2022年9月4日 (日)オンライン日本語多読入門講座 報告

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NPO多言語多読では、基本的に毎月第一日曜日にオンラインで日本語多読入門講座を開催しています。先日9月4日に行われた講座の参加者は4人で、うち3人は日本、1人はアメリカからでした。愛知県の小学校で日本語指導をしている先生、フリーランスで個人的に日本語学習のサポートをしている方、アメリカ中西部の私立大学講師の方でした。この方は、以前全米日本語教育学会の口頭発表で多読について知り、以来6年ほど通常授業に多読を取り入れているとのことでした。今回は、多読について学び直したいと思って参加したそうです。正会員の片山が多読概論、纐纈が多読授業の実践報告、理事長の粟野が進行を担当しました。

多読概論は、片山自身の英語学習経験の話から始まりました。子供の時から本が好きだったのに、なぜ英語の本が読めるようにならないのか?そんな時に英語多読との出会いがありました。そして、現在では日本語多読の支援者であると同時に、英語多読の実践者でもあります。英語多読を通して身をもって体験したことには、説得力があったのではないでしょうか。私たちは、いつも多読支援をする方に「ぜひご自分で外国語多読を経験してください」と勧めています。そうすることで少しでも学習者の気持ちに近づくことができるからです。

自身の多読経験の話に続けて、読む時に私たちは何をしているのか、読むとは何か、精読と多読の違い、などの話がありました。さらに、多読のルールを説明し、多読用読みものをいくつかお見せしました。たくさん読んでいくうちに、学習者が本について話したい気持ちに駆られる例として、みんなで一緒に実際の多読クラスを映した短いビデオクリップも見ました。最後に支援者の役目について考え、多聴多観について少し触れて終わりました。

次に、纐纈が、大学での独立多読授業の実践を紹介しました。しかしながら、必ずしも独立授業である必要はなく、クラブなどの課外活動や、一斉授業の一部に「ちょこっと多読」として短時間導入するやり方もあると初めにお話ししました。多読授業を立ち上げるのはハードルが高い場合が多いので、ゆるい形で始めていただきたいと考えているからです。
授業内活動の中心は個別読書ですが、全体活動としてブックトークや読み聞かせ、プロジェクト発表を行っていることをお話しました。そして、学生が提出したオンライン読書記録をもとに、どのように学習者が本を読み進めているかの例をお見せしました。今回、フリーランスの方はオンラインで支援する場合が多いと思われたので、簡単にオンライン多読についてメリットと難しさについて触れました。最後に、みなさんと「読書とか何か」について考え、字のない絵本を使ってじっくり絵のすみずみまで見るアクティビティーをしました。必ずしも文字を追うだけの作業が読書ではないということを、お分かりいただけたでしょうか。

少人数だったので、後半は、全体で質問を受けたり、感想をシェアしたりしました。「初級でない学習者でもレベル0から始めるのが大事だということに気付かされた」「学習者をもっと見なければいけなかった」というコメントや、「市販本のレベル分けの目安は何か?」「学習者にマンガが読めるようになりたいと言われるが、何から始めたらいいのか」などの質問がありました。「レベル分けして本を並べたら、低いレベルをだれも読まなかった。ジャンル別にしたほうがよいかもしれない。やってみたい」とおっしゃった方も。

以下事後アンケートからの抜粋です。
・多読の良さや効果を改めて確認することができました。「多様な読み方を認める場」を意識で(原文ママ)挑むことで、「指導しなければいけない」という硬さが抜くことができると思いました。
・多読を行う中で、読みたい気持ち、伝えたい気持ちが育つことで、言語力が上がっていくと信じて、多読を楽しめる環境づくりをしていきたいと思いました。
・これまで「からだにたまっていく時間」について考えをめぐらせたことがなく、「多読の効果が早急に表れる」ことをどこかで期待していた気がする。
・多聴や多観という選択肢や可能性について、これまで考えてみたことがなかった。
・理論と実践の話の中には、オーバーラップすることがたくさんあり(「読む」とは何か、雰囲気作りの重要性、教師の役割等)、そこがとても良かった。大事なポイントについて、異なる言葉や角度から説明を受けることが、理解の助けになった。
・NPO多言語多読ブログやノートルダム大のサイト等、参考になるサイトを知ることができたこと、ビデオクリップや記事など、事前に役に立つ資料が配布されていたことがよかった。
・多様なバックグラウンドをもつ参加者がいたことがよかった。 直接言葉を交わす機会はなかったが、私とは全く異なる環境で多読に興味を持っている方々がいる、ということを知ることができただけで、私も多読を授業に取り入れてがんばっていこう、という気持ちになれた。
・選書の仕方を学ぶ機会があると嬉しいです。いつも一人で選書することが多いので、対象児童を設定して、その子に合う本は何かを話し合えたらいいなと思いました。
・ブックトークについての勉強会(ブックトークとは何か、様々な形のブックトークの紹介、指導の仕方等)があったらいいと思う。

今回の講座では、山ほどたくさんの気づきがあって、どうやって今後の授業に多読を取り入れようか考えたら興奮して寝られなかった、という参加者の声も聞きました。担当者として、これほどうれしいことはありません。またぜひNPOの催しでお会いできることを楽しみにしています。導入してからの経過報告などもお待ちしています。
(正会員:纐纈憲子)