7月4日(日)オンライン「日本語多読授業入門講座」報告

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7月4日(日)にオンライン日本語多読授業入門講座を開催しました。
参加してくださったのは、アメリカ、ドイツを含む国内外の8人の方でした。

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6月と同様に前半は正会員の高橋亘が「日本語多読とは?」と題して概論を話し、後半は同じく正会員の纐纈(はなぶさ)憲子がアメリカの大学での多読実践について具体的に話しました。
概論では、多読のキーワード、支援者の役割、授業のやり方、アクティビティなどが紹介されました。
実践報告では、アメリカのノートルダム大学での実践の詳しい報告があり、特にコースの最後のプロジェクトでは、多読に刺激された?学生が創造性を発揮して思い思いの発表をすることが写真とともに紹介されました。参加者のみなさんと字なし絵本を一緒に読む作業もして、字面を読まずに、絵をよく見て本の世界に入ることが多読では大切だということを実感してもらいました。

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(多読の大切なポイントはこの3つ!)

 

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(支援者は、学習者に快適に読んでもらうための環境作りをして、ひとりひとりをよく見守ることが大切です。)

 

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(「ハチの話」からヒントを得た「ハチ公双六」!!)

 

今回は、参加人数が比較的少なかったので、休憩後のブレイクアウトルームでは、それぞれの具体的な質問にお答えする時間がたくさんありました。その様子をご報告します。

質疑応答

Q:聞き読み、読み聞かせの目的と効用は? 聞いていると文字が追えないと思う。読むことへの効果は?
A:入門期は音と文字を結びつけるためにオーディオを使う。実際に音から文字に結びついていく。
読み聞かせは聞く側のレベルに応じて内容を選ぶ。入門期なら音と絵で話がわかる楽しさを知ってもらえる。中上級者でも聞きながら絵を見てストーリーを楽しむ。読書への誘いになる。
聞き読みは、文字をひとつひとつ追っていると塊読みができなかったり、話を楽しめないときにやってみるように進める。返り読みができないので、音が本の内容につれていってくれる。

Q:非漢字圏の欧米人が多い。授業になかなか取り入れられない。本はあるし、貸出はしているけれど、一部の人だけしか読まない。
A:まず学内に仲間、理解者を作る。授業の最初の10分や試験などで余った時間にお試しでやってみる。借りて読んでいる学生の話をクラスで共有するなどは?

Q:継承語でも多読は効果あるか。日本語学習者と読む本は違うか。
A:あると思う。継承語の子どもでも語彙力に幅がある。一人一人の好みに応じた本を探すしかない。私たちのレベル別多読向け図書も楽しんでくれる子どもは多い。

Q:多読の評価はどうしたらいいか?
A:多読ではなるべく評価はしたくないが、多読に特化した授業を立ち上げたら評価を考えなければならないし、課題/宿題も出さなければならないかもしれない。はじめは通常授業の一部/課外活動の方がハードルが低い。

Q:プロジェクト作品の評価はしないのか?
A:日本語や内容などの評価はせず、締め切りしかみない。プロジェクトのような作品/アウトプットがコース目的になってしまうのは問題。多読の中心はあくまでも個人で読むこと。

Q:マンガは使えるのか。
A:レベル3ぐらいから入れている。マンガによって難易度が変わること、ジブリのフィルムシリーズなどを紹介。

Q:1クラス35人なのだが、学生への声かけはどうしたらよいか。
A:数回に分けて、個別面談を一周するのはどうか。記録フォームに問題や気になることを書いてきた学生用の面談時間も少し確保しておくとよさそう。

Q:読みものを紹介して、授業外に読んでもらう方法でも大丈夫か。
A:読み方に慣れ、読む習慣を育成するのに、できれば授業中に一緒に読んだり、時間を確保したりできるとベスト。時間が取れない場合は、テストやテスト返却時、または急遽空いた時間に試行的に取り入れてみるのはどうだろうか。

事後アンケートより抜粋

●よかったところを教えてください。

  • 多読の目的、目指すところ、大学での事例がわかったこと
  • 私が今まで参加したセミナーでは参加人数が多く、直接先生方に質問をする機会があまりなかったのですが、今日は少人数でのデイスカッションもあり、話しやすい雰囲気でよかったです。
  • 多読のやり方、実際にどのように取り入れているのかを具体的に知れたこと
  • 先生方の体験談や他の方の質問を聞けたことです。
  • 必要な情報(教科学習支援のための多読教材作成の状況)が得られたこと。

●ご自身の現場に多読を導入することができそうでしょうか。

  •  現在学校に本はたくさんあるのですが、希望者に貸し出しをするだけで授業に取り入れるということができていないので、今後はぜひ少しずつ取り入れたいと思っています。毎週カリキュラムに組み込むことは難しいかもしれませんが、授業始めの10分や、テスト後の空き時間など始められることから始めたいと思いました。
  • 継承語話者にとっても多読は有用だと伺えたので、月1で行っている絵本会に多読時間を設けてみてもいいなあと思っています。
  • 授業の中で組み入れるのは私の環境では少し難しいところはあるかもしれませんが、導入してみたいです。また教室にとらわれず、「多読」という趣旨で地域の日本語に興味がある方を巻き込むのもいいな…と思いました。
  • 多読を授業の中に取り入れることができるかどうかよりも、読むことに興味を持った学習者の多読支援が可能になる環境作り(具体的には、多読教材の収集・作成と時間的・場所的環境の整備)を優先して考えたいと思っています。

●その他感想など

  • 多読教材作成について、勉強したいと感じています。(複数同様の回答あり)
  • 今後も、オンラインと対面の両方が必要になると思うので、オンラインでの多読の導入を、中継もしくは動画などで見ることができたら嬉しいです。
  • 希望者ではなく、学校の授業で多読を取り入れるためにも、「多読をすることでこんな効果がある!」という過去の学生たちの数字・データなどがあれば、カリキュラムについての話し合いややりたくないという学生を説得する材料になると思いました。
  • 著しく読みが遅い子は顕著にその成長が見えるが、その他の生徒に対しては成長が見にくい、評価しにくいところで引っかかりました。そうすると、学生自身の学習意欲はどのようにして高めて言ったら良いのか、学生に多読をした後、自分の姿がどの様になっているのか想像してもらいながら学習できると良いと思うのですが、その辺をもう少しお話聞きたかったです。

*次回は、9月5日(日)午後4時開催予定です。どうぞご参加ください!

(粟野 記)