第6回 シンポジウム「図書館多読への招待」 in 稲城 【図書館実践報告】

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第6回シンポジウム「図書館多読への招待in稲城」で行われた、全国での図書館多読の広がり、各図書館の取り組み(6館)、日本語多読の取り組みの報告をご紹介します。

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まず、午後の部のトップバッターとして「図書館多読のすすめ」と題して、NPO多言語多読の小川和子理事が「多読とはどういうものか?」「図書館に期待すること」などを熱く語りました。

全国の図書館多読の広がり(NPO多言語多読理事/西澤一)

英語多読コーナーを持つ公共図書館は愛知県から岐阜県、三重県、静岡県と東海地方で広がり、利用者による活動も盛んになっています。東海地方の図書館多読を長年にわたり支援してきた西澤理事から、さらに全国的に広がっている多読導入の動きが報告されました。今年は関西地方の大阪府で新たに4つの公共図書館が多読コーナーを設け、多読支援を始めていることが紹介されました。河内長野市立図書館のホームページでは多読本のシリーズやタイトルだけでなく、貸出状況もわかることが示され、参加者の注目を集めました。このシステムについて、共有できないか?などの質問が相次ぎました。

そしてここで、さまざまな図書館多読を盛り上げる活動を行っている、岐阜県多治見市図書館の一室がスクリーンに映し出されました。

「多治見市図書館からのライブ中継」 岐阜県多治見市図書館/飯沼恵子、たじみ多読を楽しむ会(T.T.T.)のみなさん

岐阜県の多治見市図書館は、充実した蔵書と図書館多読サークルの活発な活動で知られ、今や全国屈指の図書館多読先進館と言えます。図書館多読シンポジウム6回目にして初めて、スカイプによる実況中継が実現し、司書の飯沼さん・多読サークルT.T.T.の皆さんが集まった多治見市図書館と、東京のシンポジウム会場がつながりました。飯沼さんからは愛知県の蒲郡図書館との相互交流「本の帯交換留学」など新しい取り組みが報告されました。利用者であるT.T.Tメンバーの皆さんからはサークルの紹介と楽しいブックトークを聞かせていただくことができ、シンポジウム会場も盛り上がりました。(多治見市図書館サイト

図書館多読実践報告(6館)

「継続に向けた取り組み」 新宿区立四谷図書館/滝口博子

東京都新宿区の四谷図書館は、東京都内で早くから英語多読コーナーを設置し、定期的な講演会や相談会を開催し利用者の多読を支援しています。司書の滝口さんから、導入の経緯から実務上の工夫が具体的に報告されました。何年も多読支援を継続している四谷図書館ならではの、修理や買い替え、棚配置の見直しなど、継続するための工夫が印象的でした。今後の展望として、年齢層の拡大・中央図書館との連携・利用者交流のためのプラットフォーム作りが挙げられました。(四谷図書館サイト

「図書館多読のすすめかた」 墨田区立ひきふね図書館/阿部直美

ひきふね図書館は東京都墨田区の中央図書館であり、平成25年度から多読図書を導入し、コーナーを拡大させてきました。平成28年度からは利用者支援のための図書館多読サークル「すみだ英語たどくらぶ」がスタートし、定期的な活動を続けています。司書の阿部さんから、たどくらぶの実際の進行や使用している機材(CDプレイヤー、書画カメラ等)、回数を重ねながら変更していった点などが詳しく説明されました。たどくらぶで寄せられた利用者の声を、阿部さんたちが受けとめ検討し、多読支援のためのさまざまな工夫や新しい取り組みにつなげていることがわかりました。区内中学校へのORTの団体貸出など、地域に根ざした活動はさらに広がりを見せているようです。(ひきふね図書館サイト

「葛飾区中央図書館の多言語サービス」 葛飾区立中央図書館/森斉丈、滝田美江

葛飾区中央図書館は多言語サービス担当者が4人、という外国語資料に力を入れている図書館です。多読コーナーは2018年に設置され、英語だけでなくドイツ語、フランス語の本も用意されているそうです。多言語のおはなし会も開催され、27か国!の絵本が利用できるとのことでした。ひきふね図書館の「すみだ英語たどくらぶ」を参考にして、図書館多読サークル「葛飾たどくLOVE」が今年1月に発足しました。地域住民であるベテラン多読支援者2名が図書館友の会に迎えられ、クラブのリーダーとして企画運営を行っています。毎回20名ほどの参加があり、盛況とのことです。今や理想的な多読環境を備えた図書館ですが、最初の導入は、サラリーマン風の利用者男性に「多読用の本はあるか?」と聞かれたことがきっかけだったそうです。「多読、という人が増えてきた。多読の波が来ていると思った」そうですから、図書館カウンターで利用者が「多読用の本」を聞いてみるのは多読コーナーが設置されるチャンスになり得るのですね。(葛飾区中央図書館サイト

「羽田図書館多読の歩み」 大田区立羽田図書館/凍田伊津子

館長の凍田さんは2016年に四谷図書館で開催された第2回図書館多読シンポジウムに参加し、多読という新しい英語学習の形に衝撃を受けて導入を検討し始めたそうです。大田区の姉妹都市セーラムとの提携で所蔵している多数の英語洋書の貸出があまりないことから、将来的に洋書の利用者を増やす効果も予想し多読コーナーを企画しました。資料購入の予算計画や講演会の実施を進め、段階的にコーナーを充実させています。講演会参加者の有志による図書館多読サークル「たどくクラブ羽田」が結成され、館内で学習を継続中です。今後の展望として、日本語多読の支援を始めた大森南図書館と英語/日本語共同の多読イベントを企画中とのことで、どのような内容になるのか楽しみです。(羽田図書館サイト

