またまた、インドネシアの高校で日本語多読報告!

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今年の2月にインドネシアの高校で日本語多読を試みた報告が寄せられました。
さらに、別の高校での試みの報告が届きました。
以下、NPO多言語多読の正会員で、日本語パートナーズ派遣事業(国際交流基金)で昨年インドネシアの高校に派遣されていた徳永由佳さんの報告です。(国際交流基金のサイトでも報告されています)

インドネシアの高校で日本語多読を紹介 ー生徒にも先生にもー

会員の徳永由佳です。国際交流基金の“日本語パートナーズ”プログラムでインドネシアの国立普通科高校に半年間派遣され、3月末に帰国しました。高校では現地の日本語の先生のアシスタントとして活動しました。その中で、10年生(高1)のクラスと、地区の高校日本語教師会で日本語多読を紹介する機会に恵まれましたので、報告します。

写真1<写真1>ジャワ島の真ん中あたりにある国立スコハルジョ第1高校 多読の本を読む男子生徒

1.高校で多読

インドネシアに派遣されることが決まったとき、ぜひ高校で日本語多読の活動をしたいと思いました。それで、多読用のよみもの(レベル0~2の市販本全部)を持参し、さらにウェブサイトから無料で利用できるよみものをダウンロードして、時間があるときに少しずつ現地で印刷・製本しました。また、朗読音声を活動用のクラウドにまとめておきました。

準備は万端だったのですが、なかなか活動のチャンスが見つかりませんでした。日本語のクラブ活動がないし、授業のスケジュールに隙間がありません。先生の都合で授業が自習になっても、派遣プログラムの規則で私ひとりでクラスに入ることはできなかったのです。それでも、よみものを事務机の上にさりげなく置いておいたり、職員室でよみものの製本作業をしてみたり、通りかかる他教科の先生方とのおしゃべりのネタにしたりして、やさしい日本語のよみものがあることを少しずつアピールしていきました。そして、やっと2月になって、1コマの半分を使って10年生に多読紹介ができることになったのです。

10年生のクラスは語学コースで、卒業するまで日本語の選択授業が必修です。新年度は毎年6月に始まり、10年生は週に45分×3コマの授業があります。とはいうものの、多読を紹介した時点で、まだひらがなが完全に覚えられていない生徒も少なくありませんでした。生徒は教科書に併記されているローマ字表記に頼ってしまうのです(インドネシア語はアルファベットを使う言葉なので、親しみやすいのですね)。また、教科書は会話中心のものなので、文章を読む機会はほとんどありません。アニメを始めとして日本のポップカルチャーは人気がありますが、日本語の情報は動画や音声からに限られています。文字情報はインドネシア語なのです。

そんな生徒に「次の授業では日本語で本を読みますよ。日本から本を持ってきました」と予告したら「きゃ~!」という歓声が上がりました(女生徒のほうが4:1で多いクラスなので)。この歓声は「たこ焼きを作りますよ」と言ったときのものとは違って、「ええっ、本物?」「見たことないし」「触ったこともないし」「日本語で読むって、いったい?」「できるの?」といった期待と不安の気持ちの歓声だったようです。職員室に引き上げる途中、廊下で生徒に囲まれて、「本当に日本語のよみものか。教科書じゃなくて?」「本当に日本から持ってきたのか」「本当にみんなで教室で読むのか」「たくさんあるのか」などと質問攻めにあったくらいです。

先生と打ち合わせをして、多読活動の当日はまず先生に多読の目的とルールをインドネシア語で説明してもらいました。それから、教卓にレベル0のよみものを並べて「さあ、どうぞ!」すると、ふだんは何事にものんびりしている生徒たちが猛ダッシュしてきて、驚きました。

DSC_1887<写真2>クラスメイトと

これまでの日本語学校の経験では、一人ひとりが読むことに没頭して教室が静かな熱気に包まれることに胸が震えたものでした。ここでは、もちろん一人で集中している生徒もいましたが、友だちとお互いが選んだ本を見せ合いながら、いっしょに楽しんでいる様子が印象的でした。まず、写真や絵を指さして内容について話し、次に日本語を読み上げては内容と合っていたと言っては笑い、初めて知ったと言っては笑い、にぎやかです。母語で気軽に話せることで、リラックスして楽しめるようでした。また、少し文字が多いよみものを選んだが生徒には、先生が朗読を聞きながら読むことをすすめてくれました。この方法は、先生が特に気に入っていました。(注:『レベル別日本語多読ライブラリー』はアスク出版のウェブサイトから朗読音声がダウンロードできます。『にほんご多読ブックス』は大修館書店のサイトからパスワードを入れてダウンロードできます。まずはこちらをクリック

