5月28日「多読授業とリライト」入門講座報告!

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5月28日、日曜日 第34回「多読授業とリライト講座」の報告です。講師は粟野真紀子でした。
今回は、ほとんどの参加者が年少者教育関係の方でした。人数もいつもより少なめでしたので、参加者に発言してもらいながらの和気藹々のリライト講座となりました。

一口に年少者教育と言っても、海外の高校、日本の高校、ボランティア子ども支援、中学校の国際学級の取り出し授業など、関わる形はさまざまでしたが、問題を共有しながら話を進めていくことができました。ちなみに私(宮城)も小学校の取り出し授業に多読を取り入れている立場で参加しました。
参加者の中に海外の高校で教えたときに『よむよむ文庫』を愛読している生徒がいた、多読に大いなる可能性を感じているという方がいて、心強く思いました。語彙と漢字力が足りない生徒を指導するときにリライトしたものを使いたいという方もありました。

午前中は、多読授業についての話です。
まずは、最初に多読を始めたきっかけから。「日本語学校で教えていた頃、いわゆる文法と語彙の読解授業では学習者の読解力がついていかない状況・・・・教師は空回り・学習者も苦しい・・・に悩んだことが、多読を始めるきっかけだった。これは、日本の学校の英語教育も同じですね」話はここから始まりました。
そして、このような読解授業では、読む量が絶対的に足りない。また、教室の一斉授業では、それぞれの興味に合わせたものを読むことができない。わかるもの、楽に読めるものから始めて、大量に読むこと。一人一人がおもしろいと思うものを自発的に読んでいくことが大切と考えて多読を取り入れた等、多読を始めた意図が語られました。

次に、多読の4つのルール「やさしいものから」「辞書を引かない」「わからない言葉は飛ばす」「進まなくなったら止める」について。このルールにどんな意味がこめられているのか、が語られました。
要は、細かいことにこだわらない、とらわれないで、どんどんすらすら読むための多読のルールです。これは、日本の従来の教育理念「頑張る・丁寧にやる」とは対局の考え方になりますが、こうしたアプローチが楽しんでたくさん読むことにつながっていくのです。

ここから、多読をするための環境の整え方・教師の役割・実際の授業の進め方・多読の効果へと話が進みました。参加者の質問を交え、いくつかのポイントを紹介します。

〇絵本の選び方について
NPO多言語多読のホームページの中にある多読向けの市販本リストを紹介して、事務所に置いてあるお勧め本を実際に見ていただきました。ここで、私が子どものために絵本を選ぶとき、どんなことを基準にしているか、話しました。「絵が物語を語っているかどうか」「繰り返し表現が多いものを選ぶ」「学習者をよく見て、この子にどんな本がいいか考える」子どもの場合は一人一人の状況が大きく違うので、一人一人をよく見ることが、特に大切です。

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〇教師の役割
多読の主役は、学習者本人と本です。教師(支援者)は脇役。教えたり、テストはしたりしません。一見、教師は何もしていないかのようですが、観察をすることで見えてくることはたくさんあります。すらすら読めるやさしい本が選べているか、目が絵より字にいっていないか、楽しんでいるか等、チェックしながら見ていると、だんだん一人一人の個性もわかり、適切な支援ができるようになります。

〇読んでいる間のサポート ブックトーク等
学習者が、わからない言葉に拘っているうちは、教室にいる支援者に質問してもらう。すぐ教えないで、「絵を見てごらん」「先を読んでみて」で返す。読むのが遅い場合は「頭の中で母語に翻訳していないか」聞いてみるのも有効という話がありました。
また、「やさしいものを選ばせたいのに難しすぎるものを読みたがる。そんな場合の対応をどうするのか?」という質問には、「本の選択は、最初からこちらが決めつけるのではなくて、ある程度、本人に選ばせて,本人の気づきを待つ」そんなサポートの仕方が紹介されました。メモを取る学習者等についても、「まずは黙認していると、本人がそのうちメモを取らずに読むようになることが多い」等。

気に入った本について語るブックトーク:仲間のブックトークがおもしろい本を知るきっかけになる。また、感動すると、話したいという気持ちが起きるのでアウトプットにもつながる。多読的な読み方ができない学習者も他の学習者から学んで読み方が変わることもある。

さて、午後はリライト体験の時間です。
最初に、リライトで大切なことは題材選びだという話がありました。話の筋がわかりやすい。登場人物の数が多すぎない。時系列にそった話など、レベルによって多少の違いはありますが、わかりやすいもの。そして、おもしろいものを選ぶこと。その上で、レベル別の語彙と文法の表が配られました。
最初に、レベル0・1のリライト体験をしました。題材は『アリとキリギリス』『ウサギとカメ』です。二つのグループに分かれてリライトをしました。
まずは、どんな構成にするか、考えてから、絵と文を考えていきます。
イラストを描くのが好きという参加者がいたので、(この方は、英語多読を実践されていてリライト講座に興味を持たれたそうです)絵を描きながら、いっしょに読みもの作りをしました。レベル0や1のリライト作品作りに、イラストの果たす役割はとても大きいです。

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「〈~ています〉は使えないんですか」「この言葉もだめ?」レベルの0や1は使える言葉や表現がとても少ないため、最初はテキスト作りに苦労していましたが、どんどんイラストが描けたこともあり、シンプルにまとまった『アリとキリギリス』ができました。もう一方のグループの『ウサギとカメ』は、オリジナルな発想の結末が新鮮でした。お互いの作品を見せ合って感想を述べ合った後、私たちの作品も見てもらいました。

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後半は、もう少し難しいレベルのリライト体験です。題材は『蜘蛛の糸』と『注文の多い料理店』の冒頭でした。レベル3ぐらいのリライト体験になりました。
「絵で示せるものは逸脱語彙でも使って大丈夫」「逸脱語彙を使うときはできるだけ繰り返して使う」「思い切ってカットしたり、逆に脚色して加えたり、わかりやすくするための工夫も必要」「学習者の立場を想像しながら作る」等、コメントを入れながら、リライト作業を進めてもらい、テキストといっしょにどんな絵を入れたいかも話し合ってもらいました。できあがった部分を発表し合って、それから私たちの作品を見てもらいました。そのままリライトするのではなく、時にカットしたり加筆したりといった工夫も参考にしていただけたでしょうか。

リライト体験終了後、参加者の感想を聞きました。「リライトは難しかった」「イラストの入れ方も難しい」「でも、意外に原文の色は残せるものですね」このようなコメントがありました。

講座終了後も、時間のある方に実際の子どもの多読記禄(子どもの書いたもの・支援者の多読記禄)を見ていただきながら話をしました。同じ分野の支援者同士、有意義な時間を持つことができました。ありがとうございました。

正会員 宮城恵弥子