2月24日(日)第44回「多読授業とリライト」入門講座 報告

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2月24日の「多読授業とリライト」入門講座には14名もの方が参加してくださいました。事務所のテーブルは満席状態です。日本語学校や大学の先生、ボランティアの方はもちろん、これから海外にいらっしゃる方、すでに多読のための読み物を自主的に作っているグループの方、大学学部生、大学院生など、さまざまな方がいらっしゃいました。全体には、これから多読授業をやってみたいと考えている方、多読に興味を持っている方などが多かったです。講師はNPO副理事長の粟野、NPO会員で大学講師の作田奈苗です。

【午前の部】

午前は多読の考え方、多読授業のやり方をお話しする時間です。

まずは粟野から、多読の考え方について説明しました。

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多読とは、学習者が自分の好みに応じて楽しくたくさん読むことです。だれかに読まされるのではなくて、学習者自身が読みたいと思って読むことが大切で、そうでなくては読み続けられないし、言葉が体に落ちてこない、たくさん読むことはもちろんですが、自分本位に読むことが大切だということをお話ししました。

そして、実際の多読をするときに重要なのは、多読の原則です。英語学習で、一つ一つの単語にこだわり辞書を引きながら翻訳して学習してきたにもかかわらず、英語力が身につかなかった事実を引き合いに、「辞書を引かない」「わからない言葉は飛ばす」「進まなくなったら他の本へ移る」の3原則について説明しました。これもいわば、読み方を学習者本位に戻す?ためのルールです。100%わからなくても本を自分なりに楽しめればいい、全部読まずにどんどん違う本に手を出していいのです。
日本語多読独自の原則、「やさしいものから読む」についてもその重要性をお話ししました。やさしい本は、頭で母語に翻訳しなくても日本語のまま、すっと入ってくる本です。理想は、最初は言葉のない絵本。絵本で絵を見ながらそこに描かれた世界を読み取る練習をし、そこに言葉がのっていくように読んでいく、つまり、字面を読むのではない読み方をするのが多読の入り口である、という話をしました。

教えない、テストしないなどの支援者の心がけ、本選びや多読の環境づくりも重要です。そして、今回の参加者からの事前アンケートでご質問が多かった四技能との関係については、学習者のビデオなどで聞き読みの状況や、読んだ本のおもしろさから自然に話すことにつながっていく様子などを見ていただきました。
本来、言葉の四技能は密接につながっているはずです。聞いたり読んだりして体にたまったものを話したり、書いたりして出しながら、また取り入れて・・・少しずつ獲得されていくのだと思います。
それを、はい、ここからは書く、ここからは話す、と教師が区切るのではなく、一人一人が自然にそれぞれの方向に向かっていくのが、「多読的」ということではないかと考えています。

次に作田から、具体的な多読授業の実践について報告しました。

なぜ精読ではなく多読なのか、実際にどのように授業を実施しているのか、学習者の反応はどうか、マンネリ化などにはどのように対応しているか、多読の授業を他のどんな活動に結びつけているのかなど、駆け足で紹介しました。
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この後は参加者からの質問コーナーです。

CDを聞きながら読む、聞き読みの意義について、学習者の日本語力にレベル差がある時のブックトークのやり方、マンガの活用などについて質問が出て、参加者、講師ともに話し合いました。

【午後の部】

午後は、多読用の読みものを作成する時間です。
まず、語彙表や文型表などをお配りし、説明を少々。
今回は、「よむよむ文庫」(アスク出版)で人気の「ハチの話」の原案を見ていただき、何場面に分けられるか考えていただきました。6場面から17場面と本づくりのイメージはひとそれぞれでした。
そして、物語の山場をどこに作るかなども少し考えていただいた後で、4つの班に分かれ、イソップの簡単なお話を多読本に作成する作業に入りました。
素材は、「ウサギとカメ」「北風と太陽」「アリとキリギリス」。それぞれ、リスト内の語彙で作るのに苦労されていましたが、みなさん和気藹々と楽しそう。
やさしく読みやすいレベル0、1の作品ができました。

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(狭い事務所は熱気ムンムン。4つのグループに分かれて、アイデアを出し合いました。)

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(各グループに絵の上手な方がいて、挿絵も着々と…)

出来上がった作品は写真に撮ってシェアしました。

人数も多く、かなり根をつめたのでみなさんお疲れではないかと思いましたが、希望もあり、最後に文学作品の冒頭の部分をリライトする作業をしていただきました。素材は「走れメロス」「蜘蛛の糸」「注文の多い料理店」です。筋からは離れず、レベルに応じて、適度に原文を省略したり、易しく書き換えたりする感覚を味わっていただけたでしょうか。

最後に読み上げていただき、みなで鑑賞しました。

今回もまた、あっという間の6時間でした。記入したアンケートには、作品作りが楽しかったという感想が多かったです。
駆け足でしたが、授業のやり方からテキストの作り方までを体験して、「多読」の全体をなんとなくつかんでもらえたとしたらうれしいです。

(作田/粟野)