6月23日(日)第46回「多読授業と読みもの作成」入門講座報告

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梅雨まっただ中の東京、東中野のNPO事務所で「多読授業と読みもの作成」入門講座が開催され、参加者12人が集まりました。

参加者の半数以上がアメリカから一時帰国された先生方でした。すでに多読を実践している先生、アメリカで自らも多読で日本語を身につけ、大量の日本語多読向け図書をそろえている東海岸での多読の拠点?マサチューセッツ大学の図書館司書の方も!

講師はNPO多言語多読会員・片山智子、同じく準会員・熊谷由香さん(南カリフォルニア大学)、そして筆者の川本でした。

【午前の部】

まず、自己紹介と簡単な参加理由から。

・授業で多読を担当することになったので。
・多読用の本のレベル分けについて知りたい。
・絵本のレベル分けについて知りたい。
・修士論文を多読でやりたい。
・多読用素材を増やすヒントがほしい

など。本のレベル分けに困っているという声が複数ありました。

1.多読について(10:45~11:30)担当:片山智子

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多読と聞いて、どんなことを思うかと言う問いかけに、「文字のシャワーを浴びる」「たくさん読む」という反応がありました。ここから、多読の基本の話です。

学習者一人一人が、自分で読みたいものを、楽しみながらたくさん読むのが多読、そのためにルールがあり、それを実現するための支援者の役目について話が続きました。

<多読の4つのルール>

① やさしいレベルから読む
・やさしいレベルに抵抗がある学習者もいるが、言葉がやさしいものがやさしいわけではない。
・絵をみてわかり、頭の中でストーリーが追えるようになる過程は大切。字面を追う読み方しか知らない学習者には経験してほしい。

② 辞書を引かないで読む
・辞書依存症をなくす。絵や前後の文脈から類推する力を育てる。これは、辞書を引かなくていい「権利」でもある。

③ わからないところは飛ばして読む
・わからないことにこだわらない’体質’をつくる。

④ 進まなくなったら他の本を読む
・最後まできちんと読まなくていい。わからないところを飛ばして読んだら、わからなくなったり、内容が合わずに読み進められない場合はすぐに止めた方が多読が進む。

<支援者の役目>
① 多読のルールを意識づけ、楽しくなるような雰囲気作りをする。
② 教えない。読み間違いを正したり、テストをしたりしない。
③ 学生の様子をよく観察し、ひとりひとりに対応する。声かけや、学習者の様子に応じて聞き読みを勧めたり、読み聞かせたりする。その学生に合った本を紹介する。ブックトークもするのもいい。学生同士で読んだものをシェアできる。

2. 多読実践例(11:30~12:30)担当:南カリフォルニア大学・熊谷由香

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2012年に多読と出会って読みものコレクションを立ち上げてからアメリカ初の多読クラス成立までの経緯、多読授業の規模や回数、評価の方法などについて話してただきました。アメリカでの多読普及の第一人者の熊谷さんの貴重なお話でした。

(昼休み)

3. 読みもの作成(13:30~16:30)担当:川本かず子

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①  NPO多言語多読執筆監修のレベル別読みものについて
実際の読み物を読んでもらいました。その後、なぜ私たちNPOがレベル別読みものを作ったのか、レベル分けはどうしたのかについてお話ししました。

②  母語話者用の一般出版物について
字のない絵本、その他の絵本、アニメブック、マンガ、児童書にも何冊か目を通していただいた上で、レベル別読みものと生の読みもの両方が必要なわけと多読の進め方についてお話ししました。

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そこで、いくつかの質問が出ました。

Q:字のない絵本や写真絵本を読む意味がわからない。
A:絵で物語を追う力を字のある読みものにも使ってほしい。字を読むというより「状況」を読む意識を持ってほしい。それが読む力を育てるのではないか。

Q:一般の読みものにもレベルをつける必要があるのか?
A: 字の多さ、絵をみれば物語がわかるか、漢字にルビがあるか、などで大まかなレベル分けをしたほうが読み手の助けになるのではないか。ただ、何が読みやすく、何が読みにくいかは、読み手の母語や文化背景などによるので、あくまでも目安でしかない。

③レベル別読みもの作成
3つのグループに分かれて次の3作品を作成していただきました。

グループA「キツネとカラス」レベル1
グループB「アリとキリギリス」レベル1
グループC「蜘蛛の糸」レベル3

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④  作品発表とフィードバック
それぞれ、みなさん、制限された語彙リストの中から言葉を選ぶのに苦労されていました。
また、レベル0では場面分けをしてからセリフを考えてもらいましたが、つい、一つの場面に二つの展開を入れてしまったり・・・。

「蜘蛛の糸」では、原作の味を損なわないようにどこまで言葉を書き換えて良いかの案配が難しいことを実感されたようです。

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⑤ まとめとアンケート記入

リライト、読みもの作成が楽しかったという声が多数上がりました。
そのほか、アンケートには「絵を読む力という話が印象的だった」「絵本を読ませる大切さがわかった」というコメントも見られました。

これをきっかけに多読を試される先生が増えることを祈っています。

(川本 記)