12/17(土)第5回 日本語多読支援研究会 報告

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12月17日(土)にオンラインで第5回 日本語多読支援研究会が行われました。
この会は、多読の実践報告や悩み相談を聞く集まりとして2015年から年末に行っています。
今回は会員を中心に約30名が集まりました。日本以外ではタイ、アメリカ、インドからの参加がありました。

「メインテーマ」は「2022年の多読支援をふりかえって」でした。

◆前半は、2組に多読実践報告をしてもらいました。

「カリキュラムに組み込んだ多読授業」
大越貴子、浅井尚子(拓殖大学留学生別科)

拓殖大学の留学生別科(6クラス約50名)では、2022年度から必修授業としての多読クラスが開設されたそうです。
学習者が嗜好やレベルに合う読み物を大量に楽しみながら日本語総合力を伸ばす授業を目指しており、多読の後にブックトークをする時間が設けられ、目標言語での読書(インプット)と発話(アウトプット)に早い段階から慣れるような構成になっています。

アンケートでは、9割の学生がこの授業を肯定的にとらえていたそうで、今後の課題として、教員同士の情報交換を密にすること、聞き読みなどができる視聴覚設備がほしいことなどが挙げられました。

「コミュニティーとしての多読クラブ」
ドゥルガ・ラマチャンドラン、ギータンジャリ・ラージャン(多読が好きクラブ)

次の発表は、インドで日本語学習者が自ら立ち上げた「多読が好きクラブ」についての報告でした。
日本語学習が10年以上たち、日本語に触れ続ける環境が必要だと考えていた時に「多読」を知り、その1か月後には「多読が好きクラブ」を設立したのだそうです。参加者はインドの日本語学習者(上級者)や日本語教育に携わる方たちで、3年目に入った現在の登録者は80名にのぼります。クラブは2週に1回オンラインで開催され、毎回10名前後が、自分の読んだ本を紹介したり、いっしょに音読をしたりして、多読を楽しんでいます。

このクラブは「コミュニティ」であるので、参加者に上下はなく全員の多様性が尊重され、安心して関係を築ける場であること。そこから、モチベーションが高まり、自発的な交流が続いていくのだと強調されました。
今後の目標として初級学習者にも多読を広めること、課題として読み物へのアクセスが難しいインドで多読を続けるための工夫が必要であることが挙げられました。

◆後半:多読支援相談会

後半は2回のブレイクアウトルームでのテーマ別の話し合いがもたれました。
トピックは、「本の入手、選び方 提示のしかた」「多読支援の声のかけ方や動機付け」「アクティビティ、成績・評価」「ブックトークのやり方」「オンライン多読のやり方」「多読の効果や意義」「多読用読みものの作成」でした。どの部屋も、活発に意見交換がなされていました。
2回のブレイクアウトでそれぞれの部屋で話し合われたことをごく一部ですが紹介します。

《本の入手、選び方 提示のしかた》
・国内と国外での多読向け図書の入手法や最近増えてきた各社の多読素材について情報交換がありました。インドの「多読が好きクラブ」では、上級者が「青空文庫」に挑戦しているものの、選びにくいこと、ルビがついていないことがネックになっているそうです。

《多読支援の声のかけ方や動機付け》
・高校生、大学生の一部で動機付けがうまくいかないことがあるとの悩みが披露されました。
・後半も、本を読んだことがないタイの中高生たちにどう読んでもらうか。また、どうしたら現地の先生方に多読導入に踏み切ってもらうか、授業内の「ちょこっと多読」ではなかなか’多読モード’にもっていけないなどの悩みが出ました。

これらに対しては、授業内必修では、そもそも自由多読と違って動機付けが難しいのは当然、それでも、どの学習者にも多読を知ってもらいたい、ひとりひとりの興味や性格を観察、時間をかけて信頼関係を作っていくしかないのではないかとのアドバイスがありました。授業内多読のときに、「この時間は他の授業と全く違う」というオーラをできるだけ出しているという発言には、なるほど大切な視点だなと思わされました。

《アクティビティ、成績・評価》
・大学での成績・評価をどうしているかという話題や自由プロジェクトについての意見交換がありました。
・多読と成績・評価は相容れないもの。Aをたくさんつけると上司ににらまれる、といった話やさらに教育はそもそも数値化すべきではないのでは?といった深い話に発展しました。

《ブックトークのやり方》
・ブックトークを授業の最後に取り入れている方、毎回はやっていない方などそれぞれの実践について紹介し合いました。
・その後、そもそもブックトークとは必要なのか。没頭している学習者を本から引き剥がして、ルーティンのようにブックトークをさせるのは、どうなのか?読んだ本がおもしろくて思わず話したくなるという状態が理想という話が出ました。ただし、オンライン多読の時は、コミュニティづくりのためにブックトークが役立つという面があるという意見も。

事後アンケートでは以下のような感想が寄せられました。

具体的な多読の授業の実施の仕方のお話をお伺いすることができ、個人的にはこれからの不安がかなり解消されて気持ちが楽になりました。

2つの実践報告が素晴らしかったです。

・本好きな人が集まる多読コミュニティと違い、私が現在大学の授業で取り入れているちょこっと多読ではモチベーションを維持するのが難しいと感じています。ですが、今回BORで、その二つはそもそも違うということ、また短時間でも言語面だけでなく、本を通じてその背景や文化などを理解していく経験を重ねることが大切ではないか、というお話をうかがって、やはりこれからも多読支援を続けていく意義があると思いました!

・授業でやるとルーティーン化してしまうという部分はあると思います。それを自然発生的なものに持って行けるように、工夫したいです。

・多読相談会で色々な方お話する時間があって良かったです。実践報告を聞いて、色々なアイデアがわいてきました。

・多読がどんどん広がっているのが実感できました。みなさん楽しく生き生きと活動されているのが伝わってきました。

・多読実践を継続してきたからこそ出てくる問題-例えば、マンネリ化など-を共有でき、実践継続への意欲が高まりました。ただ、そろそろ実践を重ねてきた支援者と初心者を、わけたほうがよいのかもしれないとも思いました。

多読仲間のみなさんとのディスカッションでまたさまざまな情報やアイデアをいただきました。来年もまたよろしくお願いします。

(記 片山 粟野)