10/12(土)第11回シンポジウム「図書館多読への招待」@豊橋市まちなか図書館 報告②

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午後の部は、図書館関係者対象のシンポジウムです。会場をインターナショナルスペースに移し、公共図書館職員、図書館多読クラブのメンバーなど21名が参加されました。午前の部に続き、種田館長の開会挨拶で始まりました。

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講演「ひとでつながる図書館多読の20年」
──KOSEN-KMITLタイ 西澤一

西澤さんは、図書館多読の道を切り拓き牽引してきた第一人者です(私たちは尊敬をこめて「図書館多読の父」と呼んでいます)。今回の開催地である愛知県下の公共図書館に英語多読導入を働きかけたのは、当時多読授業を受けていた豊田高専の学生から「長期休み中、高専図書館は遠いので、地元の図書館で英語多読ができないか」という声が上がったことがきっかけでした。その後の20年を導入館を示した東海地方の地図で振り返り、「どの図書館にもある児童コーナーのように、英語多読コーナーがあることが普通になるように」という今後の展望を、期待を込めて語られました。

次に、東海地方5館の実践報告です。

実践報告① 愛知:おおぶ文化交流の杜図書館 事例報告
──おおぶ文化交流の杜図書館 江川俊也、「英語で本を読み隊」多読ボランティア 塩澤香

おおぶ文化交流の杜図書館は、人口同規模自治体の図書館で貸出冊数8年連続全国1位を誇ります。まず司書の江川さんから、英文多読コーナーの資料数と選書について説明がありました。サポーターグループ「大府で多読 英語で本を読み隊」の皆さんの協力を得て、POPを多用した多読への興味を惹く書架づくり、リクエストを反映した選書を行っているそうです。シリーズ本の充実に力を入れているということで、江川さんのおすすめ本が次々登場し、とても楽しそうに紹介されていました。続いて「英語で本を読み隊」の「カイさん」こと塩澤さんが、「やさしい絵本を多く読むとどうなる?」かを、英文多読コーナーの風景の写真を示しながら説明されました。利用者交流会での多読サポート経験から①挫折率が低くなる②リスニングや英会話に手ごたえ③図書館に何度も足を運ぶ、という特徴がみられるそうです。参加者・司書・ボランティアが役割分担をしながら運営する「英語で本を読み隊」の例会は、多読の挫折を防ぎ、長期継続を可能にする利用者交流会による支援を実現していることがわかりました。

実践報告② 英文多読 20年のあゆみ
──蒲郡市立図書館 小嶋伶奈

蒲郡市立図書館の英文多読コーナーは、来年20年を迎えます。入職2年目の小嶋さんから、今日までのあゆみが紹介されました。多読コーナーができたきっかけは、ある蒲郡市民の方による「市長への手紙」(市民の意見を直接市長に届ける制度)で英語多読図書の要望があったことで、当時の市長が導入を決めたそうです。2005年にコーナーが設置された当初から、講演会や相談会を実施し、多読図書の利用方法を紹介してきました。新型コロナウイルス感染拡大の時期は閉館もあり貸出数が減少しましたが、現在は再び伸びているそうです。課題としては、①配架スペース②資料の劣化、があるとのことで、これは東海地方でも最も長く多読くコーナーが維持されている同館ならではの悩みといえるでしょう。書棚の数は3つから6つに増えても資料数が増えているため、スペースの確保に工夫が必要とのことです。イベントは蒲郡市民である西澤さんによる多読相談会や講座を経て、昨年からは多読担当職員の方々が利用者交流会「多読ひろば」(「多読サロン」から2回で名称変更)を運営されています。

実践報告③ 新しい世界へ繋ぐために—多読コーナー実践10年目を迎えて
──多治見市図書館 飯沼恵子

2014年9月に多読コーナーが開設されて以来(実際は、開設前の準備段階から)、担当職員として多治見市図書館の英語多読を盛り上げてきた飯沼さんが、10年にわたる多読支援を報告されました。多読図書の導入前、日本語で書かれた英語学習関連の図書は世代を問わず頻繁に利用されていた一方、所蔵の洋書絵本やペーパーバックの洋書はレベルが高く利用されていませんでした。英語多読コーナーは、最終的には「既存のペーパーバックの利用」につながるまで「利用者のレベルをサポート」することを目標に、利用者の語学学習を支援する目的で開設されました。英語多読事業の3つの柱は、①多読資料収集:豊富な資料収集の継続・魅力的な棚づくり ②支援講座:ニーズに応じた支援講座・ワークショップ開催 ③多読クラブ開催:多読をする仲間を増やす・共に楽しむ場所をみんなでつくる、 であり、この方針は当初から現在まで、発展しながら継続しています。多読クラブ「たじみ多読を楽しむ会(T.T.T.)」は仲間を増やし、昨年はメンバーのMikiさんによる多読講座を実施して、今年は大人気の連続講座になりました。メンバーである飯沼さんご自身も、図書館のカウンターで対応した外国人利用者に英語をほめられたとのことで、多読の継続による英語力の向上が図書館サービスの向上につながった好例といえるでしょう。