「英語多読はじめました!3年目突入編」 稲城市立中央図書館/高橋仁

今回のシンポジウム開催館の司書、高橋さんより3年目に突入した稲城市立中央図書館のこれまでの歩みが報告されました。多読コーナーの設置とほぼ同時に多読サークル「いなぎ多読らぶ」を図書館主導で始めたのは多治見図書館の例と似ています。それまで縁のなかった英語多読の担当となり、本の装備や棚の整備、イベント企画はもちろんのこと、サークルのロゴデザインや多読ノート、クリアファイルの作成までされた高橋「ジェラルド」さんからは多読愛があふれているように感じました。「いなぎ多読らぶ」にお邪魔すると、近隣在住のベテランのタドキストの支援に加え、複数の司書さんが一緒に本を読んだり参加者に本を紹介している様子が見られます。「図書館スタッフも一緒に楽しむ環境を今後も維持していきたい」「英語多読の普及に努めていきたい」と語る高橋さんをはじめ、スタッフの方々がすでにタドキスト(多読愛好者)になられていることが、今後ますます強みになっていくことでしょう。(稲城市立中央図書館サイト

「市立米沢図書館の英語多読」 山形県市立米沢図書館/岸順一

今年の4月から英語多読コーナーを設置したばかりの山形県市立米沢図書館は、英語教員だった頃から多読に関心を持っていた館長の岸さん主導で既に1500冊の多読本を所蔵しているそうです。はじめから恵まれたスタートを切れた背景には、岸さんの地域での人脈と周到な準備がありました。8月には初めての利用者交流会「英語多読サロン」を開催し、高校生から70代まで幅広い年齢層の参加があったそうです。その様子は地元の新聞でも取り上げられ、サロンに参加した記者がORTからの多読を体験した記事が掲載されています。グローバル化が進展する社会で、多読で地域の活性化をめざしている米沢図書館の多読支援が今後どのように展開されていくのか、注目されます。(市立米沢図書館サイト

公共図書館での日本語多読の取り組み(NPO多言語多読理事長 粟野真紀子)

NPO多言語多読では、日本語多読に関する活動として、①多読用図書の制作 ②日本語多読普及 ③多読による日本学習支援 を行っています。このうち、③については本があるところで行うのが筋ではないか、と考え公共図書館に働きかけました。新宿区立大久保図書館での多読ワークショップが実現し、現在も日本語学校学生を中心に参加があり、継続されています。大久保図書館の米田館長は「これは、図書館による日本語支援です」と明言しており、大久保地区の外国人居住者に図書館への広報を行っている様子はNHKのドキュメンタリー番組でも報道されました。日本に住む外国人の数は5年前の2倍になっており、今年の6月には日本語教育推進法が公布・施行されました。これからの図書館の多言語サービスは日本語支援がマスト、という粟野理事長のメッセージから、英語だけでなく日本語多読支援も全国の公共図書館に広がっていくことを願います。(新宿区大久保図書館サイト

アンケートより(抜粋)

  • 多読サークルの具体的実践報告が大変参考になりました。入口でルール(参加のしかた)を説明した紙を配る。出入り自由、日時設定、どんな内容をしているかなど、多くの図書館の工夫が学べてよかったです。
  • 他館の状況や取り組みなどを知る事ができて良かったです。英語ができないスタッフによるイベントなどを行うヒントなどサークル立ち上げについてなど詳しく伺えればよかったと思いました。
  • 葛飾中央図書館での「図書館友の会」がどんな役割を果たしているのかもっと知りたい/多言語のお話会についての話がもう少し聞きたかったです。
  • 多治見市図書館での本のポップや帯を利用者に作成してもらって本につけたり、展示がおもしろそうでした。
  • 公共図書館の多読サークルの盛り上がりがすごいなーと思いました。私は大学でのサークルで違う面もありますが、力をいただけたと思います。このような機会に多読を取り入れたいという方々と知り合うことができ、今後もサポートし合えていければいいなあと思います。
  • 自館の冊数、まだまだ少なかったのだなあと実感しました。
  • 日本語多読についてもう少し詳しく話が聞きたいです。
  • 皆、同じ悩みを抱えていると感じた。日本語多読に力を入れている図書館の状況を知ることができた。これから必要だと思う。日本語と英語多読のメンバーでの交流をすると、お互いに得るものがあると思う。
  • 色々な多読の活動を伺うことができて本当に有難かったです。これからの多読の活動をがんばってみようと思います/どの発表も大変参考になりました。素晴らしい時間でした/様々な館の取り組みが分かって参考になりました/他館の実施状況をたくさん知ることができて良かったです(他、多数)

東海地区から広がった図書館多読の輪が、関西へ、東京へ、そして東北地区と、少しずつですが、着実に広がりを感じる実践報告になりました。実践報告をしてくださったみなさん、そして初の試みビデオ通話によるライブ中継を快く引き受け、挑戦してくださった多治見市図書館、たじみ多読を楽しむ会(T.T.T.)のみなさん、ありがとうございました。

これからも図書館多読への取り組みを応援し、普及活動を続けていきたいと思う1日でした。
ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。

(NPO多言語多読 理事/小川、事務局/大賀)