写真3
<写真3>スマホで朗読を聞きながら読む

結局、1コマ全部を使って、最初の(結果的には最後の、でもある)多読授業が終わりました。最後に「うちで読んでもいいですよ」と言うと、4分の1の生徒が自宅に持って帰りました。その後、時間を見つけては昼休みに教室によみものを運び、貸し出しをしました。この活動は帰国前日まで、2か月弱続けることができました。昼休みは45分しかありませんでしたが、返却する生徒と内容について少しおしゃべりしたり、気に入ってもらえそうなよみものをすすめたりして、充実した時間になりました。最後のほうには、レベル1のよみものも「おもしろくなかったら、がんばって読んじゃだめよ」と多読ルールを確認しながら紹介しました。

教室でみんなで読む経験を重ねること、読んでいるときに直接アドバイスすることができなかったのは残念ですが、多読ルールは好意的に受け止められたようでした。

2.地区の高校日本語教師会で多読

高校で多読を紹介することができたので、そのことを国際交流基金の日本語専門家で地区担当の先生に報告しました。この方は以前から多読に関心があるとおっしゃっていたのです。すると、地区の高校日本語教師会で活動紹介してもらえないかと、高校の先生のほうに打診がありました。それで、2月後半の教師会で先生が高校での活動を報告、私が小さな多読ワークショップを開くことになりました。ワークショップでは“日本語パートナーズ”の同僚も協力してくれました。

先生の報告の中では、生徒の読書記録に注目が集まりました。赴任校では朝の短い時間を読書に当てることがあり、その際に使う記録ノートがあるのですが、多読の時間に読んだ本について書いていた生徒がいて、2名分を先生が紹介したのです。先生方は生徒が日本語で読んだ本の内容が分かっている、ということに驚いていました。多読の支援者としては「わかる」ことは前提としてとらえていたので、この反応は新鮮でした。また、ここでも朗読音声を聞きながら読むという方法には、強い関心が寄せられました。

DSC_2036<写真4:生徒の読書記録。『桜』を読んで、桜は日本各地で開花時期が異なり、桜が咲くといろいろな行事があること、日本人は桜の開花を心待ちにしていることをよく理解し、心情に共感を寄せている。(これを書いた時点では)全部がよく理解できたわけではないので、また読みたいとコメントしている>

活動報告に続いて、持参したよみもの(レベル0~3)を先生方にも読んでもらいました。ふだんは先生方自身も日本語のよみものを楽しむ機会や習慣がないということで、多読という方法を体験するのはひとつのチャレンジだったかもしれません。先生方の読み方は一人で集中型でした。中には「縦書きは慣れてなくて読みにくい」という正直な感想も。時間が足りなくて残念ながら聞き読みは体験してもらえなかったのですが、出席者の総意としては「読めた!わかった!おもしろい!」でした。このよみものなら、生徒が読めたのもわかる、ということで、勤務校でもやってみたいという声がそこここから聞こえました。

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日本語専門家の先生からは、私が印刷・製本したよみものを参考に、日本語のよみものを教師会で作ってみるのはどうかと提案もありました。“日本語パートナーズ”の私たちはすでに任期が残り少なく、協力することができなくて残念でしたが、後任に期待したいと思います。

3.課題など
活動で使ったよみものは、ずいぶん迷ったのですが、全部持って帰国しました。プレゼントとして置いてくることも考えましたが、十分に活用してもらえるかどうかわからなかったからです。現地の先生がたいへん多忙であること、正規の授業の中で多読の時間が取りづらいこと、日本語クラブがないことなどが問題でした。それらの問題に対処する方策を立てておくには、時間が足りなかったのです。多読を体験して、多読はおもしろいし日本語学習の役に立つと感じた人が、よみものを用意するところから活動を続けてくれたらいいなあと、ひそかに考えてもいました。

海外で紙のよみものを手に入れるのは大変です。費用もかさみますし、管理にも手がかかります。インドネシアの高校生は日本人以上にスマートフォンを使いこなしていました。これからは電子書籍化の必要性が高まるでしょう。しかし、私が持参したよみものを生徒たちは「本物の日本製だ」と言って、うれしそうにページを繰っていました。その気持ちも大切にしたいです。

帰国後、うれしい連絡がいくつかありました。
ひとつは高校の日本語の先生からで、こちらのホームページにアクセスして、NPO多言語多読版の『にほんご多読ブックス』を買ったとのこと。また、ウェブサイトに無料で公開されているよみものを学校で印刷して製本したそうです。

写真8

<写真8:学校の職員室で印刷・製本されたよみものの例 NPO多言語多読のHPからダウンロードできます>

多読を経験した10年生の生徒からは、自分でもっと読みたいからよみもののページをぜんぶ写真に撮って送ってほしい、というメールが届きました。残念ながらそれはできないと返事を送り、無料で読めるよみもののサイトを紹介しました。
さらに、地区の日本語教師会に出席していた“日本語パートナーズ”の一人が、赴任校でやさしい日本語のよみもの作りに挑戦していたこともわかりました(国際交流基金のウェブサイトに記事が載りました)。

活動の期間も時間もごく短いものでしたが、インドネシアの都市部ではない地区で高校の生徒と先生に日本語多読を紹介することができました。日本語多読がよく理解されて、活動が広がっていきますように。そのために、有効な支援の方法を考え、工夫していきたいと思っています。

(正会員 徳永由佳)