実践報告④ 英語多読のこれまでと、これから
──豊橋市まちなか図書館 大谷ゆき

今回のシンポジウム開催館である豊橋市まちなか図書館は、今年11月に3周年を迎える新しい図書館です。企画担当の大谷さんから、まず中央図書館の羽田八幡宮文庫、司文庫が紹介され、いずれも特徴ある貴重なコレクションであることがわかりました。中央図書館の英語資料は今年50年を迎える司文庫で始まり、2008年にORTの寄贈を受けてから英語多読用資料の購入が増えていきました。2016年には他館での多読講演会や第3回シンポジウムに参加し、先進図書館を視察するなど多読の研究が進んだそうです。2017年に外国語コーナーがリニューアルされ、多読関連の重点的な予算措置によって、多読講演会の開催、資料の拡充、そして分館にも多読コーナーが設置されるようになりました。翌2018年には講演会に参加した市民有志による自主グループ「英語多読クラブ豊橋」が発足し、中央図書館で「楽しむことを一番に考える」ことをモットーに毎月の活動を継続しています。まちなか図書館では、英語多読クラブ豊橋や豊橋国際交流協会との多読イベントの開催、市内大学の留学生との外国語イベントなど、市内のさまざまな機関や団体とつながりながら、利用者を支援しています。

実践報告⑤ Reading communityを育てる取り組み—公立図書館における英語多読支援をとおして
──常葉大学外国語学部教授・静岡北部図書館 英語多読サークルファシリテーター 良知惠美子

静岡県の常葉大学で英語多読授業を長年実践している良知さんが、静岡北部図書館の英語多読支援に関わるようになったきっかけは、2014年10月に同図書館から多読コーナーの選書依頼があったことでした。多読三原則や多読の成功談を紹介し、図書館多読サークルも始まりました。図書館からの依頼で毎年、多読セミナーで初心者向けに多読を紹介し、毎月1回の対面での多読サークル、1冊の本を読み合うZoom利用のオンラインの読書会を継続して利用者の多読を支援しています。サークル参加者のアンケートからは「英語の本を原書で読みたい」「読後感を共有したい」「読書のモチベーションを維持したい」という参加目的と、「英語力の向上」「多読についての多くの気づき」などの感想がみられるそうです。多読の継続には読書感の共有できる場が重要であり、図書館が担う役割は大きいと強調されました。また参加者数には揺れがあるが、それでも継続することがサークル活動の重要性を高めることにつながるとのことでした。

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後半は図書館多読の課題と展望を語り合うワークショップ「つながる、ひろがる、英語多読」を行いました。今回は参加者全員がすでに多読導入済の図書館関係者でした。4つのグループに分かれ、配布した資料の中からテーマを選び、話し合った後で、代表者の方が Microsoft Teams のFormsに回答を送信し、その後、全体で回答を共有しました。具体的には、「本の移動が連携ができておらずうまく進まない」「担当者不在で利用者の質問に答えられない」「イベントを参加しやすくするためにどうすればいいか」「サークルについて」「書架不足について」などさまざまなテーマの話合いが行われました。

次に、今回のシンポジウムのテーマ「つなぐ、ひろがる英語多読」を考え、今後の展望を話し合いました。「英語をやりたい人よりも本が好きな人に届けたい」「すぐに結果が出るものじゃない、細々とでも続けていく」「子供や20代の人を多読に取り込む」など、いろいろな意見が出ていました。

先進地域である東海地方のシンポジウムでは初めてのワークショップ形式でしたので、お互いに励まし、刺激を受けた内容を実践に生かしていただければうれしく思います。

閉会後、豊橋市まちなか図書館の見学ツアーが行われました。英語多読コーナーだけでなく、全国的にも注目されている従来の図書館にはないような取り組みが紹介され、多くの市民が集まる土曜の夕方のにぎわいも目にすることができました。

東海地方でのシンポジウムは4年ぶりでした。愛知県での開催は、第1回の豊田高専以来で、ほぼ10年ぶりになります。開催にご尽力をいただきました豊橋まちなか図書館の種田館長、職員の皆さま、赴任中のタイから帰国し参加された西澤さん、実践報告をご発表いただいた皆さまにあらためて感謝いたします。

今年2024年は図書館多読の実践を紹介した『図書館多読への招待』刊行から10年、愛知県の公共図書館に最初の英語多読コーナーが導入されてから20年に当たります。これからの10年に期待をこめて、図書館多読のさらなる普及を願うシンポジウムとなりました。なお今年度、全国の公共図書館を対象に、多読資料の所蔵状況等に関する「全国公共図書館多読資料調査」を実施しました。調査結果の報告会を2025年の2月27日(木)の第6回オンラインフォーラムで行う予定です。

(NPO多言語多読理事 小川・米澤)