6月20日(土)タイ・バンコクの「にほんご多読セミナー」報告その1

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6月20日(土)、タイ・バンコクで「にほんご多読セミナー」を行いました。NPO多言語多読とChild Connect教育センターの共同開催です。
参加者は38名。内訳は日本語教師57%、(邦人対象)幼稚園教諭、保育士が34%、その他(主婦、学生、国連職員)9%でした。幼稚園の先生が多かったのは、Child Connetが幼稚園の先生と保護者をサポートする教育センターであるという事情から。また、なぜこうした機関と共同開催かというと、このセンター長は私の日本語学校時代の教え子なのです。18年間(!)ずっと誘われていたのに行けなかったバンコクに、こうした最高の形で行ける機会がついに巡ってきたというわけです。

さて、セミナー報告です。

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多読について知っているどうかをまずみなさんに聞いてみました。知らないという方がけっこう多かったです。また「レベル別日本語多読ライブラリー」も知らないという方が半分ぐらい。ふむふむ。セミナーしがいがあるってものです。
そこで、とりあえず、語彙や文法を積み上げていく従来型の教え方、学び方を離れてみてほしいと訴えました。これまで外国語の習得がうまくいかなかったとしたらそれはなぜか。もし、今、新しい言語を学ぼうとしたらどんなやり方ならできると思うか、教師としてではなくて一学習者として考えてほしいと・・・。
そして、「多読」についての説明に入りました。
読む力は、読みながらでなければついていかないのではないか。ひとりひとりが読んで、絵=場面=状況とともに言葉を体に溜めていく経験を積むことが大切ではないかという話をしました。そのための多読のルールの説明、一番大切なのは「楽しく!」、そして支援する側の役割・・・と話は続きました。
実際に、多読をしている教室の様子、学生の様子も動画で見ていただきました。

その後、サイアム大学で多読授業実践をされた山口ひとみさんが報告をしてくれました。
山口さんは以前NPOの講座で英語多読も実践されています。最初は、読書習慣のない学生が本を読んでくれるかどうか心配だったそうですが、意外にもどんどん読んで、用意した本がなくなりそうな勢いだったとか。「ジョンさんシリーズ」が人気だったそうです。これからも実践を続けていきたいということでした。

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ここで一旦休憩。

再開後は、英語多読体験。「絵を読もう!」
「文字」を解読するのではなく、絵=状況から入る大切さについて、字のない絵本を見て感じてもらいました。
さすが幼稚園の先生が多かったせいか、反応がよく、絵本を見る目がぱっと輝いたのが印象的でした。
さらにOxford Reading Treeを手にしてもらい、字を隠して絵だけ見てもらいました。できるだけ細かいところまで、というと、「隣のおじさんがのぞいている」「メガネ」「骨」と声が上がりました。
五味太郎の「どいてよ へびくん」の韓国語版は、まず絵、そして音声、そして最後に文字を見てもらいました。同じ言葉の繰り返しなので、一冊終えると、全く知らなかった韓国語が体に馴染みます。
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最後はQ&A 主なやりとりを紹介します。

Q 教室内で読ませずに、家で読んではいけないのか?
A すでに辞書など使わず、読書ができているなら授業内で多読をする必要は全くない。ただ、そういう学生はあまりいないし、日本語の本を読んだことがない学習者は自分で読める本を見つけるのも難しい。最初はやはり教室内で、多読の読み方を指導したい。家では読まないという学生は多い。教室で読む時間を確保することは必要だと思う。また、みんなで読んでいると、お互いによい影響を与え合うことが多い。読まず嫌いの学習者も読み始める。

Q 子どもに「書く」ことを教えたいが、「読む」は「書く」につながるか。
A 読んだ経験がないと書けないと思う。読んだものに刺激を受けて書きたくなることは多い。多読をするうち、書きたい気持ちが刺激されて、お話を書いたという海外からの報告もいくつかある。楽しく読んでいけば、楽しく書くことにつながるはず。

Q 教師がリライト教材を作るとき、学習者の知っている文法文型や語彙にこだわって作った方がよいか。それとも未知でも自然な言葉遣いがよいか。
A 自然な言葉遣いが望ましいと思うが、既知の語彙や文法と未知のものとのバランスをよく考えなければならないと思う。私たちが作っている「レベル別日本語多読ライブラリー」は語彙と文法をコントロールして作っている。最初は、学校で学んだ学習者を念頭に置いていたため、未知の語彙や文法を入れないようになるべく読みやすく作った。でも、このようなgraded readersばかり読んでいると、未知の言葉が多い生の読みものになかなか移れなくなることもわかってきた。今では、低いレベルのうちから、絵本などを並行して読むことを勧めている。また、私たちの多読読みものも少し語彙や文法は逸脱しても、絵で補いながら自然な言葉を採用していきたいと思っている。

Q どのレベルから多読を始めたらよいか。
A ひらがなを読めて、いくつかの挨拶がわかるなら、レベル0が理解できることがわかっている。だからかなり最初の段階から多読はできる。ただ、継続してやってほしいので、どのくらい本を用意できるか、どのぐらい時間をとれるかを見極めて始めたほうがいい。初級後半ぐらいだと学習者の意欲が高いので多読がうまくいくことが多い。

17:00
ふうっーとため息がでてしまうくらい4時間という長ーいセミナーが終わりました。
みなさん、熱心に聞いてくださって、ありがたかったです。
(次回からセミナーの時間や休憩にはもう少し配慮します。すみませんでした!)

その後、残った10名で夕食に出かけました。
おいしいタイ料理をいただきながら、タイ文化やタイの日本語教育事情の話で盛り上がりました。みなさん、多読授業に興味をもってくださったようですが、カリキュラム上、取り入れることはなかなか難しそうでした。
山口さんを中心に無理のないペースで勉強会を始めたら?という提案をしましたが、さて、どうなるでしょうか。
後日談は、次回!

(粟野)