第2回シンポジウム「図書館多読への招待in東京」報告!

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日 時:平成27年11月9日(月) 10:00-17:00
場 所:四谷地域センター12階 多目的ホール
主 催:NPO多言語多読
協 力:新宿区四谷図書館
後 援:日本図書館協会、全国学校図書館協議会、株式会社カーリル
協 賛:ネリーズ、ロイヤルブックス、センゲージラーニング

近所の図書館で、やさしい多読本をたくさん読めて、多読仲間も見つかって語り合えたら・・・
「図書館多読」は、今よりもっと多くの人が気軽に多読を楽しみ、ますます広がっていくために大きな役割と、まだ未知の可能性も持っているようです。

今年3月1日に行われた豊田高専での第1回に続き、第2回シンポジウム「図書館多読への招待」が東京で開催されました。場所は、四谷地域センター12階にある多目的ホール。
窓からは東京の高層ビルの景色や新宿御苑が見渡せるホールに、全国からたくさんの図書館に関わる方々が集まりました。

午前は、酒井理事長の基調講演「英語多読への招待〜図書館の森に多読の木を植えよう」
実際に参加者が多読を体験するワークショップが行われました。
講演では「多読ってどういうこと?」「図書館で多読?」という2つがテーマでした。
英語を使えるようになるために、なぜ多読が必要か、たとえ話や実例で説明され
参加した皆さんは、笑いに包まれながらも熱心に聞き入っていました。
「一言で言うと多読は読書、日本語の読書で国語ができるように、英語の読書で英語ができるようになる」
という言葉に、読書の専門家である参加者は多いに納得されたのではないでしょうか。
昨年、横浜の図書館総合展で図書館の館長さんや司書さんに多読について説明したときかなり驚いたのは、多読について全く知らなかった、という方もすぐ納得してくれる、ということでした。
これが、英語学習者や英語の先生ではそうはいきません。疑われることばかりで説明にも時間がかかります。でも図書館の方はあっけないほど、すぐに納得してくれるのです。
多読に対して何の疑念ももたない、というのは本の力、読書の力を知っている専門家だからなのでしょう。

多読を支える3本の柱、★多読3原則 ★大量のやさしい本 ★仲間
のうち、本と仲間を提供できるのが図書館の役割。
利用者と一緒に、やさしい絵本からたっぷり楽しんで、よい本、CD、DVDを探して
多読サークルで読書会、書く会、話す会を!
というメッセージの後、実際に絵本を読んでみるワークショップに入りました。

Oxford Reading Tree (ORT)の1,2が渡されました。最初は、どんどんページをめくって
すぐに終わってしまう方が多かったです。
酒井理事長の「変なものがありませんでしたか?」という質問に答える人も、誰もいません。
そこで「文字だけ読んでいては、生きた場面をつかまえられない」と言われて
今度はひとり3分で読み直し。おなじみのアイテムを見つけた発言がどんどん聞こえてきました。
いろいろなアイテム探しに熱中し、子どもに返ったようになっていくのが今回の皆さんはとても
早かったです。さっきまでの読み方とまったく違います。
「同じような場面に、同じような気持ちになったときに、言葉がポンと出てくる。
日本語の読書もおそらく同じ。場面、表情、ことば、が一緒に吸収される。
何度も繰り返される中で、子どものように、場面、気持ちと一緒にことばをおぼえていく」
いう説明は、子どものようになる体験を実際にされたばかりの皆さんは、よく理解できたようでした。

午後は、実践報告で始まりました。
まず、「東海地方図書館の多読向けサービス10年

「図書館多読の招待」の共著者で、愛知県・東海地区を「多読先進県・地区」に育て上げた
豊田高専の西澤一さんが、豊田高専図書館から愛知県と近隣県の公共図書館に広がった
この10年の経緯と、多読用図書の選び方、利用者の要望に応えるために必要なことは何かなど
豊富な具体例で示してくれました。
「多読図書の導入」「選書情報の提示」「利用者への多読の支援」
が図書館多読を進める上で重要な鍵になることがわかりました。

次に「あつまる・まなびあう・つながる図書館を目指して」
岐阜県の多治見市図書館の司書、飯沼恵子さんが英語多読コーナーの実践を報告してくれました。
実は、この発表についての感想だけですごく長くなってしまいそうなくらい感心してしまいました!

