第9回「多読支援セミナー」報告 その②

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8月8日(土)、9日(日)に開催された多読支援セミナー2日目の報告です。

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(D)多読案内

参加:88名 / 報告:榊

2人の英語多読支援者が自身の多読体験を語り、その後、英語多読を例に簡単に多読の案内をしました。

多読体験談①(荻野 藍|noA’s English Club)
英会話教室に10年通い、中学では英語の成績は良かったが高校で難しいと感じるようになる。将来留学を希望していたが会話も思うようなレベルにならず迷っていたところ、知人から多読の教室を紹介される。始め多読には疑心暗鬼であったが、先生の人柄、指導力に、自分の英語の将来がイメージでき安心感を覚えた。価値観を押し付けず、自らの気付きを促すようなアドバイス、常に同じ立場で接してくれる熱心で包容力のある支援を受け、卒業まで飽きることなく多読を続けることができ、大学受験も多読で通すことが出来た。現在は、山形にて幼児から大人までの多読教室を主宰している。

多読体験談②(繁村 一義|NPO多言語多読 副理事長)
学生時代英語は大の苦手であったが、好きなミュージカル映画を字幕なしで楽しみたいと20歳くらいから様々な英語勉強法を試みる。どれも効果がないと諦めかけた頃、40代で多読を知る。批判的な気持ちで始めるが、絵や、特にノンフィクションの写真などに惹かれ、文字よりそうした素材を楽しんでいるうちに一年後には他の人の多読の支援をしたいと思うほどに読めるようになっていた。楽しみながら簡単な絵本で100万語を超えると、気付けば仕事で英語の文献も読め、海外の人とも問題なく仕事ができるように。分からないところからできるようになったという自らの経験を踏まえ、自信をもって会社に2千冊を持ち込んで多読支援を開始。自分は写真への興味から入ったので、支援側に回っても絵や写真の雑学、内容についての話をたくさんする。そうしたことに引き込めた人は多読が進むと感じている。

多読とは…(飯野 仁美|文京学院大学女子中学校 高等学校)
言葉には場面と背景が詰まっているため、英語と日本語でまったく同じ意味を表すものはない。コミュニケーションにおいても、表情や声など、非言語的コミュニケーションの要素も大きい。多読では物語を通して、場面の中でたくさん気持ちとイメージを持ちながら言葉を吸収できるので、自然な英語になる。教科書にはない楽しさで続けることが出来、大量に英語に触れることが出来るため溢れるように言葉が出てくる。やさしいレベルをたっぷり、辞書を引かず、わからないところは飛ばす。わからない、つまらない本はやめる。いつか楽しめると思ってまた巡り合う日を待ちながら。絵をじっくりみて、本の世界へ。日本語に訳さず、楽しい本、自分に見合った本を読みながら、場面や気持ちを物語の流れから想像し、楽しみながら言葉を大量に吸収していく。

(E)図書館多読

参加:86名 / 報告:米澤

図書館を中心に学校や日本語も含め全体の参加者は86名となりました。

小川理事の進行で、まず多治見市図書館の飯沼さんから、オンライン多読クラブの開催状況について、また多読コーナーの棚配置について、実際の写真で紹介していただきました。楽しく迷わず多読を継続できるように工夫された棚づくりの様子と、飯沼さん自身の多読実践者としてのお話は、「たじみ多読を楽しむ会(T.T.T.)」(※同図書館運営の多読クラブ)の皆さんとのつながりを感じさせる内容でした。

大久保図書館の米田館長からは、日本語多読支援を始めたきっかけについて、また現在の様子やこれからに向けての課題などのお話がありました。

高校で司書をしている米澤からは、学校での日本語多読支援について、公共図書館で日本語・多言語支援に取り組んで欲しい点などの話をしました。

その後は参加者同士の意見交換の時間となり、コロナ禍での図書館の状況、多読支援について、多文化サービスを始めたいなどの話が出ました。仲間の存在が大事という点への共感、また今後のサービスの拡充については、あまり広げると大変だからバランスが大事だというアドバイスなどもあり、充実した時間となりました。

