(毒) カコカンリョーの役割について 第一回

2009年8月20日
カテゴリ : ウンチク
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きのう、蘊蓄オフがありました。
蘊蓄オフは、ほかのすべてのこととおなじで、だれにでも合うというものではありませ
ん。いろいろな理由から、蘊蓄オフの「言葉そのものへの関心」は多読の邪魔にな
る可能性があります。

どういう人にとって邪魔になり、邪魔にならない人はどういう人なのか、それはまだ
よくわかっていません。実はわたし自身にもひょっとすると邪魔になっているのでは
ないかと思うことがすくなくありません。

とはいえ、まだよくわかっていないのをいいことに、わたしは蘊蓄話にのめり込んで
います。そもそも「さよなら英文法!」は蘊蓄のかたまりでした!きのうの蘊蓄オフ
では、「さよなら英文法!」に盛りこめなかった話題を語らせてもらいました。

話題は「過去完了」です。毒がいっぱいで、だれにでも読んでほしいという内容で
はありませんが、「過去完了は過去の過去を表す」というような見方を教えられた
人には解毒剤になるかもしれません。

もちろん解毒の一方で毒になるかもしれません。たとえば多読中に出てきた
過去完了にいちいち目が止まって、快適な読書が邪魔される可能性があります。
そのあたりはそれぞれ学校英語を洗い流せる利点と、多読の邪魔になる危険を
天秤にかけた上で「続き」をお読みください。

なお、「カコカンリョーってなに?」というをさなごやおとなはまったく読む必要
がありません。いったいなんでこんなことが話題になるの? と不思議に思う
だけでしょう。

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毎月1回1年半も途切れずに続いている蘊蓄オフは、わたしは考えでは「unlearn」
のためにあります。学校英語が「これで決まり!」というように提示しているたくさん
の固定観念を打ち破り、生きた言葉はそんな風に単純には捉えられないということを、
さまざまな実例で確かめていく--その過程で学校英語の毒が洗い流されていくの
だと考えています。(そうだといいな! という程度の「考え」ですけどね。)

で、今回の洗い流すのは「過去完了」です。この蘊蓄ネタで「過去完了の本質」を
明らかにしようというのではありません。ただ「学校英語の説明が役に立たないこと」を
例証しようというものです。

全体はかなり長いもので、かつ理屈っぽい展開になるはずなので、何回かにわける
ことにします。今回はその第1回。まずは簡単な課題に挑戦してください。

なお、この課題は2003年の春学期にオックスフォード大学ケロッグ・カレッジで
行った「英日翻訳」についての講義ノートから抜粋しています。小難しい話に英語で
ついてきてくれた受講生のみなさんに、感謝します。

それとともにあのときの受講生のみなさんにお詫びしなければなりません。今回
蘊蓄オフで話して、やっとあのときの説明がどれほど舌足らずだったか、わかり
ました。申し訳ないことをしました。・・・といってもみなさん、まさかこのブログを
読んでいらっしゃらないだろうなあ!)

* 蘊蓄ファンへの課題 その一

A. ケロッグ・カレッジの講義とはちょっと異なりますが、次の翻訳の ① から ⑦ 
までの出来事を起きた順番に並べ替えてください。

 アート・モランは昨夜、これから開かれる裁判での自分の役割についてあれこれ考え、今度の事件の一部始終を、夢の中の出来事かのように、眼を閉じて思い返していたので、一睡もしなかった①。アートと保安官代理のエイベル・マーティソンは、九月十六日の朝、郡のランチに乗ってホワイト・サンド湾に向かった②。潮は次第次第に満ちてきていた③が、約三時間半前の六時半に上げ潮に
変わった④のだ。午前の中頃には、陽光は釉薬さながらに海面に広がり、
アートの背中を心地よく暖めていた⑤。
 昨夜は、綿のように手で触れるほどに濃い霧がアイランド郡に立ち込めて
いた
⑥。その後、霧はところどころでゆっくりと切れ、海上を巨大な渦巻きとなって移動していた⑦。
    
『殺人容疑』、p.21、デイヴィッド・グターソン、高儀進訳、講談社文庫、
1996年。(原文は縦書きです。)

B. 次の英文は上の翻訳の原文です。やはり ① から ⑦ までの出来事を
起きた順番に並べ替えてください。

Art Moran had lain awake ① the night before fretting about his role in this trial and remembering the sequence of events with his eyes shut, as if they were occurring in a dream.  He and his deputy, Abel Martinson, had taken the county launch into ② White Sand Bay on the morning of September 16.  The tide, steadily on the rise ③, had turned ④ about three and a half hours before, at six-thirty; by midmorning sunlight lay like a glaze over the water, warming ⑤his back pleasantly. The preceding night a fog as palpable as cotton had hung ⑥ suspended over Island County.  Later it gently separated at the seams and became vast billows traveling ⑦ above the sea instead of a still white miasma.
  Snow Falling on Cedars, p.11, David Guterson, Vintage, 1995.

はい、課題 その一 はここまでです。
最初の翻訳では順番がわかりにくいという場合は次の試訳を試してください。

 アート・モランは昨晩横になったまま一睡もせず①に今日の裁判でどんな役を演じることになるのか考えていた。眼を閉じて事件の経過を思い出していると、夢の中の出来事のようだった。自分と保安官補のエイベル・マーティンソンが郡のランチでホワイト・サンド湾に向かった②のは9月16日の朝のこと。そのころ潮はひたひたと満ちて来ていた③が、満ち潮に変わった④のは3時間半前のことで、6時半だった。日が高くなる頃には、海面は釉薬をかけたように照り返り、背中の温かみが心地よかった⑤。前の晩は手でさわれそうな濃い霧がアイランド郡の上空にかかっていた⑥。それから一面の霧にゆっくりと裂け目が入り、巨大なカーテンのように海面の上空を渡りはじめ⑦、物言わぬ白い瘴気は消えていった。

両方やらなきゃいけないと言うことも、
どちらか片方はやらなきゃいけないということも、ありません。
ただぼーっと見てくださるだけでもいいです。その場合にもわかるように
説明を心がけます。

でも、時間を見つけて並べ替えようという人がいるかもしれないので、
ちょっと時間を置いて、次の記事を公開します。

そうやって記事を見ていくと、最後にカコカンリョーの役割について、一つ得心が行くはずです。  と申しますか、納得できるようにせつめいできるといいな、今度こそ!

   (その前に ブログの中に図が描けるようにならなくては・・・)

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