3月1日(日)第51回「多読授業と読みもの作成」入門講座報告

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3月1日(日)、第51回「多読授業と読みもの作成」入門講座を開催しました。
新型コロナ感染の影響で、数名キャンセルが出ましたが、結局、9名の方が参加されました。
午前中は、多読概論を会員の高橋亘(神田外語大学)が担当し、多読授業実践報告は会員の大越貴子さん(拓殖大学)にお願いしました。

参加者の内訳は、日本語学校や大学の先生、高校で留学生や帰国子女の日本語指導をしている先生、養成講座卒業生などでした。講師も受講生もマスク姿で、定期的に窓を開けての講座となりました。

【午前の部】

まずは、みなさんに受講の動機を一言ずつ語っていただき、本題へ。
高橋から、自分の10年にわたる多読実践の経験を踏まえた「多読とは?」という概論が語られました。

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「従来のクラス一斉に同じものを読む読解授業では、学習者が主体的に読んでいなかったのでは?」
「教師が授業がうまくいった、というとき、それは学習者の視点抜きに自己評価していないでしょうか」
という問いかけに、みなさん、うんうんとうなずいていらっしゃいました。

その反省に応えるものとして「多読」というひとつの提案があること、従って、多読は「一人ひとりが読みたいものを選び、楽しくなければならないこと」という多読の本質の話へ続きました。

その後、多読をうまく進めるための4つのルールの説明があり、支援者にはそれをサポートする役割があるが、具体的にどんなことをするかの説明がありました。

次に大越さんから、拓殖大学別科日本語教育課程での多読授業の具体的な報告がありました。

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拓殖大学別科には、多読授業を行う専用の部屋があって、週に2回90分の多読の時間があるそうです。
授業初日のガイダンス、多読授業の流れ、その中での留意点などを実例に沿って大変詳しく教えていただきました。
大越さんの実践をうかがっていると、支援者が学習者に実に柔軟に対応していて、その結果、学習者がのびのびと多読の時間を楽しんでいることが伝わってきます。自然に楽しく本に親しんでいくせいか、日本語の伸びをなかなか学習者が実感してくれないという悩みにも、ブックトークを複数回録画して比較したり、期末に振り返りのインタビューをするなど工夫することで対処されています。
この具体的な実践報告は、多読が初めてという講座参加者にも、これから多読授業を始めるという方にもとても役に立ったのではないでしょうか。

ここでいったん、お昼休憩。

【午後の部】

さて、後半は、まず、多読図書を知ってもらい、かつ多読体験をしてもらうという目的の読書の時間を設けました。
多読向け図書や多読に向く絵本、外国語の絵本などをテーブルに置き、自由に読んでいただき、その後、ブックトークをしてみました。

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「もりのえほん」(安野光雅)のかくし絵で盛り上がったり、韓国語の「パンダ銭湯」を面白がったり、みなさん、本の見方もそれぞれで楽しそうでした。ブックトークや絵本の絵の重要性などを体感していただけたでしょうか。

その後は、いよいよ読みもの作りです。
私たちが基準としている語彙表や文型表の説明の後、やさしい読みものを作ってもらいました。3つのグループに分かれて「ウサギとカメ」「北風と太陽」「カラスとキツネ」をレベル0の読みものに。
場面分けをしてから、絵と文作りにとりかかります。

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(絵が苦手、という先生たちは、ネットの画像検索をして参考になる絵を見つけて描いていました)

最後の発表の時間には、言葉にならない部分をジェスチャーたっぷりの体を張った?演技で表現するグループがあり、一堂大笑い。

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(太陽が旅人に向けて熱ビームを放っているところ?!)
フィードバックをした後は、ごく短い時間でしたが、小説の冒頭のリライトにも挑戦してもらいました。今度は、3グループとも「蜘蛛の糸」。レベル3にしたグループとレベル2にしたグループがありました。

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(多読向け読みもの作りのリライトは、単に一文一文をやさしい日本語に書き換えるのではなくて、全体を見渡し、前後関係もよく考えて適切に省略、まとめをしていく作業です)

全体の振り返りをした後、終了時間となりました。
今まで多読について全然知らなかった、と言っていた方が「やってみたい」と感想を言ってくださったり、元書店員の方が「本を使って日本語教育をするのが夢でしたが、現実にできるんですね!」と目を輝かせていたのが印象的でした。

以下はみなさんの感想からの抜粋です。

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【午前の部】

・4月から多読授業を行うことになった・・・(中略)・・・大学での授業の様子、進め方など非常に参考になりました。
・日本語教師というより「元書店員」として話を聞いていました。(学習者の)楽しそうな様子は日本人も外国人も同じなんだとうれしく感じました。ワクワクしています。
・初めて多読の詳しいことがわかりました。今まではたくさん読んだら楽しいんだろうとしか知りませんでした。
また、実際に自分が経験してみた方がいいという話が印象的でした。
・実際にどんな流れで授業をしているのかお話を聞くことができ、少しイメージができました。「本を読む」は、どうしても一人ですることというイメージがあったのですが、クラスでも出来そうに思いました。
・多読のメリット、やり方、楽しいということを知ることができました。ネットで読んだだけでは知り得ないたくさんのことを実際やっている先生方から聞くことができて非常に勉強になりました。
・学習者に日本語の本を、読解ではなく多読として読んでもらうのは、学生個人の個性を育てるのにとても良いものなのだと感じました。
・多読をする際、辞書を使って読むのが当たり前だと思っていましたが、辞書を使わずに読むのが四原則にあることに驚きました。多読に多くの可能性があることを知り、ぜひ授業委取り入れてみたいと思った。
・多読を実践して悩んでいることや困ったことを相談できてよかったです。多読を始める前のスタンス、意義を考える機会となりました。

【午後の部】

・レベルにかかわらず、リライトは難しいと思いました。
・図書をどうそろえていくかよくわかりました。読みものの作り方お実践する場を得られて楽しかったです。他の先生方と共同で作っていく過程が面白く学べました。
・多読本のリライトは、ただやさしい日本語に直してまとめるのではなく、話のキモになる部分を取り出したり、ことばで表さない部分を絵で表現したり、フラグを回収したりと奥が深いと感じた。
・物語の良さを残しつつ、レベルにそった日本語にするだけでなく、イラストで表現することも同じくらい重要なのだと思いました。
・絵本を教材として使ったことがなかったのですが、何人かで一つの本を見ていると、様々な見方、考え方があって、協働作業にすると面白い発見があり、クラスで使うことが出来そうだと思いました。

【その他の質問など】
・多読図書を選ぶ目安、見極め方。
・新聞や乳酢などをクラスでどのように使っているか。
・読みもの作りの講座、ワークショップに参加したい(複数)
・多聴のやり方を知りたい。
・支援者の活動報告に参加したい。

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★次回の「多読授業と読みもの作成」入門講座は6月7日(日)の予定です。
その頃には、安心して多くの方に参加していただけるようになっていますように!
(粟野)