(F)英語多読素材持ち寄り

参加:87名 / 報告:大賀、新井、田中

児童英語教室や学校、社会人向けの多読講座などで人気の素材の紹介と、素材紹介を通して支援への気付きを報告してもらいました。

  • 新井 希久子(リトルハウス英数クラブ)
  • 田中 寛紀(晃華学園中学校高等学校)
  • 鈴木 祐子(ABC4YOU)

社会人中心の多読サークルでは、独特の世界観を持つ絵本に「分からない!」と声があがったことをきっかけに、メンバー同士のブックトーク、シェアにより参加者が「読み方」を深めるきっかけになったこと、そしてこのように支援者主導ではなく、「仲間がいる」ことが多読を継続していくには大事だというエピソードが紹介されました。

また学校の現場では、Rotten RalphOh No, George! といった愛嬌たっぷりな挿し絵でいたずら好きな動物たちが主人公の絵本を、中学生はいたずらして叱られる側に感情移入し、高校生は大人として絵本を楽しんでいるように感じるという紹介がありました。

どちらの報告も、同じ本でも実践者(学習者)の感じ方、受け止め方は一人一人違うこと、支援者はそんな実践者一人一人を知ること、みることの大切さが伝わる報告でした。

▽紹介された本(一部)

オンラインの素材については、Oxford Owl(無料)や、Oxford Reading ClubSchoalstic TrueflixLiteracy Pro Library など、実際の画面を見てもらいながら使い方や本のラインナップの紹介がありました。また、動画については、NPOのウェブサイトから、アニメYouTubeのおすすめのページを紹介しました。

(G)英語多読支援実践報告

参加:92名 / 報告:荻野、力石、katobushi

対面、オンライン、個人指導、学校での授業、親子多読や高校生の多読など、支援の形も対象も様々な5人の支援者から、普段の支援の様子を報告してもらいました。

  • コロナ禍でのオンライン対応(榊 桂子|個人多読支援者)
  • オンラインでの親子多読支援(荻野 藍|noA’s English Club)
  • オンラインでの多読支援(鈴木 祐子|ABC4YOU)
  • 学校での多読支援(飯野 仁美|文京学院大学女子中学校 高等学校)
  • フリースクールでの多読支援(力石 歩|東京シューレ葛飾中学校)

5人の報告で語られたのは――

「多読支援では、同じケースは存在しない」「一組一組としっかり向き合うことが重要」「お子さんだけでなく、お父さん、お母さんも一緒に楽しんでもらえる環境を」「いい子でいようとする生徒は、多読が楽しくないとは言えない」「多読支援3原則(※教えない、押し付けない、テストしない)が大切…この考え方は『不登校支援』にも共通性がある」「必要な英語力は教えられて身につくのでなく、皆、自分で身につけていっている」

どんな現場でも主役は一人一人の実践者(学習者)で支援者は脇役という、支援の本質がまっすぐ伝わってくる報告でした。

(H)支援悩み相談ワークショップ(英語多読)

参加:36名 / 報告:新井、飯野、katobushi

児童英語教室や学校、図書館関係者など混合で、12名ずつ3つのグループに分かれて支援の悩みを語り合いました。

「ちょっと難しいレベルの本」を読みたがる生徒にどう対応すれば?という相談には、こちらからブレーキはかけず、やってみてもらうのがいいのでは?という意見がでました。

「多読」の良さは成果を求めないことだと理解はしているが、自営の教室でそこに踏み込めない自分と葛藤しているという悩みには、学校勤務の方から「英語は勉強じゃない。習慣化されることで身に付く。成果が求められる環境だが、その意識で接している。」という意見が出ました。

また、最初は音と絵で物語を楽しむ中で、いつ頃から音と文字を結び付けていくのかという相談には、急ぎすぎず、生徒の中に十分なストックが溜まった後に少しずつ文字と音を結び付けているという例が紹介されました。

