有志による「子ども多読支援を考える会」報告

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6月13日(日)16:00よりオンラインで「子ども多読支援を考える会」を開催しました。

多読を使った日本語支援が、いろいろな場に広がっています。その中で、成人の学習者と子どもとでは支援の方法や問題点も違うのではないか、という声も聞きくようになりました。そこで、NPO多言語多読では、初めての試みとして「子ども多読支援を考える会」を、オンラインで開催してみました。
過去2年間ぐらいののイベント、講座に参加してくださった子どもの日本語教育に関わる方たちにのみ声をかけたのですが、当日は30人ほどの方々が参加して下さいました。アメリカを初めとして海外から参加し、時差の関係でかなり眠い状態でがんばってくださった方もいらっしゃったようです。

0613子ども多読支援
大学の日本語教室、公立小・中学校の取り出し授業、フリースクールや外国人学校での日本語授業担当、など、様々な場で多読支援をなさっている、または始めようと思っていらっしゃる方々です。

はじめに、理事長の粟野より「『これが正しい』ということを語るのではなく、子ども多読支援の方法をいっしょに考える場の提供をしたいと思って設けた会だ」という挨拶がありました。

〈前半・子ども多読支援実践報告〉

前半はNPO多言語多読の会員から実践報告をしてもらいました。

①日本語多読について

エスコーラ パウロフレイレ 朝熊ノリ子さん

愛知県で、ブラジル人学校の日本語教育と併設の放課後補習クラスで(小中高生)教えている。2020年9月にNPO多言語多読の「日本語多読授業入門講座」を受講後すぐ、日本語の授業に多読を取り入れた。まず小学生のクラスからスタートし、ついで中高生のクラスにも多読を取り入れた。合わせて20名ほどの児童・学生に週6時間のうち15~20分を多読にあてている。

好みのサイトの多読用無料読みものをタブレットで見ている子どもたちの様子などの画面を見せてくださいました。読んだ後、絵を描きたがる子どもや読みもので見た「てるてる坊主」を作ってみる子どものこと、「すみません」というタイトルの読みものを読んだこどもたちが、いろいろな場面で「すみません」という言葉を使って、それが流行のようになったことなど、楽しい支援の報告でした。

②試しにちょっとやってみた「多読と子どもたち」

神奈川県Y市 日本語指導員  長畑恵子さん

日本語指導員として、神奈川県の複数の公立小・中学校で日本語指導をしている。

子どもたちの背景やルーツも違い、日本語レベルも異なっている中で、積み上げ式に日本語指導もできない状況。これは多読が向いていると思い、2020年度から、合わせて19名ほどの子どもたちの授業に多読を取り入れてきた。

なかなか集中できない低学年のお子さんへの工夫などを話してくださいました。また、子どものほうから、「わたしも読み聞かせをしたい」と言って音読することもあった、ということです。高学年の子どもは「浦島太郎」を読んで、こうだったらいいのに・・・と自分の「浦島太郎」の物語を作るなど、自発的な活動に結びついたということでした。

③子どもの日本語支援に多読を活かす 信頼が支える多読・信頼を深める多読

NPO多言語多読 正会員 宮城恵弥子さん

フリースクールと、公立小学校の取り出し授業で様々なルーツの子どもの日本語指導に携わってきた。小2から小5までの子ども8人に多読支援を試みた。

話者の宮城さんの多読支援は、3人の発表者の中では一番、支援歴の長い方です。支援するほうと、子どもの双方の信頼関係が多読支援を成功させるという大切なポイントを、例をあげて話してくださいました。

後半は、事前アンケートで寄せられた質問に回答していく形で進めました。

①Q:多読を取り入れることができる学習者の日本語レベルは?

A:やり方によるが、0に近いところからOK。文字に親しんでいく過程で多読の本が使うなど。

②Q:子どもが読む時間は、どのくらいが適当?

A:子どもが飽きずに読む時間は15分程度かもしれない。聴き読みや、読み聞かせも入れれば、50分も可能。年齢によっても違う。

③Q:事後活動にはどんなものがよいか?

A:はじめに事後活動ありきではないが、ショートショートを作る、朗読劇をする、などの例が実践報告の中で紹介された。

④Q:クラスの大きさはどのくらいが適当か?

A:子どもに目配りがきく7~8人までならできるのでは?

⑤Q:多読のルールを守るべきか?

A:多読ルールは、日本の学校英語が染みついてしまっている大人向けのルールから出発している。子どもの場合はこの「洗い流し」が要らないので、相手の様子を見ながらヒントや、助け船を出してあげていい。

⑥Q:子どもが楽しめる工夫は?

A:CDで聴き読み。子どもの好みや興味を知って、合ったものを選んであげるなど。

⑦Q:観察のポイントは?

A:その場では、表情や姿勢、言動。つまりどう楽しんでいるかをよく見る。長期的には、最初の頃とどう言語活動が変わってきたかなど。

⑧Q:読みものの調達は?

A:まずは、NPO多言語多読のサイトを見てほしい。無料読みものや、レベルや興味に応じた読みものの紹介が出ている。国内なら、各地の図書館。海外なら、その地の図書館か日本語学校。国際交流基金の教材購入助成に申し込む方法もある。

⑨Q:周囲の理解を得るには?

A:なかなか難しい。多読授業のことがわかるスライドを作ったりしたが・・・。組織の上部に受け入れてもらえるための「理論武装」も必要かもしれない。

〈アンケート 結果〉

21名の方が、アンケートに回答してくださいました。

多くの方が、実際の多読授業の様子がわかったことがよかった、と答えて下さいました。

また、多読を授業に取り入れる際、どのように提案し、どのような過程で採用されたのかをもっと聞きたかった。

オンライン多読について、もう少し具体的な手順など聞きたかったというご意見もありました。

 

今回参加なさった方々の現場ごとに状況も違ったかとは思いますが、多くの報告を聞いていくことで、有益な情報の交換ができるのではないかと感じました。多読支援を始めるに当たって、周囲に理解を求めるときの戦略や「理論武装」もみなさんと考えていけたら、と思っています。

秋口にでも、第2回の「子ども多読支援を考える会」を開催して、報告と話し合いの場にできたら、と思います。

(NPO多言語多読理事 松田緑)