まず、始めてからまだ時間がたっていないこと。飯沼さんが導入準備として富山の英語多読講演会に
参加したのは2013年12月。まだ2年もたっていません。ここから今までに行った作業や工夫、疑問、戸惑いなどは、これから始めたい図書館の大きな手がかりになると思います。
コーナーの開設からもまだ1年と少しですが、スタート直後から月1回の多読クラブ(TTT: たじみ多読を楽しむ会)を開催し、その参加者の提案でさまざまな企画を実践しているのも、まさに「あつまる・まなびあう・つながる」場所としての図書館が多読仲間の交流の場になっている実例として、新鮮でした。
クラブのメンバーの提案をとにかくやってみる、というチャレンジ精神と柔軟性がテーマ別のPOP制作や、静かに別々の本を2時間読む読書会、といった新しい取り組みにつながっていてすでに多読コーナーを導入している図書館の方も刺激を受けたに違いありません。
飯沼さん自身が、多読に非常に興味をもち、学びながら、今までに導入している図書館の複数の事例から
何が重要か、必要かを見極めて(人まかせではなく)自分で考え企画し、困ったときには相談する、という
熱意と冷静な分析のバランスが、多治見図書館の多読コーナーがうまくいっている要因ではないかと思いました。
多読自体もそうですが、先を開拓していく人が切り開いた道を、後から通る人は利用しながらも、新しい面白いものを発見して発展させ、先を行く人に教えてあげることができるのですね。
やはり図書館多読も、利用者さんを含め、みんなで作っていくものなのでしょう。
第1回のシンポジウムで豊田高専図書館を見た方は、「ここまで来るには十年かかるのか」となかなか大変な道だと思われたかもしれません。でも、多治見図書館が2年足らずでここまで来た様子を知った今回参加の方々は「まず、やってみよう」と意欲をもたれたのではないでしょうか。
先行例が図書館多読の新しい形も育てている東海地区、さすが多読先進地区です。

「東京の英語多読報告〜公共図書館と学校図書館」
都立府中東高校の学校司書、米澤久美子さんによる東京の図書館多読の現状についての報告です。
まず、多治見図書館の発表を受けて「西高東低」とおっしゃったのが会場の笑いを誘いました。
図書館多読は首都圏よりも東海のほうがずっと盛ん、という気持ちがこもっていました。
首都であり、オリンピック開催地にもなる東京都では、多読本がどのくらい所蔵され、コーナーの設置や講演会など図書館多読が進んでいるのか、公共図書館と学校図書館の両方について、データと共に説明がありました。
学校では、小学校・中高・大学とそれぞれ英語学習プログラムとしての多読に伴って、図書の所蔵も増えているようです。
都立高校には、多読に熱心に取り組んでいて蔵書も豊富な学校が複数あり、米澤さんの学校の取り組みも紹介されました。

「四谷図書館における英語多読活動」
今回の開催場所である四谷地域センター内にある四谷図書館の広報・地域担当の遠藤ひとみさんが
平成23年からの英語多読コーナーの歩みを報告されました。
NPO多言語多読の酒井理事長、繁村理事による定員40名の多読講座が定期的に開催され、多読用図書の豊富さでも都内で有名な図書館となっており、他区市群からの相互貸借制度を利用した貸出し依頼が多いのも特徴だということです。それだけ、多読図書の要望が他地区でも高まっているということですね。
後で実際に閉館日の館内見学ができましたが、自分の最寄りの図書館にもこんなコーナーがあったらと
うらやましくなるような工夫がこらされていました。説明された館長さんには司書さんたちからどんどん実務的な質問が出て、皆さん写真もたくさん撮影していました。自分の図書館でも実践しよう、という意気込みが伝わってきました。

「『tadoku navi』の紹介」
図書館蔵書検索サイト、カーリルの代表取締役・吉本龍司さんから図書館多読を支援するtadoku naviの
システム更新について報告されました。
tadoku naviは豊田高専で開発された、多読図書の紹介や図書館情報をウェブ上で提供するシステムです。
このシステムを担当する吉岡さんからカーリルに協力依頼があり、一緒に新しいコンセプトで更新することになり、現在開発中ということでした。このシステムが動き出せば、スマホで簡単に複数の図書館の多読本情報がわかるようになるそうです。多読を進めたり、挫折しないようにするためのさまざまな仕掛けも計画されているようで、完成がとても楽しみです!

四谷図書館の多読コーナー見学の後、最後にQ&Aセッションが行われました。
事前に参加者から出された質問に、それぞれ経験者、参加者がアドバイスとして答える形式でした。
質問は、以下の通りです。
・利用者の動機維持法
・サービス継続のコツ
・導入時のハードル、努力
・最低冊数
・選書の方法
・講座・サークルの活動方法
・朗読CDの使い方
・予算
・多読サービスの始め方
・広報のしかた
・電子ライブラリーの貸出

また、会場内からの自由な質問もありました。
・東海地方で盛んな理由

多読シンポジウム館内見学

・自分の県でも導入されるには
第1回に比べて、すでに質問に返答があったためか会場から「どうすればいい?」という質問が出ることはなく「やるかどうか迷う」というより「始めよう」という静かなやる気が感じられました。
昨年「図書館多読への招待」が出版されて以来、ますます図書館多読は進化していてこれからもっと面白くなっていきそうです。

(K.O)