第14回「多読支援セミナー」報告 その② 日本語分科会

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多読支援セミナーの報告第二弾は、午後からの日本語分科会の報告です。

(J1)実践報告

報告:髙橋

今年の実践報告は、日本国内大学、国内日本語学校、地域日本語教室での多読という3つのバラエティに富んだ発表でした。

■国内大学での多読授業 —大学生の知的好奇心を満たす絵本や一般書を探して—
——窪田 愛(東京大学講師)

レベルへのこだわりが強い学生が混在する中で、よりレベルの高いもの、より長いものを読みたがる、知らない言葉の意味を調べたがるといった学習者に、どのような読みものを提供すればよいのかを考えていたそうです。
そこで、日本語レベルにとらわれず、内容そのものを楽しめるような読みものとして、実際に窪田さんが多読授業で利用した絵本や一般書の紹介がありました。実際に窪田さんが使用した読みものの紹介は15冊。音の楽しさや視覚的な心地よさが感じられるもの、普遍的なテーマを持つものや考えさせられるもの、子どもの頃を思い出させてくれるもの、大学生としての学術的興味を掻き立てるものが、特に好評だったそうです。
読み聞かせを行った際には、学生が予想外の盛り上がりを見せた本も紹介してくださり、何が楽しいかは読み聞かせを実際にやってみないとわからないというお話が印象的でした。

■大崎市立おおさき日本語学校 多読実践報告
——瀬戸 稔彦(大崎市立おおさき日本語学校教務主任)

全国の地方自治体では2番目に開校した大崎市立おおさき日本語学校では、学習課程の初期から週1回45分授業科目として多読が行われています。図書館には、多読用の読みものを含んだ約600冊が配架され、授業のほかにも休み時間や放課後にも図書館が開放されています。多読中は場の力が働き、多読授業中は学生たちはしーんと静かな図書室で多読を行っています。また、学生から好評のマンガには、近隣の施設が描かれていることもあるそうで、聖地巡礼に行く学生もいるとのことです。日々の日本語学習から解放される学生も一定数いて、面談でも多読授業はたいへん好評だそうです。
今後は、外国につながる子どもたちや学童保育の子どもたち、また一般市民等への開放や、読みもの作りやボランティア教室や日本語学校、市立図書館へも多読普及を目指しているとのことでした。

■地域日本語教室と日本語多読の親和性—ボランティア対象の研修から
——山田野絵(日本語ボランティアグループ・オルビス コーディネーター)

山田さんからは、地域の日本語教室の支援者を対象とした日本語多読に関する研修内容の報告がありました。研修では、どうして多読や読み聞かせが日本語学習にとってよいのか、日本語多読の活動としてのメリット等を強調されたそうです。
第二言語習得、日本語教育の参照枠、そして自律学習といった3つの側面から説明を行った結果、22名中20名の参加者が日本語多読をやってみたいと好評が得られたとのことでした。
多読支援を始めるには図書、場所などの面でハードルが高いと思われがちです。ただ、読み聞かせ活動はすぐにでも始められ、現在の活動にも簡単に追加することができ、さらに準備の負担が少ない点もメリットとして挙げられます。すぐにやってみますと言ってくれた研修参加者もいたそうです。「お勉強」にしないこと、楽しいことが重要であるということも強調されました。

(J2)トピック別話し合い

報告:大越

セミナー申し込みフォームで話したい話題を募り、以下の6つのトピックのブレイクアウトルーム(以下、BOR)を用意しました。参加者の皆さんには、自由に部屋を選んでいただき35分のセッションを2回行いました。各部屋の話し合いの記録は、有志の方々にPadletに記入していただきました。

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1.多読用図書について

参加者の方から、多読に使える絵本、マンガ、若者向けの本や、映像化されたシリーズ物のタイトルが次々と挙げられ、その特徴やレベルなどが共有されました。1つの作品を複数の素材から見せる実践紹介や、読むことが困難な人のために、易しい文で書かれ、絵や写真を多用したLLブックの話も出ました。話題に出た本の一部を挙げておきます。

絵本:

小学校高学年/若者向け本:

2.多聴多観について

多観については、字幕を出すか出さないか、どの言語で、いつ出すのが効果的かが熱心に話し合われたようです。また、授業中の鑑賞について、著作権の問題をどうクリアするかが議論され、予告編鑑賞に留めておくなどの対応策も出されました。後半では、学習者の言語背景による多聴・多観の習慣や困難度の違いなどが話題となり、また、学習者によって多聴・多観・シャドーイングのやり方なども多様だという話も出ました。

