10月28日(日)第42回「多読授業とリライト」入門講座 報告

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9月の回は、台風の影響で中止になり、久々の「多読授業とリライト」入門講座です。
気温21度。爽やかな秋の日に受講してくださったのは、日本語学校と大学の先生、4人です。多読授業を始めたばかりの方、多読授業を始めようと準備していらっしゃる方、多読用の読み物作成を始めた方などでした。今回の講師は、NPO理事の松田緑と、NPO会員で大学講師の片山智子です。

【午前の部】
日本語多読授業とは・・・松田 10;30~

日本語多読の「4つのルール」について、どのように捉えているかを伺いました。英語多読の経験の長い方が「外国語を習得するには、とにかく量が必要で、それを確保するためのルールである」と答えてくださいました。正解!ということで、では、多読授業は、どのようなものだと思っていらっしゃるかを尋ねたところ「学習者のレベルに合わせた本を用意して、それをたくさん読ませる」と、答えた方が3人。そこで、ORTの文字のないもの、文字の少ないものをお見せして、英語多読の進め方を説明しました。そして日本語多読の進め方も同じように考えてほしいことを話しました。

多読授業実践報告・・・片山 11:00~

katayama

現在大学で多読授業を行っている片山さんから、実際の多読授業についての実践報告です。
まず、多読授業で毎回使うという絵本の絵を、見ていただきました。いわむらかずおの14匹シリーズの中の1冊で、かわいいネズミの家族の引っ越しの物語です。
絵本の下部分にはテープを貼って文字は見えないようになっています。


「あ、おじいさんねずみが、ここに!」一気に絵本の世界に入ってしまわれた様子のみなさん。
「子どもたちには名前がついていますよ」と片山さん。「あ、この大きいネズミがお兄さんですね」「小さい子もいる」ページが変わるごとに「イタチのような動物が通っている」「ここに、ネズミたちが運んできた荷物が置いてありますよ」などと発言があり、楽しく絵を読む体験をしてくださいました。
「絵の情報量って、すごいですね」というのが、みなさんの感想でした。

そうです。本を読むというのは、まずその物語の世界を読むこと。それを大切にするのが多読です。だから最初は絵本がいい。絵からたくさんの情報を得て、物語の世界を立体的に把握してもらいます。音がわからなければ、読み聞かせ、動画などが最適です。文字だけを解釈することに汲々としていると結局は「読める」ようにならないのではないかと私たちは考えています。絵とともに、状況とともに言葉はある・・・そのためのデモンストレーションがこのアクティビティでした。

やさしい本(絵本)からどんどん読んでもらうのが多読の理想ですが、いつでも一番大切なのは読みたいものを読むこと。
どのような本を準備すればいいか、という質問に、片山さんは、「レベル別ではなくテーマ別(たとえば、動物の話、昔話、怖い話など)にして教室へ持って行くとよい」と話されました。この方法は、レベルを意識させず、学習者の興味を引いたものを読んでもらう方向付けに効果があるそうです。
前に使った本は再び持って行き、そこへ、新しいテーマの本を足すようにしていくといい、クラスメートの感想につられて、前回には手を出さなかったものに手を出すこともあるから・・・などと、支援者が気を付けるべき、さりげない「本への誘い」のヒントもありました。
真剣にメモをとりながら聞いていらっしゃる参加者のみなさんの様子が印象的でした。片山さんが使っている読書記録の実物を見て、実践報告は終わりました。

多読授業入門のCD映写 12:00~

本を運び込む→初めての多読授業を開始する場面→多読をする学習者の様子→支援者の声かけ→読むから話すへ、という流れで実際の多読授業の様子の動画を見ていただきました。

一般の本の導入の仕方などの質問がありましたので、NPO多言語多読のサイトで多読向けの一般図書が紹介されていることなどを紹介して、午前の部を終わりました。

【昼休み】 12:40~
副理事長の粟野も加わって、活発な話し合いになりました。昼食をとる手や口のほうが、ついつい休みがちに・・・

【午後の部】
リライト入門講座 松田 13:50~

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リライトするときのポイントを説明したのち、2人ずつに分かれていただき、まず、最初は入門者を想定してイソップの「カラスとキツネ」と「ネコに鈴」をレベル0にしてください、とお願いしました。
「絵が描けない!」と言いつつ、スマホで画像検索をして要領よく絵を模写するなど、いまどきならでの工夫もあり、少しずつ完成していきました。
私たちの設けた基準では、レベル0に「て形」は入れませんが、いつものことながら、やはり思わず無意識に入れてしまったグループがありました。逆に、文型表通りにして不自然な文に頭を抱える例も見られました。
それをどうするか? 学習者は「~ています」の形が本当にわからないのか。前後の文脈でなんなく理解できるのではないか・・・リライトは、ただ文型表に沿って機械的に作るのではなく、「読み手がどう読むか」を常に考えて、リスト外の文法を使ったり使わなかったりの判断をすることが大切、という話をしました。また、不自然な文を書くより、その場面を絵で表してわかることはわざわざ文にしない、というアドバイスもしました。

次に2つのグループとも中級用に「蜘蛛の糸」の冒頭をリライトしていただきました。
両グループとも原文にかなり忠実に言葉をやさしくしていきます。「地獄」と「極楽」をどう表すか、が最初の関門でした。「極楽」を単に「天国」と言ってしまっていいのかどうか。
リライトの正解は一つではありません。こうして、立ち止まって文字や絵から日本語の世界をできるだけ正しく?理解してもらうためにどう書くか、を模索することが多読の実践には大切だと思います。
参加者のみなさんにそのあたりを体験してもらえたとしたら、うれしいです。

最後にみなさんに感想を聞きました。
・リライトについてわかった気がします。続けてやってみたいです。
・参考になりました。分かった部分もありましたが、読み物づくりは絵のことなど難しい部分がたくさんあることもわかりました。より悩みが深くなったかもしれません。
・多読は試しに2回ほど授業でやりましたが、とにかく読む材料をそろえなければ、と思いました。
・この秋から多読授業を始める予定です。いろいろ参考になりました。頑張ります。

(松田/粟野 記)