4月29日(金)に第3回「中級用読みもの作成講座」をオンラインで開催しました。
2ヶ月に一度開いているオンライン「読みもの作成入門講座」では、初級用、中上級用の読みもの作成を短時間で体験していただきますが、この講座は「中級用読みもの」に時間をかけてじっくり取り組む講座です。毎回、入門講座に参加した方限定で募集していますが、今回は7名が参加。国外、国内の大学・公立高校・日本語学校・地域の指導員などいろいろな立場の方々でした。中には、なんと現地時間午前2時!にオランダから参加してくださった方も。
多言語多読からは理事長の粟野、理事の川本と松田が出席しました。
参加者の方には、前もって「課題」を中級にリライトして提出していただいています。今回の課題は小川未明の童話「野ばら」でした。
午前9時開始
まず、簡単な自己紹介。そして理事長の粟野から、中級用読みものリライトのポイントの確認、この課題「野ばら」を選んだ意図などの話がありました。今回、課題に選んだ「野ばら」は、国は違っても心を通わせた人間どうしが戦争によって引き裂かれるというお話です。ロシアのウクライナへの侵攻のことも多少意識はしましたが、むしろ中級読みものの課題として、物語の長さ、語彙のレベルなどが課題に適しているという点から判断した面が大きいという説明がありました。
続いて、「野ばら」という作品について話し合いました。この話は個人と戦争という不変のテーマを扱ったものだ、という方、バラが好きなのでこの話も好き、という方や、エンディングが印象的だった、という方など、いろいろな感想が出ました。
次に、リライトをしてみて、どう感じたか。苦労したところはどこか。ということを話していただきました。「語彙の入れ替えに終わってしまった」という反省や、「語彙や文を変えることは、本来の作品とは違う物になってしまい、リライトをする側の解釈の押しつけになるのではないか」という疑問がでました。また、「イラストでも表せないし、繰り返し使用しても推測しにくい語彙をどうしたらよいか悩んだ」という話も出ました。
ここで、参加者の方々に、提出していただいた課題のリライトにコメントを入れたものをお返しして、読んでいただく時間も兼ねて15分間の休憩にしました。
午前10時10分~
3つのグループにスタッフが1人ずつ入る形でブレイクアウトルームを作りました。今回の課題は、レベル3にリライトしてくださった方が多かったので、全グループともレベル3で読みものを完成することを目標にワークショップを開始しました。
〈グループ 1〉
前回、美しいイラスト付きのリライトを提出された方がまた参加されていて、今回も課題のリライトにイラストを付けて下さっていました。そこで、その作品をもとに、3人の受講生と粟野の4人で、進めていきました。「平和」という抽象的な言葉を省くのか、入れるのか、また、「将棋」という特殊な語をどうするか、などの話し合いに時間がかかりました。何とか、戦争が始まった所(物語の半分くらい)まで終わりました。
<グループ 2>
比較的、原作に沿ったリライトをなさった2人の受講生に松田が入り、3人で進めました。イラストの指示を入れて下さった方の原稿をもと、もう1人の方のリライトをつき合わせながら文を整えていきました。どちらの原稿も、出だしが少し説明的になっていていたので、そこを整理することから始めました。どちらも大きな違いのない原稿でしたので、スラスラと進むかと思いましたが、やはり、話し合っているうち語彙の言い換えに迷いも出てきて、戦争が始まるところまでも行き着きませんでした。
<グループ 3>
語彙表に忠実にリライトをなさった方と、逸脱語彙が多めなリライトをなさった方の2人に川本が入り3人で進めました。イラストで補えば逸脱語彙や文型も使えること、但し、イラストや前後の文でも推測できないような抽象的な語彙は、使用を避けた方がよいということが、理解していただけたように思います。国境の場所についても、それぞれ「奥深い山の中」「山の上の見晴らしの良いところ」という違ったイメージを抱かれている、など、なかなか意見が一致しないところもありましたが、各人にイメージの違いがある、ということがわかるのも、この講座の面白いところではないでしょうか。やはり、リライトは戦争が始まる前までで、完成にはいたりませんでした。
午前11時20分再集合
ブレイクルームからメインルームへ戻り、それぞれのグループの作品をできたところまで発表しました。リライトというのが、単なる言葉の言い換えではなく、読む人を意識しながらの作業であることを実感していただけたように思いました。
最後に今回の講座全体についての感想を伺いました。
・どこを残したらいいか、などがなかなか決まらず、完成まで行かなかったのが残念だ。
・国境の場所、戦争をしている場所、老人の息子がいる場所、等々の位置関係が気になってきた。そういうところまで、詰めていかないとリライトはできないと思った。
などの感想が出ました。
終了予定の12時を10分ほど過ぎて、講座は終わりました。皆さんの活発なご意見に、わたしたちスタッフも、大いに触発された3時間でした。
《講座後のアンケートより抜粋》
・どこで文を切るか、切らずに一文で言い切るか、どの場面をイラストで表すか、そのようなことを改めて考えることができました。
・中級の講座で特にいいと思った点は、まず全員でどういう作品か、そして苦労した点を共有してから進めた点です。同じ文でも読み手によって、違う印象や受け取り方がある点を活かして進めていくのは、小グループに分かれてからの活動に役に立ちました。
・対象のレベルの語彙や文法にこだわることで、原文に含まれている内容を削ぎすぎて、リライトがあまりにも短く簡潔すぎる文になるのにも、ためらう部分がありました。多読の読みものを作る際の原作とリライトのギャップについて、そしてその処理について、改めて先生方にお聞きしたいと思いました。
・今回、参加者がそれぞれに異なる書き換えをしたものを持ち寄り、話し合いながらひとつにまとめていく作業はとても面白かったです。他のグループで、とても簡潔なものに、グループの方の意見取り入れて肉付けしていったという発表がありました。その際、簡潔なバージョンがどのようにして変わったのか、その変化のプロセスに興味をもちました。
この講座に参加なさった方々が、多読用の読みものの書き手となって、たくさんの読みものができたら、うれしいです。
松田(記)