第13回「多読支援セミナー」報告 その①

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去る8月3日土曜日、東京御茶ノ水のデジタルハリウッド大学にて、恒例の多読支援セミナーが開催されました。第13回目となる今回のテーマは「多読の原点〜多読の力を引き出す支援」。コロナ禍を経て、実に5年ぶりの対面開催となりました。会場での参加者は、英語28名、日本語27名、他にも録画視聴の申し込みが24名ありました。

午前の部は日英合同のレクチャースタイル、午後の部は言語別に分かれて交流中心のプログラムが組まれました。これから4回に分けて報告します。

(A)キーノート:多読とは?

報告:纐纈(はなぶさ)

理事長の粟野真紀子さんの開会宣言の後、まず日本語支援者で正会員の片山智子さん(東京大学)が、多読のおさらいをしてくださいました。今回は、ほとんどの参加者が支援経験者だったようですが、改めて多読のルールや支援の原則を確認できてよかったのではないでしょうか。正会員の作田奈苗さん作のイラストを使って、多読を食べ物にたとえた「たくさん食べれば力がつくが、無理は禁物」という話は、たいへん説得力があったと思います。

(B)酒井前理事長へのインタビュー

報告:纐纈(はなぶさ)

続いては、多読の第一人者である酒井邦秀前理事長へのインタビューで、インタビュアーは正会員の高橋亘さん(目白大学)でした。穏やかな語り口で酒井先生の話を引き出し、脱線しすぎないように進めていく手腕はさすが、インターネットラジオ「タドラボ!」パーソナリティだなと思わせられました。

最初に先生と多読の出会いが語られました。学習者としては、実にご自身が高校生の時にすでに多読経験をしていたとのこと。支援者としては、大学教員時代に訳読法に疑問を感じ、絵本を使ってみたことが原点だそうです。その後、驚くほど英語力が伸びた学習者に何人も出会い、ご自分が言い出した多読のすごさを実感するようになったのだとか。 

話題は近年のインターネット普及に移ります。先生はいつも「ことばとは生きた人間が使うもので、紙の上に書かれた活字ではない」とおっしゃっています。ことばのすべてが表現されている動画素材にアクセスできるようになり、だれでも多聴多観ができるようになったことには、大きな意義があるそうです。

「多読支援で大切にしていることは?」という問いの答えは、「学習者一人一人をよく見る」「自分でも多読をする」ことだそうです。多読によって、だれでも夢中になるものを見つけ、自分の世界を広げることができます。それが多読の持つ力なのでしょう。そして、先生にとっての多読とは、ズバリ「天国」だそうです。先生のお話に引き込まれたあっという間の50分でした。

(C)多読支援座談会

報告:榊

多読支援に関するよくある悩みや、事前アンケートに寄せられた質問に日本語及び英語多読支援の現場で活躍する4人の登壇者が、多読の導入から支援の仕方、アクティビティまで8つの質問に答えました。

登壇者:繁村一義副理事長(英語)、小川和子理事(英語)、遠藤和彦(日本語、準会員)、纐纈憲子(日本語、正会員)

多読の導入についての質問に対する、「導入の際は学生にまず多読図書を一通り見回して多読のイメージを掴んでもらっている」という実践例や、多読三原則の説明についての、「三原則は学習者を解放するためのルール」というコメントも印象的でした。

本を読むのが苦手な方への対応についてには、「本だけでなく、漫画や動画でもよいのでは」という意見や、「一緒に楽しめる本を探す、読書習慣をつけるということは本人の生きていく力になる、多読がそのきっかけになると良い」などのお話がありました。

アクティビティに関しては、「ビブリオバトルや本の帯づくりなどが行われているが、その時間を読書に使った方が良いという声もある」「アクティビティがコアになるべきではない」「アクティビティがあっても良いが、多読授業はあくまでも学生中心であるべき。教師が学生をコントロールして、教師のやりたいことを実現する場所ではない」など様々な意見がありました。

最後に参加者からも質問を受けました。「母語の背景によって多読の進み方が違うか」(日本語多読の場合)という質問には、「多読の進み方は、母語の影響を受けることも往々にしてあるが、最終的には一人一人をよく見て支援する事が大事」などのお話がありました。

支援経験豊富な登壇者の回答を聞きながら、多読の原点を再確認し、多読支援について考察を深める1時間となりました。

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報告その②へ続く。

(事務局)