第10回「多読支援セミナー」報告 その①

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昨年に続き、オンライン開催となった多読支援セミナー。国内外から119名の申し込みがありました。今回のメインテーマは「多読支援で『教えない』とは?」
アメリカ、フランス、メキシコ、インドなど各地を結び、多読実践者の方のお話や、支援の現場からの報告など、様々な角度から参加者皆さんが考えを深めることができたと思います。

これから数回に分けて、詳細を報告します。

shien2021

A. 開会挨拶/多読実践者に聞く

参加:87名/報告:新井希久子(準会員)

初日、7/31(土)は、NPO多言語多読理事である小川和子さんの挨拶からスタート。

「今回は、参加者皆さんがしゃべる時間を多く作りました。おひとりおひとりが、多読支援の現場で、孤立感、周囲の不理解を感じたり、また逆に支援の喜びを味わっていらっしゃると思います。それぞれの思いを言葉にするこの機会をぜひ実践共有の場として活用なさってください。」

この言葉通り、第10回の支援セミナーは、支援者同士がお互いを「支え合う」まさに、横のつながりを大切にする「多読」らしい集まりとなりました。

最初のプログラム「多読実践者に聞く」では、多読を実践中の5名からお話を伺いました。日本語多読実践者が3名、日英多読同時実践者が1名、英語多読実践者1名の内訳でした。進行役の片山智子さん(NPO多言語多読/東京大学)のやわらかい問いかけのもと、QA方式で進行しました。一部、ご紹介します。






Q:多読のどんなところが一番楽しいですか?気に入っていますか?

「自分の好きな本を好きなペースで読めること」「わからない単語は飛ばしていいこと」「多読サークルの雰囲気が好き。支援をしてくれる先生との関係が、上下ではなく、友達同士みたい。」「ブックトークが一番楽しい。いろいろな人の感想を聞いたりするのが楽しいし、知らないことを学べる」など

*このお答えからは、多読の良さの「真髄」みたいなものが浮かび上がってきますね。

Q:多読はひとりでも出来ると思いますか?グループやクラスでやる意義はなんだと思いますか?

「ひとりでもできるが、自分のペースで読んで感想をグループで共有するのが楽しい。」「簡単な本を扱うのでも、ブックトークを通じてそれぞれの価値観をシェアし合い、文化について話ができる」「ひとりではムリ。シェアタイムは最初は緊張したが、人の前で話す経験は、今思うと重要だったと思う。仕事先でそれを実感する。」など

*多読を楽しんでいる実践者の方はブックトークも存分に楽しまれているんですね。

Q:多読には支援者が必要だと思いますか。どんなことをしてもらいたいですか。

全員「必要」あるいは「いないと困る」

「音読をしてもらうことで、難しい漢字がある本も読める。」「文化的、歴史的な背景を解説してもらえるのが嬉しい。」「面白い本を勧めてくれる」「読んでいる時の悩みが出た時に、相談に乗ってくれて、励ましてもらえると気持ちが軽くなる。」など

*この質問は支援者側からするとちょっとドキドキする内容だったのですが、皆さん「支援者は必要」とお答えくださり、聴衆の皆さんもほっとしたのではないでしょうか(^^)

Q:多読をする前と多読をしてからと変わったことがありますか。 (語学力、興味、モチベーションなどの面から)

「季語、歴史、文化など日本への理解が深まった。」「アニメで身に付けた日本語で日常会話はできていたが、その先のレベルの語学力がついた。書くことにも生かされている。大学の講義を聞いても脳内での処理が早くなっていると感じる。」「来日当初は英語に苦手意識が高かったが、半年くらい多読をした後、ヨーロッパの人と英語で話せた自分にびっくり。これで自信がついた。今では仕事で英語でやりとりを日常的にしている。」など

*このそれぞれのお答えには、多読の良さがたくさんつまっていますね。
このQAセッションのあとは、参加者からの質疑応答が続きました。

今回、お話をしてくれた実践者の方は全員、多読本のレベルゼロから始め、教科書とは違う形で言葉に出会える多読を存分に楽しみ、そして語学力をつけていらっしゃる様子をシェアしてくれました。

貴重な機会を作ってくださり改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

B. 多読なんでもおしゃべり会

参加:74名/報告:纐纈(はなぶさ)憲子(正会員)

初日2つ目のプログラムは、「多読なんでもおしゃべり会」と題し、日英多読支援者がテーマ別の部屋に分かれて、おしゃべりを楽しみました。参加者のみなさんから寄せられたアンケートをもとに、事前に11のトピックを決めておきました。

日本語・英語共通トピックとして「読書嫌いをどうする?」「多読を続けてもらうには?」「ブックトークをどうする?」「多読からアウトプットへ」「同僚上司の理解を得る」の5つ、日英別々に「子ども多読支援」「多読初心者」「オンライン多読」の3つの部屋を作りました。25分ずつ2回のおしゃべり時間をとりましたが、ほとんどの部屋が10人以下だったので、みなさんかなり話す機会があったのではないかと思います。

日英とも、コロナ禍を反映してか「オンライン多読」部屋に多くの人が集まりました。オンライン素材のシェアや具体的な授業の進め方などについて話しました。他の部屋でも、おしゃべりの中で、オンラインで多読時の悩みや多聴多観についての話題が出たところがあったようです。状況が落ち着いて対面に戻ってからも、オンライン多読での実践をみなさん生かせそうですね。

日英の支援者が比較的バランスよく集まったのは、「多読をつづけてもらうには」の部屋でした。授業外多読に人が集まらない場合の対策として、読み聞かせや動画視聴を入れる、多読にあまりとらわれずにカジュアルで楽しい雰囲気づくりを心がける、などのアイデアが出されました。「ブックトークをどうする?」の部屋でも、母語でブックトークをした方がいいのか、盛り上げる方法などについて、日英双方の支援者間で活発な話し合いが行われたようです。

NPOでは、日本語多読・英語多読とも年間を通じて様々な活動をしていますが、双方の支援者が一同に会することは、実はあまりありません。本セミナーは、その数少ない貴重な機会と言えるでしょう。今回のようにオンライン開催だと対面のように自由におしゃべりするわけにはいきませんが、日英共通の部屋に入った方々は、言語を超えて共感することが何かしらあったのではないかと思います。

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報告その②へ続く。

(事務局)