神田川沿いの桜が満開になった日曜日、12名の方をお迎えして「多読授業とリライト」入門講座を開催しました。
講師はNPO理事の松田緑、NPO会員の片山智子です。
参加されたのはスロベニアの大学の先生と、タイから留学している大学院生の外国勢2人、日本勢は、日本語学校、大学の先生など様々でした。目的も外国人向けの日本語教材を作りたいという方や、読解授業にヒントがほしいという方、多読授業を始めて1年だけれど少し物足りなさを感じてという方、そして、なんと、この4月から多読授業をスタートされるので参加という方が3人、10月からスタートという方が1人でした。目前に多読授業を控えていらっしゃる先生方のために今日の講座をしっかりつとめなければ、と緊張してしまいました。
【午前の部】
今回、多読という学習法を全く知らないという方はいらっしゃらなかったので、多読の授業はどういうものだと考えているのかを聞いてみました。何人かの方から、学習者が自分のレベルに応じた本をたくさん読むこと、という答えが返ってきました。少しやりとりをした後で、「日本語多読4原則」の説明をしました。このルールは全てが、苦しまずに大量の日本語を体に入れるためにある、ということもお話ししました。
ここで、多読授業の様子を動画で見ていただきました。「教えない」けれど、教師の役割はたくさんあるということをわかっていただけたと思います。
また、学習者たちの楽しそうな様子にも気づいていただけたようです。
ここで、いくつかの質問がありました。
「やさしい本から、というのは、中級以上の学生には抵抗があるのではないか」
「大学で授業をするのだが、評価をどうすればよいか」
おお!これこそ、次に控えている片山さんの実践報告に、その答えがしっかり入っているのです。いいタイミングで片山さんにバトンタッチしました。
片山さんの実践報告の始まりです。
まず、3つに分かれたテーブルの上に、よむよむ文庫と多読ブックスの本が、数冊ずつ並べられました。「さあ、皆さん、これらの本はいくつかのかたまりになって置いてありますよ。どんなかたまりか、あててください」
片山さんの言葉に、なんだか小学生になったような皆さん。楽しそうに本を見ていき、やがて、声が上がりました。
「あ、これは日本の民話!」「これは、動物じゃないでしょうか」
「その通りです。ジャンルで分けてあるのです」と、片山さん。こうすれば、レベルにこだわりがちな学習者も、レベルにとらわれずに本が読み始められます。今日はこのジャンルのものを、次週はちがうジャンルのものをと教室に持って行くようにすればいいと話しました。
次に、いわむらかずおの14匹シリーズの中の1冊で、かわいいネズミの家族の引っ越しの物語をみなさんに読んでもらいました。
文字を隠したものを見ていただき、文字がなくてもストーリーが追える、そして楽しい、という体験をしていただきました。
また、学習者にしてもらうアクティビティとして、作中の人物になって日記を書いてもらう、などという方法も紹介しました。「桃太郎」でも「一寸法師」でも、その中の人物がしたことや思ったことなどをその人になったつもりで書くというものです。ただし、いろいろなアクティビティは、あくまでも自発的に出てくるもので、強制したり、それが多読授業の目的になるのは、良くない、という説明もありました。
読んだ冊数で評価することはしないが、出席率や、読書記録なども、評価の参考にするという片山さんの話で実践報告は終わりました。
【午後の部】
午後は、多読用の読みものを作る時間です。
まず、語彙表や文型表などをお配りし、リライトのポイントの説明をしました。
4人ずつ3つの班に分かれ、イソップのお話を0レベルの本にすることにしました。「ウサギとカメ」2班、「ネコの首に鈴」1班で、作業が始まりました。タブレットに作画する班もあって、楽しそう。
「そろそろ、まとめてください」
と声をかけたところ、1つのテーブルから「きゃあ」と悲鳴が、なんと、「~ています」「~てください」などのて形の文型を数カ所使っていることに気づいた悲鳴でした。0レベルでは、できたら使わない方がわかりやすいですね。急いで、書き直していらっしゃいました。
やさしく読みやすいレベル0の作品ができました。
3つの班の作品を読み上げていただきました。さすが、日本語の先生。読み聞かせがお上手です。
続いて、「蜘蛛の糸」1班、「注文の多い料理店」2班で、レベル3の作品にしあげていただきました。皆さん、思い切って削っていらっしゃったのには、感心しました。ここはカット、というのは、結構勇気がいることなので・・・。読み上げていただき、みんなで楽しみました。
最後に、お一人ずつに今日の感想を伺いました。片山さんの実践報告が参考になったという方が多くいらっしゃいました。もっと教師が勉強しなくては、本もたくさん読んでおかなければ・・・と思った、という感想もありました。
午後からは、副理事長の粟野真紀子も加わり、参加者の皆さんの質問にお答えしていました。
記入していただいたアンケートには、リライトの際、協力して意見を出し合って制作することが楽しかったという感想が多く見られました。
4月から、また10月から多読授業を始められた方々の報告があったら、うれしいです。うまくいきますように・・・。
(松田 記)