その他にも、本の紹介は全てを支援者が抱え込まずに、苦手なジャンルはそれを楽しんでいる生徒に紹介してもらうという話など、支援歴や対象はさまざまでしたが、「あるある!」と共感できる話題ばかりで、時間があっという間に過ぎていきました。

(I)オンライン日本語多読授業実践報告 + 素材持ち寄り

参加:85名 / 報告:片山

まず、3名からオンライン日本語多読授業の実践報告がありました。

  • 初めての多読授業を初めてのオンラインでやってみた!(徳永 由佳|北京語言大学東京校)
  • オンライン多読授業実践の壁(桂 千佳子|獨協大学)
  • ハイブリッド型多読授業実践報告(津金 和代|横浜デザイン学院)

教室なら自然にできる「声かけ」や「場の形成」が難しいといった問題点と同時に、スマホの利用で読む(観る)活動が気軽にできる、「edomodo」等のツールによって全員でコメントがシェアができる等、オンライン授業の利点も報告されました。QAタイムでは、ブックトークの方法や、今後も増えるであろうオンラインと対面の混在(ハイブリッド)授業が話題にあがりました。

続けて、学生に人気があった初級向けの「歌」の動画や中上級向けのオンライン素材の紹介と、NPO多言語多読の日本語多読・多聴・多観Webリソース紹介ページの説明がありました。

(J)日本語多読実践者の声

参加:80名 / 報告:作田

学習者及び支援者の3人に、話していただきました。

まず、ドイツからの留学生のアミラさんは、多読からインスピレーションを得て作った読み物『パンプキン・カーニバル』を披露してくれました。多読による日本語学習によって前より日本語が読めるようになったそうです。

次に、日本在住でNPO多言語多読で9年間多読を続けているヨハネスさんは、仕事の時に資料を自分で読めるようになったと話しました。少しずつ進歩しているので、もう少し、もう少しと思っているうちに9年経ったそうです。日本人の奥様にも読んだ本の話をよくするそうです。

最後に、イギリスからの参加で、日本語教室を開いているフランさんです。「日本語教師のための多読授業入門」(アスク出版)を読んで、自分のクラスで多読をやってみたいと思ったそうです。しかし、日本から多読の本を取り寄せたものの、子ども向けの本のようで、学習者が読んでくれるか心配になったそうです。しかし、試しに自分が読んでみると、おもしろくて声に出して読んでしまったとか。教室の学習者も「多読のルール」を守って読んでいて、これまで英語でしかメールを書いてこなかった人が日本語で書いてくるようになったそうです。「多読は魔法」と話してくれました。

(K)ふりかえり(日本語多読)

報告:粟野

4、5人のグループに分かれて、自己紹介に引き続き、多読についての悩みや疑問について語り合いました。「多読やってみたいけれど…」と躊躇する方に、こうしてみたら、ああしてみたらとみんなで考えたり、自分で多読をやってみるといいとアドバイスしたり、「読む」から「話す」「書く」などにつながるかについて話し合うなど、様々な話題が出たようです。13分ぐらいの話し合いをグループ替えして2回行いました。時間が全く足りませんでした。

(L)お楽しみ抽選会 / 閉会挨拶

報告:粟野

17時半。とうとう最後のセッションになりました。

まず、予告してあった「お楽しみ抽選会」を実行しました。オンラインで一瞬にして3人の当選者が決まりましたが、お三方ともその場にいらっしゃらなかったので、集まった皆さんは賞品の英語多読、日本語多読、トートバッグの写真を前に「あ~、残念~」とため息。

最後に海外から参加のみなさんに一言、感想を言っていただき、長かった二日間のセミナーの締めくくりとさせていただきました。アメリカ、ニュージーランド、イスラエル、タイ、韓国・・・みなさん、多くのセッションに参加され、多読への理解が深まったり、刺激を受けたりされたようでした。

世界のさまざまなところから多読に関心のある方が大勢集まった今年のセミナー、オンライン上でも熱気を感じることができました。

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次の報告その③では、参加者アンケートを紹介します。
(事務局)