第38回「多読授業とリライト」入門講座の報告です。
まだまだ寒さが続く中、この日は5名の方が講座を受講されました。帰国子女の多い小学校、地域の中学校、日本語学校、大学など、様々な場所で日本語教育に関わる方、また英語多読から日本語多読にも興味を抱いた英語専攻の大学生など、いろいろな立場の方です。多読のことはすでにご存知で、これから多読を取り入れていきたいと受講された方がほとんどでした。
今回の講師は、NPO副理事長の粟野真紀子と多読授業を実践するNPO会員の片山智子さんでした。
最初に、粟野から「なぜ多読か」「多読のルールにはどんな意味があるのか」の話がありました。
★「なぜ多読か」
日本語学校で文法や語彙を教えていたとき、中級になっても学習者が読めるようにならなかった経験が多読を始めるきっかけとなった。言葉の獲得過程を思い起こして、学習者には、やさしいものから大量にナチュラルな日本語を多聴・多読してもらいたいと多読を取り入れた経緯が語られました。
★「多読のルール(やさしいものから読む・辞書をひかない・わからない言葉はとばす・進まなくなったら他の本へ)にはどんな意味があるのか」
多読のルールを守りさえすれば、多読が実現するわけではない。なぜこういうルールがあるのか,その意味を考えて、ひとりひとりの学習者に対して柔軟に対応していくことが必要。そうしてはじめて「楽しく読む」多読になる、という話がありました。また、多読は学習者主体の読書なので、支援者はリラックスして楽しく読める環境を作り、読む喜びが得られるよう一人一人を支援していくことが必要だということも語られました。
「感情が動いたときに言葉は体に深く入る」という言葉は多読の本質と大きく繫がるところだと思いました。
その他、まさしく、本の内容を心から楽しんだ学習者が本について自然に語り出す動画を実際に見ていただきました。
次に、東京大学でここ数年、多読授業を行ってきた片山さんからの実践報告がありました。
日本語教育の「読む授業」や「読解」は、「実際の読み」とはかけ離れているのではないか、「読む」ことの本質は,知識を得る受身の行為ではなく、もっと個人的で主体的な行為なのではないか。そのように感じていたときに「多読」に出会い、多読授業実践を始めたそうです。
そして、ご自身が授業を進めるときの実践の工夫をいろいろ紹介して下さいました。
多読を始めるときに、文字のない本を読んで「読むとはどういうことか」を意識し直すための前振りをするそうです。
今回の講座でも、受講者のみなさんに実際に字を取りのぞいた絵本の絵だけを見ながら、どんな物語か読み取っていく体験をしていただきました。みなさん、楽しそうに絵から気づいたことを話していらっしゃいました。
わたしたちが、読むことを活字だけを追って解読することではなく、’絵’を手掛かりにして内容を読み取っていくことだと考えていることがみなさんに伝わったのではないかと思います。
また、実際にどう多読授業を行っているかいくつか披露していただきました。
テーマ別に分類して本を提示すると学習者が手に取りやすいということで、実際にどんな分け方をしているのか本を並べて示していただいたり、どのようにブックトークをしているか、多読的な読み方ができない学生にどう接して指導しているかなど具体的な工夫を教えていただいたので、実際に多読授業の様子が頭に描けたのではないかと思います。
多読の読みは、「翻訳」ではなく、文脈から「言葉」の持つ「手触り・匂い・雰囲気」を感じ取ることができるといった話が印象的でした。
いっしょに絵を読んだせいでしょうか。昼食の間もなごやかに多読についての話が続きました。
さて、午後はリライトの時間です。
最初に粟野からリライトするときのポイントについて話があり、レベル別の語彙表と文型の表が配られました。
そして、実際のリライト体験。2つのグループに分かれて、まずはレベル0あるいは1のリライトに取り組みました。取り上げた作品は、イソップの「北風と太陽」「ウサギとカメ」です。
場面展開から考え、どんな絵を入れるか考えて、絵を描きながらリライトを進めます。午前中に「絵を読む」作業をしたことが、どんな絵を入れるかに繫がったように感じました。
みなさん、このレベルで使うことのできる語彙や文型・表現がとても少ないことに驚きながら、何とか短時間で作品を作りました。きわめてシンプルな「北風と太陽」(シンプルなものを作るのは実はとても難しいことです)、なかなか上手にまとめられた「ウサギとカメ」ができあがりました。
それぞれ作品を発表した後で、私たちが作った「よむよむ文庫」(アスク出版)の「風と太陽」「ウサギとカメ」を紹介しました。
逸脱語や表現を工夫しつつ使ったり、オノマトペを用いた工夫を見ていただきました。
次のような感想がありました。
・多読のイメージ、読ませ方がわかった。
・多読は、単にたくさん読むということではないことがわかった。
・読書の大切さについて改めて考えさせられた。
・リライトは難しい。
・リライトがおもしろかった。ニュアンスを掴むのが大切。
・言葉をそぎ落としていくリライト作業が楽しかった。
多読授業を取り入れたり、本作りに参加する等、参加者の方に多読が広がっていくよう願っています。
(正会員 宮城恵弥子)