時間に入り、間にYouTube動画の鑑賞やブックトークを挟みながら、楽しい時間が過ぎていきました。
会場の和気あいあいとした雰囲気から、「支援者であることをすっかり忘れて…」というコンセプトが上手く伝わっていることがわかりました。互いの現場がかかえる事情はさまざまでも、こうして「多読を楽しむ」という経験を通して支援者同士が繋がっていく・・・支援セミナーの大事な役割が見えた気がしました。
テーマ別話し合い
後半は、「支援者の立場で」テーマ別に話し合いをしました。希望するテーマごとにグループに分かれ、30分の話し合いを2回行いました。話し合いは、最初に担当者がテーマを提示し、自分の経験を語り、それをきっかけにみんなで話し合うというスタイルで進みました。各テーマの報告です。
読書記録やブックトークから学習者の反応をどう拾うか
担当:荻野 藍(NPO多言語多読正会員、noA’s English Club)
読書記録手帳には、学習者がどのように本を読んでいるか、本当に読書を楽しめているかどうかを探るヒントがたくさんあります。私たちのグループでは、感想に同じことしか書かない場合、理解度にしか注目していない場合など、いくつかの例をあげ、参加者のみなさんがどのように学習者に対応しているかを話し合いました。
前半のグループは、みなさん共通して、支援者の「見守る」という重要性について、読めたことをただ褒めるより、「先生が見ていてくれている」「認めてくれている」と思わせることが重要だとおっしゃっていました。一方で後半は、読書記録自体の必要性について、「記録があると、後々振り返りに良い」という意見も出ました。
時間が足りずまとめはできませんでしたが、学習者それぞれの表情や姿勢をよく見て、読書記録だけでわからない部分はこちらから質問をしたり、話しやすい雰囲気を作ったりと、参加者のみなさんの様々な工夫をシェアすることができたと思います。
(荻野 藍)
学校における大人数クラスの中での多読指導
担当:飯野 仁美(NPO多言語多読正会員、文京学院大学女子中学校 高等学校)
最近は授業で多読を取り入れる学校も増えてきました。入試で英検などのスコアを活用できる大学も増えてきており、今まで以上に4技能の育成を意識した結果かもしれません。
大人数の中でどのように生徒1人1人が楽しめる多読をできるか、どのように読み方を指導していくか、どのように評価につなげていくか、どのように集団授業として多読をするための発達段階に応じた環境づくりをしていくか等、いろいろなトピックが出ました。語数や冊数などの表面的な数字ではなく、英語を自由に楽しめる環境をつくっていくために、私たち教員が生徒の顔を思い浮かべながら、いろいろと考えていかなければと改めて気づかせてくれる分科会でした。(飯野 仁美)
生徒に字面だけを読ませていませんか?
担当:鈴木 祐子(NPO多言語多読正会員、ABC4YOU)
参加者は、多読支援されている方とこれから始める方とが混在していました。
まず、生徒が字面を読んでいる、と感じたことのある人に、その様子を具体的に話してもらい参加者全員でその状況を共有しました。
- 日本語でも概念のわからない単語が出てくる本を読み終えたとき
- さらっと本を読み終えたとき
- 絵本の絵で表現されていない展開は予想できないため、はなし全体の展開を誤解しているとき
などが挙げられました。
このようなとき、読み手はどう本を読んでいるのだろうか、私たちはどう対応したら良いのだろうか、を検討しました。
読み手は、わからない言葉を心に引っかけ意味を予測しようとしていないのではないか、わからない部分を予測しようとしないために(自分のわかる言葉をくっつけて予想してしまい)展開を誤解してしまうのではないか、などの見解が出ました。予測力を育むため、絵本の読み聞かせをする、Wordless絵本を読む、生徒にWordless絵本の文章を考えさせる、などの対応案が出ました。最後に、Wordless絵本「FLOTSAM」を読み、予測することで本の読み方がどう変わるのかを参加者全員で体験しました。
(鈴木 祐子)
支援の喜びを語り合う
担当:繁村 一義(NPO多言語多読副理事長)
集まった4人(ファシリテータを除く)のうち1人は、まだ多読支援の喜びというものが分からないので、どういう喜びがあるのか聞きたいという方でした。
まずは3人+ファシリテータで喜びについて語りました。訳したい、全部わかりたいなどのいろいろな呪縛から解放されて、純粋に本や動画を楽しみだすところを見ていると、やはり嬉しい。支援している相手が他の人に多読を薦めているのも嬉しいし、それが的確なことが多いので、なお嬉しいといったところが中心でした。
少々ひねくれたところでは、本人は力がついてきていることに気が付いていないのに、支援者はしっかり気が付き、私は分かっているよと独り言ちているのも楽しいというのもありました。まだ支援の喜びというものが分からないと言っていたはずの方も、最初は質問が多かったけれども、後半はいろいろ例を提供してくれ出して、やはりこの喜びが支援の原動力かなと思えるセッションでした。
(繁村 一義)
図書館多読について
担当:米澤 久美子(NPO多言語多読理事)、小川 和子(NPO多言語多読理事)
このグループに参加されたのは、以下の方々です。
- 公共図書館、学校図書館の多読担当者
- 学校図書館と連携して多読授業を行なっている教員
- 図書館多読に関心のある実践者、支援者
英語分科会のグループですが、日本語の支援者も数人参加されていました。
自己紹介と知りたいこと、相談したい点を話していただき、他の参加者がヒントになる解決策を提案していきました。15人程度と、一緒に話すには多すぎる参加人数だったのですが、図書館が多読図書を配架し、利用者の多読の継続を支援するための具体的な工夫や、現場での苦労が話し合われました。図書館の英語多読コーナー見学の時間には、文京女子の中2の生徒さん達が作成した紹介POPの上手さに歓声が上がりました! その後も、まだまだ話は尽きない、というところで時間が来てしまいました。図書館多読に関心のある方、実践したい皆さん、11月10日(日)に第6回図書館多読シンポジウムが東京都稲城市立中央図書館で開催されます。ぜひご参加ください。
(小川 和子)