8月3日第3回多読支援セミナー 分科会(日本語)報告

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遅ればせながら、8月3日の午後の日本語部会の報告です。

今回、参加された方の内訳は、リピーター3分の2、初参加が3分の1。
初めて参加される方には、多読や多読授業について一から知っていただきたい、でもリピーターの方には新しい話もしたいし、みなさんの実践についても聞きたい。いつも、このバランスに悩みます。今回は悩んだ結果、実に7年ぶりぐらい?に絵本のレベル分けワークショップをやってみることにしました。

私たちがこつこつと作ってきた多読用読みものは、ようやく100冊を超えて、なんとか多読授業を始めるスターターキットぐらいにはなったと思うのですが、英語多読同様、graded readersだけ読み続けていると、どうも居心地がよく(?)、なかなか生の本へ移行できない人が出てきてしまいます。そうならないためにも、初期の段階からGR以外の本を読み慣れていくことはとても大切なことだと思われます。そこで、絵本の登場です。絵が主体の絵本を見ながら、日本語のリズム、生き生きとした幅広い語彙に触れる「冒険」を学習者にもっとしてもらいたいーーーみなさんと一緒に、「難しい」「子どもっぽい」と思われがちな絵本を多読という視点からもう一度眺め直したい、と思いました。

まず、国内大学、海外大学、国内日本語学校などと教えている教育機関別に6つの島に分かれて座っていただきました。机の上には15冊ほどの絵本。それを、みんなであれこれ相談しながら、レベル分けをしていきました。我々が作っている多読用読みもののレベルに合わせて分けるのですが、基準は語彙や文法というわけではありません。絵と文字の割合、絵を見るだけで話の展開がわかるかどうか、繰り返しが多いか、活字の大きさ、など「わかりやすさ」をあらゆる要素を考慮して総合的に判断するのです。そして、これには正解もありません。どうして、そう思うのか、お互いにいろいろな観点や考えを出し合うことこそがこのワークショップの意義です。

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わいわい楽しみながらのレベル分けが終わった後、それぞれの班から「お勧めの絵本」をピックアップして紹介してもらいました。

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なかなか魅力的な絵本をみなさん選んで下さいました。その詳細については、多読フォーラムでも紹介してありますので、興味のある方はご覧ください。さて、その本が実際に、学習者にどう受け止められるのか、いろいろな学習者に読んでもらって意見を聞きたいところです。

その後、休憩をはさんで、多読授業実践をしていらっしゃる方から簡単に報告していただきました。
日本語学校で選択授業としてやっている、あるいは読解授業の一部に取り入れているなどの報告、新学期から正規のカリキュラムの中で多読クラスを始めるというアメリカの大学の先生、日本語初級者にまず、本に興味をもってもらう工夫をされている先生のお話、学校でオリジナル多読教材を作っているという先生もいらっしゃいました。

最後は、班の中で、自己紹介を兼ねて多読授業実践の報告をしたり、疑問、質問を出し合ってみんなで考えたりの時間をとりました。一部を紹介すると・・・。

<ボランティア教室>
・本を貸すことが難しく、多読指導しにくい。
・学習者のレベルや熱意などが、うまく揃ったときは多読指導は効果を上げた。読んだ本を薦め合うブックトークもできた。
・同じ学習者が毎回来るわけではないので、多読指導はしにくい。

<日本語学校>
・子どもが英語多読をやっていて、効果がはっきりと出ている。日本語の授業でもやってみたい。しかし、カリキュラムがぎっしりとつまっていて、なかなか取り入れられない。
→短い時間でも、一回だけでも、チャンスがあったら、とにかくやってみてはどうか。そういう経験を積みつつ、広げるきっかけを待つ。
→専任や校長などカリキュラムを組んでいる人に良さを知ってもらう。
・絵本をおもしろがらない人にはどうする?
→ノンフィクションなどその人が興味を持ちそうなジャンルを試す。
→無理に絵本を勧めなくてもいいのでは?
・多読授業を行うと他の先生から、不公平だと言う声が上がる(「教師が教えていない」と思われるため)ことがあるが、多読を実践されている方は、そのような批判に対してどのように対応しているのか知りたい。

<国内大学>
・読後感を一行ぐらいで書かせているうちに、一言感想を言うようになる。その時に、教師が文法、助詞などの間違いを我慢して訂正しなければ、次第に学生達は感想、ブックトークなどをスラスラ言えるようになってくる。多くの学生が普通の授業では考えられないくらい発話量が増えてくる。
・初級読解クラスで教科書を使っていたが、学生が喜ぶような授業ができなかった。教科書の替わりによむよむ文庫を授業で使ってみると、皆が楽しんで読解の勉強ができるようになった。

<海外大学>
・多読は、自律学習につながるものとしてとても効果があるものだと思う。
・多読では、いわゆる読解テストをしないので、「どうして内容が読めているのかわかるのか」という先生がいる。
・学生にfacebookで呼びかけ、市立図書館で課外に多読をやっている。学外の日本語学習中の社会人も参加している。しかし、最近、場所が狭くなって存続が危ぶまれている。

<年少教育その他>
・レベル差のあるクラスに適しているのではないか。
・各機関に、「よむよむ文庫」はたいていあるが、使い方がわからないので宝の持ち腐れになっている。
・多読をどのあたりの段階で導入するのがいいのか
→ゼロの段階から導入できるが、その場合は人手が必要。一緒に読んであげるなど、かかりきりになれるならできる。現実的に、一番やりやすいのは初級後半くらいから。

今年は昨年の反省を活かし、話し合いに時間を長目にとったつもりでしたが、終わってみれば、やっぱり時間が足りなかった!!!
来年もまた、みなさんとの意見交換を主体にした会にしたいと思います。

(粟野)