3.オンラインの多読

授業中に読むか、事前に読むかといった授業の運営方法や時間配分、選書の支援方法、デバイスの問題などが話題となりました。また対話型読み聞かせの話から、「読む」から「話す」への繋げ方、ブックトークの方法、学習者の特性(年齢・ディスクレシア・ながら聞き・AIとの親和性)なども話し合われました。

4.子ども(小・中・高校生)の多読

参加者の小・中学校での実践をもとに話し合いました。日本語に不自由な子どもたちのためのNPOのレベル別多読図書の導入が、国語授業の架け橋となり、少し長いものを読みたい日本人小学生にも読まれているとのことで、多読用図書の対象範囲が拡張される可能性がうかがわれました。

5.地域の日本語教室における多読

参加者から、ボランティアが多読の良さを理解すること、活動の継続、学習者の自律的読書への支援の難しさが発題されました。本日の発表者の山田野絵さんから、発表内容に加えて、外国人参加者の受講が不安定な日本語教室では、教科書で勉強するよりも、1回完結で活動でき、言語習得や自律支援にもつながる多読のほうが向いているとも言えるのではという助言がありました。地域での多読実践には、読み物の用意・行政との折衝・参加者募集・支援者の理解などの壁があることも確認されました。

6.学校教育機関における多読

学校側との折衝に関しては、『日本語教育の参照枠』の「自律学習」の点から多読をアピールし、ワークショップの開催や、海外なら国際交流基金との連携で、多読推進仲間を増やす。多読の必要性を説く際は、多読活動の見える化(多読用図書・専用図書室を見せる等)、従来の授業・カリキュラムの不足を突く等、活発な意見交換がありました。後半は、多読授業の評価、多人数クラスやオンライン多読でのモチベーション維持についても話し合いました。

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今回、話し合い時間を長めに設定しましたが、人数が多かった部屋や、メンバーの多くが入れ替わった部屋などでは、議論が深まるとまでは言えなかったかもしれません。しかし、参加者の皆さんが、それぞれの多読支援の課題について、再考し、新たな一歩や改善を進めるヒントを得る機会にはなったかと思います。また、海外で日本語の多読支援を広めようとしている方も複数参加されました。多読の仲間作りや多読支援者の育成に、オンラインでの多読や研修がますます拡がる可能性を感じた会でもありました。

アンケートより抜粋

  • 多聴多感の部屋が面白かったです。シャドーイングの話や、字幕のあり、なしなど本音トークが聞けて良かったと思います。いずれにしても、「こうするのが良い」と一つのやり方を押し付けるのではなく、支援者として良い方法を見つけるお手伝いができるといいなあ、、と思いました。
  • 山田先生のお話は、(中略)ボランティアグループへのアプローチを具体的に示してくれたので、大いに参考になった。
  • 瀬戸さん→公立のこうした学校がもっともっと増えてほしいと思います。地域の皆さんを巻き込んだ活動、数年後の様子も是非お聞きしたいです。
  • (瀬戸先生が)「本当に静かにみんな読んでいる」とおっしゃったこと、まさに私がここ何年か続けている(クラスそのものはできないので)ちょこっと多読と同じです。初級から上級、どのクラスも静かな一時になっています。
  • (グループ5:地域の日本語教室における多読に参加して)大学という、あらゆる点で恵まれた場で多読を実践していると、想像できない「多読実践の壁」があることがよくわかりました。外国由来在住者への対応は、これからの日本という国の行き先の明暗をわけるといってもいいくらい重要なことなのに、結局国としてできていることはないこともわかり、予想してはいたものの失望しました。が、そこに確実に一筋の光を差し込ませている方々がいるのだということがわかったことは、大きな希望となりました。
  • 一般書には日本語レベルを明示しなければならないと思い込んでいましたが、窪田さんの実践例を拝聴して、ジャンル別に分けるのは多読を素直に楽しんで欲しいという点でとても有効な紹介方法だと思いました。
  • 地域日本語教室で多読を活用するには、教室のスタッフに多読支援のポイントやコツを伝えることが最初の難関だと、改めて感じました。
  • (窪田先生の報告で)絵本は大学生には少々子どもっぽいのでは?と思っていましたが、好まれるものも多くあるとわかりました。
  • 山田先生のご報告では、日本語多読活動や読み聞かせ活動は、地域日本語教育と非常に親和性が高いということがよくわかりました。多読はいろいろな制約がありハードルが高いけれども、読み聞かせなら比較的すぐに始められるということがわかり、参考になりました。

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報告その③へ続く